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第249話 激おこ智ちゃん

「いや、それは、ちょっと、だめでしょう。さすがにこれから連絡して了解は取れないよ。」


「だから、何も言わずに行けばいいんじゃない。なにより、西村さんだっけ、一人で会うの、いやじゃないの?」


「それはそうだけど…。いや、いや、いや。やっぱりおかしい。幼馴染が会うのに、それは…。」


「慎吾君、だよね。その彼女の紹介。でも光人も西村さんもその彼女さんをよく知らない。」


「だから紹介をするんだろう。」


「だったら、そこに私が入って、こちらも紹介してくれていいよ。」


「だから、おかしいだろうそれ。ただの友人を紹介って、さ。」


 その時に伊乃莉が、少し落ち込んだように感じたのは気のせいか?


「じゃあ、彼女として紹介してくれても、いいよ?」


「伊乃莉、どうしたの?そんな事言うやつじゃないだろう?本音は?」


 またなんか拗ねたように肩をすぼめてこっちを見てる。

 ご丁寧に口を突き出すようにして…。

 何がしたいんだ、伊乃莉さん!


「別に本音って…。私も助けてもらったし、なんか光人が困ってそうだから…。それと、出来れば光人の家の仏壇に手を合わせたいなって、思って。それに…。」


「それに?」


「光人のことを知っている人から、光人のことをもっと聞きたい。」


(おい、光人!何ナチュラルに伊乃莉ちゃんを惚れさせてんだよ!)


(俺、別に何もしてない…。)


(これだから自称非モテ陰キャなんてやってる奴は…。よく思い出せ、光人!まず会った時に見惚れて、しかもそれを誤魔化さずに誉めてだ。で、伊乃莉ちゃんが隠していた苦悩を親身になって寄り添った挙句、ナンパから助ける!これだけ連続攻撃すりゃ、毒舌高嶺ギャルだって、落ちるってもんだろうが!)


 親父に素で怒られた。


「それに、幼馴染が彼女を紹介するなら、光人も彼女を紹介するってことでさ。」


「誰が誰の彼女だって?」


「「俺の彼女に手を出すな!」って格好良かったなあ、光人。」


「うっ、そ、それは…。」


「私、光人の彼女でしょう?」


「それは、あの時の状況で、それが一番簡単にナンパから助けるためで…。」


「だ・か・ら、今日は私、光人の彼女‼」


 そう言うと立ち上がって、伊乃莉は俺の左手を抱きしめるように組んできた。

 あやねるほどではないが、静海よりもしっかりとした膨らみが俺の左腕に押し当てられた。


「それとも、光人は私が嫌い?」


 まあ、ずるい女!

 こんな風に腕を抱かれ、胸の感触が分かるくらい密着し、上目遣いで見上げての、この言葉。

 しかも可愛いメイク中。

 連れていく以外の選択肢が消えた瞬間でした。


 つーか、何考えてんだ、この女!


「当然、嫌いではない。でもあやねるの方が好き。こんな綺麗な子は俺にはもったいないよ。」


「いろいろ人をディスってる気がするんだけど…。まあ、触れないでおきましょう。それはそれとして、その幼馴染の場には連れて行ってくれるよね。」


 今度はきつめの要求。

 緩急自在ですか伊乃莉さん!


「わかったよ。はあー、何がしたいんだか…。これから智ちゃん、いや、西村と合流してから慎吾に会いに行くんだけど、どう説明すればいいんだか…。」


「ああ、そんなこと?それは超強力なコミュニケーション能力を持つこの伊乃莉様がどうとでもできるから、安心して!」


 強烈なウインク!


 伊乃莉が満面の笑顔で俺に向かった。


 もう、この笑顔見られただけで、いっか。


 俺は思考を停止して、流れに身を任せることにした。




 今朝がた、西村から連絡があって、12:45に津田川駅のホームで待ち合わせになった。

 いきなり慎吾と待ち合わせ場所に行って、榎並虹心と鉢合わせは辛いだろうという事で、先に智ちゃんと待ち合わせになったわけだが…。


 今、その場所に不穏な空気が流れている。


「コウくん、これから慎吾君の彼女のお披露目だってことは、分かってるよね。」


 智ちゃんは静かにそう言った。


 最初に智ちゃんが俺を見つけたときは、結構笑顔で手を振ってくれたんだが…。


 俺の後ろから伊乃莉がついてきてたけど、あれはおそらく、赤の他人で偶然俺の後にいた綺麗な女性くらいの認識だったんだろうな。

 伊乃莉と何度か学校で顔は合わせている筈だけど、直接喋ったことはないはずで、しかも今日はメイク(ver.3)してる。

 とてもキレ可愛いお姉さんという雰囲気だから、まさか俺と一緒に来た、とは全く思ってなかったようだ。


 で、「よお」なんて言って、後ろの伊乃莉を紹介しようとした刹那、ゴゴゴゴオォォォという効果音とともに、一気に不穏な雰囲気が俺たちの周りに展開した。


 そう、まだ紹介する前に、超不機嫌で低音の智ちゃんの言葉を頂いたという次第。


「そ、そりゃあ、分かってる。その為に、今、ここに居る。」


「だったら、その女は何なのよ。その化粧の濃い女なんか連れてきてどういう事‼」


 思った以上に、怒ってる。


(振られて、落ち込んで、でもやっと二人きりで会えるかと思ったら女連れ。そりゃあ智ちゃんでなくても、キレるね)


(なんだよ、その二人きりになれるって。いいとこ5~10分ってとこだろう)


(その5分が欲しかったんだろう、智ちゃんは。分かってやれよ、この切ない女ごころ)


 くそー、これじゃあ、埒が明かない。

 ここは強コミュの伊乃莉さんの出番だぜ!


 そう思って後ろを振り向くと、あまりの智ちゃんの剣幕に圧倒されている。

 というか一歩後退している。


 顔が少しビビッて、「これ、無理」というアイコンタクトを送ってきた。


 そりゃないよ、伊乃莉さん!


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