第24話 倒れた理由
(いつからここに居るんだ)
(えっ)
(いつからここに、俺の頭の中にいるかって聞いてんだ)
(あっ、聞いちゃう?それ聞いちゃうんだ)
(当たり前だろう、ここんとこずーと変な夢で悩まされてんだ。どうもこの件が絡んでそうだからな。)
(別にいいんじゃん、いまさらそんなこと知らなくても)
(さっき、今朝のお袋との会話、しゃべってたよな。)
(なに、そんなことあったけ)
(しらばっくれんじゃねえよ。その時の俺の心の声をご丁寧にリピートしただろうか)
(ハハハハハ、乾いた笑い)
(ト書きまで言わんでいい。しかも二戸のことまで引っ張り出してたよな。なんで俺の告白なんか知ってんだ)
(父親である私に息子のことで知らないことはないんだよ)
(よくそんな「わたくしに隠し事なんてできると思ってるの」みたいな、ツンデレヒロインみたいなこと言えるな)
(ラノベにはまってたっけな。そのツンデレヒロインって誰の事)
(いいから、そんなこといいから。親父が死んでからのことをしっかり俺に話せ。でないと気が狂いそうだ)
(確かに光人とすれば気がふれて、宍倉さんに嫌われたくないよな)
(なぜそこで宍倉さんが出てくる)
(そうだよな、光人はこれから宍倉あやねるとあんなことやこんなこと、あはは、うふふと楽しいことあるんだもんな)
(てめえ、いい加減しろよ。それと軽々しくあやねるとか言うなア~~~)
(おお、魂の絶叫。まあ人の恋路を邪魔する者は、馬にけられて死んじまえっとも言うしな。死んでるけど)
(そこで微妙な自虐ネタ入れるな、悲しくなるだろう)
(まっ、からかうのはこの辺にしとこうか。久方ぶりに、光人と話してると面白くて面白くて)
(やっぱりからかっていやがったのか)
(死んじまった父親のせめてもの楽しみと理解してくれると嬉しいなあ)
(頭ん中に居続けて、こちらの行動どころか思考まで読み取られている立場で、その意見に理解は示せない)
(うわ、つめたいお言葉)
(だから、いつから俺の中に居るんだよ)
(死んですぐ)
(はっ?)
(はねられて、意識亡くなってすぐ、お前の脳内で意識を取り戻した。)
(どういうこと?)
(三途の川を渡った記憶もないし、よく臨死体験で言われる花園やらとも見ていない。トラックに跳ねられて、アスファルトに叩きつけられて、すんげー痛みがあったと思ったら家で風呂入ってる光人の頭の中にいて、あったかい湯舟は気持ちいいなあと思った。)
(それは、一度魂が体抜けて間違えて俺のとこ来たって感じ?帰る場所間違えたみたいな。)
(それはない。あの時点で私の脳は強い衝撃で機能を失っていたし、心臓は完全に止まっていたからな)
(やっぱりなぜこうなったかはわからないのか)
(私が最後に見た映像は知ってるだろう)
(まさか、あの夢)
(わたしはずーっと光人と意思疎通したかったんだが。私はお前のことは見ていた。でもお前は俺に全く気付かなかった。何とか私の存在を知らせようとしていたんだ。その一つがお前には悪夢に思えたあの映像だ。そして、今、やっとお前と話すことができた。)
(あの夢にそんな意味があったんだ。いや、ちょっと待て。あれ、親父の死ぬときの話だよな)
(そうさ、死ぬ瞬間の最後に見たものさ)
(教えてくれ、あそこにいた女の子のこと、何故あの子が入学式の演壇の子が夢に出てくるんだよ)
(もう、解っているんだろう、光人。あの演壇の美しい子が、夢で驚愕していた子と同一の意味を)
(あの事故現場にあの子、生徒会役員がいた)
(そう、柊夏帆、日照大千歳高校3年A組、生徒会書記はあの事故現場にいたんだよ)
(親父はあの子、柊夏帆先輩のことを知っていたのか)
(そうだな、知っていると言えば知っている。)
(なんで親父が知ってるんだ。死んだ直後から俺の中にいたんだろう)
(そうだな。このことも含めてお前には知っておいて欲しいものもあるしな。少し、情報を共有しておくか。)
親父の意識が、一度深く沈み込むような感じを俺は受けた。
(まだ、そこまでは無理か。仕方ない、じゃあ、話すしかないか。)
(親父、今、何かしたのか。変な感じがしたけど)
(いや、ちょっとな。まあいいだろう。まず、あの柊夏帆があの現場にいた理由だが)
(それも知っているのか)
(柊夏帆は私が助けた浅見蓮の従兄弟にあたる。あの日、二人はあの近くにある浅見蓮の家から駅の書店に買い物に行っていた。ガード下の信号が青になった時に蓮君は柊夏帆の手を振り払い道路に出て、事故にあった。)
(なんでそんな詳しく知ってるんだ、親父。本当に俺の親父、白石影人なのか)
(光人、お前、なんで柊夏帆の姿を見たときに意識を失ったか解るか)
(そんなことより、答えろよ!お前は本当に俺の親父なのか)
(私が白石影人であることは、ママ、白石舞子との話で証明したはずだ。もう一度訪ねる。なぜ、お前は倒れたんだ)
(わかるわけないだろう、あの人を見て急に頭の中にいろいろなものがあふれかえるようになって、)
(たぶん、病院、まあ、ママの川上診療所で見てもらうことになると思うが、原因は過労だ)
(えっ)
(睡眠不足による過労だよ)
(いや、確かにあの悪夢のせいで眠りは浅い感じだけど)
(お前が意識のない時、例えば寝てる時などは、この体、私が動かすことができるんだ)
(はっ、何言ってんの、お前)
(光人、お前が寝てるときに、いろいろ私が動いていたんだ)
(おい、人の体を何だと思ってんの)
(この2か月で自分の記憶にないことを他人や、ママ、静海から言われたことないか)
(そういえば、思い当たる節がある。事故の処理がどうとか、損害賠償とか。そういえば、いじめ問題の時にお世話になった鶴来弁護士のことも言われた気がする。静海もあれだけ俺のこと嫌ってたのに、お礼まで言われた。浅見蓮君の親御さんとの事だけだと思ってたんだが)
(ああ、あの時のお前は立派だったな。浅見さんに対するあの態度に、パパ、泣きそうになったよ。さすがにあの時はお前寝てないから、何も出来なくて心配だったんだけどな。いや、えらかった)
(あ、いや、それほどでも…)
(高校の時の友人の佐隈に連絡して、 鶴来さんにまた頼んだんだが。それと中学の時の友人の富士川にも話しとおしてな。あいつ、今親父さんの後次いで富士川運輸の社長なんだが、運送業界のことを聞いてみたんだ。事故加害者大園君の大佐通運輸についてな。あそこはノルマを運転手にかけて、かなりのブラックだから)
(ちょっと待って。人が寝てる間にそんなに無理させたの、俺の体に)
(加害者の大園君を相手にして示談交渉や、裁判してたら時間がかかりすぎるしな。大佐通運輸に対しての負荷をかけてある程度の額を引き出したほうが早い。それでなくとも舞子に負担がかかりすぎていたから。お前も公立入試どころじゃなかったろう。2人も私立に通わせるとなると経済的な安心感は絶対に必要だった。)
(親父、そんなに積極的なキャラだっけ)
(場合による。基本的にはゆっくりしたいと思っていた。だが、自分が死んでしまって、お前たちが心配でたまらなかった。できることはやっておかないと思ってな。この状態がいつまで続くかわからなかったから、やれることはお前の体を酷使してでもやっておかないと、と思っちまった。証券口座の暗証番号や、銀行口座の通帳をまとめたり。それこそ売れる株は売りに出し、証券口座から銀行口座に移したりしたよ。でも、こうやって過労で倒れたが、若い体力は凄いことがよく分かった)
(この状態ってもう終わるってこと)
(これもわからないとしか言えない。あらかたの処理が終わったんで、何とか光人とコンタクトを取ろうといろいろやってる最中だったんだが。まさかあの子、柊夏帆がトリガーとなるとはな)
(わかったよ、いろいろと。でも柊先輩のこと、どうやって知りえたんだ、親父)
(まあ、それは別件でな。あそこにいたはずのあんな綺麗な女の子のことがどこにも出てこない。私はあの場所で彼女を見ていた。浅見蓮君と関係がある筈なのにあの場にいないような扱いだ。興味があってな。鶴来弁護士に頼んで、彼の知り合い、和倉さんを紹介してもらって調べてもらった。)
(和倉さんって、何者なんだ)
(鶴木さんが調査を依頼している、和倉興信所の所長で、元警視庁捜査一課の刑事って話だ。優秀だよ。浅見蓮君の周辺調査ですぐに身元が分かった。写真を見せてもらって確認した。当然だが、その依頼の調査や、確認は白石光人名義でやってるから、話が合わないことがないようにな)
(そりゃ、俺の体、おかしくなるよな。しかもいくら意識が親父でも、脳を使ってるんじゃ、深い睡眠はとれないって訳だ)
(短時間でそんなことをやる中学3年生を見れば、みんなお前を見る目は変わるさ。今はまず休むことだ。ゆっくりとな)
(ああ、そうする。親父、まだいろいろあるんだよな。また、聞かせてくれ、逝かないでくれよ)
(ああ、おやすみ)
俺の意識はまた遠ざかって行った。