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第234話 山村咲良 Ⅰ

 ここ数日、いや、入学してからずっと、咲良は気に入らなかった。


 シャワーを浴び、お気に入りのモフモフの上下に着替え、自分の部屋に入る。


 前は脱衣場で髪を乾かしていたのだが、最近は自分の部屋で乾かすようになった。

 それもこれも父親と極力顔を合わせないため。


 平日であれば、帰ってくるのが遅いので、一緒に食事を取ることもなく、脱衣所で髪を乾かしても問題はない。


 だが今日は土曜日だ。

 すでに父は家にいて、一緒に食事をとる羽目になった。

 決まって、何かしらの小言を言う。

 言ってることは間違っていないが、その言い方一つ一つにイライラが募ってくる。


 思春期特有の反抗の態度と言えばそれまでだが、自分の受験の失敗を「それ見たことか」と言われ、あからさまに冷たい目で見られたことは、本人は認めたくなかったのだが、確実に傷ついていた。


 それまでは、かなり甘やかされていただけに、その父の態度は咲良自身にとって、強烈に印象づいている。


 中学までは、この美貌とスタイルで、敵は存在しなかった。


 男子は全員、私に惚れていた。

 一部例外がいて、悪口を言っていた男子もいたとは聞くが、自分が相手にしないことに対する嫌がらせみたいなもんだろう。


 女子に関しても、私にはむかってきた先輩に、私を好きな男子と、私に憧れる女子を使って、あらぬ噂を振りまき、それを私が否定して本人を庇って見せたら、案外簡単に転んだ。


 ただ、受験は思うようにはいかず、もっと上の高校を受験したが駄目だった。

 教師にはやめておくように言われたが、そんなことをあんなアラフォーの独身女に言われたくはなかった。

 が、結果はその教師の言う通り。

 大学の付属がいいという言葉に、この高校を勧められた。

 私は完全に滑り止めで、来る気なんかなかったけど、他が落ちて、仕方なかった。

 母親は泣いて喜んだけど、父の目は冷たかった。


 私だって、こんな高校に来るのは嫌だけど、他に行くところがないんだからしょうがないじゃない。

 大学はこの上の日照大学になんか行く気はない。

 本気を出さなかったから進学クラスだけど、2年からは特進クラスに進んで、もっと私に似合った大学に行くからそれでいいでしょう。


 さすがにそこまで父親に言う気はなかったので、おとなしく入学式を迎えた。

 こんな高校に私を超えるような女子がいるわけがない。

 気楽に女王様にでもなろうかしら。


 そう思っていた矢先、入学式の生徒会役員とかいう奴にとんでもない女がいた。


 柊夏帆。


 ファッション誌JAの読者モデルとか気取っている上級生だ。

 だが、結構憧れて見ていた自分が悔しい。

 まさか同じ高校だったとは…。


 さらに次の日の部活紹介でとんでもない光景を見てしまった。


 同じく読者モデルの狩野瑠衣。


 こいつにいたっては180㎝を超える長身と長い手足、そしてスタイルがいい。

 顔は別に特別いいわけじゃないけど…。

 そして、あのファンの人たちの熱狂ぶりは、生半可な噂の類では、太刀打ちできなさそうだ。


 何とかクラスでは噂好きの女子を手ごまにできそうだけど、あのクラスでも白石とかいう奴が、全国版のニュースに出るような奴らしいし、しかも、なんか女子が群がってる雰囲気。

 あいつをうまく取り込めば、私のクラスでの立ち位置も安泰かもしれないけど。


 ああ、なんかむかつく。


 生徒会やら女子バスケ部やらで、学校の中でも目立てないどころか、クラスでも置いてけぼり食ってるみたいじゃない。


 まあいいわ、週明けの学力テストは、ちょっと本気出すわよ。


 あとは、親睦旅行か。

 あれで、クラスの男子は最低限、私を意識するようにして、あとは女子を数人、私に憧れるように仕向けないと。

 中学のように楽しい想いが出来なくなっちゃうしね。


 私は自分のPCを立ち上げて、ここまで起こった事象や、その時のヒトの動きを可能な限り書き出した。

 結局は情報をある程度持ってないと、対向の手段も出てこないもんね。


 微妙に宍倉って子はうざいな。


 それと西村智子か。

 変に陽キャぶって、いろんな人に声を掛けている。

 顔は不細工なくせに。


 さすがに読モの二人の個人的な情報はないけど、雑誌を読めばある程度は推測できるかな。

 生徒会に入るというのも手だけど、あんな雑用ばかりの会に入ったら、せっかくのこの私の輝かしいスクールライフは時間に追われて、バッドエンドだからな。


 やっぱり、あのスポットライトを浴びるのが、私には似合ってるな。

 うん、演劇部が一番なんだろう。

 とりあえず、中学の時も助っ人でヒロインやってたし。


 今日なんて、健康測定やってたけど、やっぱりそんなに目立つ子たちはいないようだった。

 私が一番!


 にしても、今日の午後なんて暇なんだから、誰か男の子から誘われるかと思ってたけど、誰も声を掛けてこなかった。

 きっと、みんなシャイな子が多いのだろうな、この高校の男子どもは。

 もしくは私が高嶺の花過ぎて、声を掛けるのもおこがましいとでも思ってたかな。


 明日はちょっと気晴らしに、洋服でも買いに行こう。

 きっと、街ゆく男性の視線はくぎ付けって感じかしら、フフフ。


 スマホから着信音。

 何かのメッセージがきたらしい。


 開くとLIGNEに知った名前。

 中学の時に熱心に私にアプローチしてきた男子だ。

 今はここらで一番の高校に通っている。

 頭はいい。

 でも見た目が、ヲタクを地で言ってる感じなんだよな。

 よくわかんないけど、明日、暇なら会えないかですって。

 ふふ、やっぱりこういうのって気持ちいいわ。

 冷酷に振るのもいいし、約束して行かないってのもいいかも…。

 お金持ちの子なら服の一つでも買ってもらうとこだけど。


 さてどうしようかしら。

 とりあえず、予定はあるけど、どうしようってな感じの返信を送った。


 まあ、明日起きてから考えようっと。


 お休み、私の下僕たち。



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