第23話 押しかけてきた親父
(ふー。やっとこちらの意識に気づけたか、光人)
(・・・)
(おい、光人!もう解っているだろう)
(・・・・・)
(何を躊躇ってる?私の存在はかなり前から、うすうすかんじていたはずだろう)
(・・・・・・・・・)
(めんどくせいやつだな、いい加減返事くらい返せ!)
(・・・・・・・・・・・・・)
(光人、おい、光人!)
(・・・・・・・・・・・・・・・・・)
(判った、そっちがそのつもりなら、こちらにも考えがある。ここに住み着いてから知ったお前の黒歴史、お前が思い出したくない出来事を並べていくぞ)
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
(まずは、おっ、これだろうな、お前のいじめの発端になった、二戸詩瑠玖へのこくは)
(うっせーわ!)
(お、Adoの曲が鳴り響いてんな。それよりも、やっぱり、告白の言葉を)
(うっせーて言ってんだよ、くそ親父!人の脳内で何楽し気にしゃべってんだ。もうあの世に言ってんじゃねーのかよ!49日、とっくに過ぎてんぞ)
(もうそんなに嫌がるふりすんなよ。親にツンデレしたってしゃあないやん)
(ふりじゃねー!嫌なんだよ、頭ン中に親父がいる状態はよ)
(そんなつれない事言うなよ。やっと話せるようになったんだから。まあ、脳内だけどな)
(なあ、本当に親父なのか?俺の親父、白石影人なのか?俺が勝手に脳内に作った幻影じゃないか?)
(まっ、普通はそう考えるよな、全く光人の考えている通り。でもな、紛れもなくこれは私、白石影人の意識なんだなあ。)
(だから、それを証明してくれって言ってんだよ、それくらい解れ、バカ親父)
(親に向かって、バカはないだろう、バカは。私の方が、確実にお前より頭いいぞ)
(そんな自慢はいいんだよ。俺の作った幻影でないことを証明して見せろよ)
(なんだよ、ママから「パパのことだから心配で光人にまとわりついてるかもよ」って言われた時、口では「親父の霊憑きなんてあったら、せっかくの新しい出会いの場が無茶苦茶だよ」とか言っときながら、心の中で「本当にそうだったら、いいのにな。」なんて思っていたくせに。そんなに私は光人から思われていたかと思うと、ないはずの涙腺が刺激されちゃうよ)
(やめろ!ふざけんじゃねえ)
(光人と話していると楽しくて、パパは嬉しいよ。いい息子に育ってくれて)
(ホントにいい加減にしてくれ!俺の知る筈のない親父だけの記憶でも語ってくれればいいんだから)
(ああ、そういうことか。それならいくらでもあるが、私が言ったことが本当かどうかは、どうやって確かめるんだ?ママとのお前の生まれるための行為について私が事細かく語ったとして、お前、ママに聞きに行くか?)
(ちょっと待て。何を語ろうとしていやがる、エロ親父)
(いや、お前の考えている通りのことだが、エロ息子。ちなみに、お前が私の秘蔵のエロ動画を勝手に見て、何をしていたか)
(本気でやめろ!!!人のプライバシーを暴き立てるな。そして、実の親の生々しい夫婦行為を息子に語ろうとすんじゃねえええ)
(ああ、うるさいなあ。こっちだって恥ずかしいんだ、そんなこと言う訳ないだろうが。微妙なところだと、そうだな。お前が2歳の時、おしゃぶりを当時あったVHSテープの再生デッキのテープ挿入口に突っ込んだ話を)
(それ、何度も聞かされてる)
(じゃ、夜寝ぼけて枕におしっこした話)
(それだって俺の記憶のない、小さい時のことだろう。あと、さらにモンテルカストっていうアレルギーの薬の副作用で夢遊病になった話も何度も聞かされてるかな。俺の恥ずかしい話のオンパレードはやめろ)
(さっきから、やめろ、やめろじゃ、証明も何もないだろう。こんなに光人を愛してるのに、全く通じない。おとうさんは悲しいよ)
(はー、何を言い出すかと思えば、普段そんなこと言わないだろう。やっぱり親父じゃないんじゃないか)
(お前が知らないだけだ。ママ、舞子さんに聞いてくれ、よく言ってるから)
(それを証明にしようってか)
(でもいいんだが、そうだな、プロポーズの時のことでいいか)
(いや、それも聞いてる。ドライブデートの時に運転しながら「結婚してほしい」って言ったんだろう。お袋の目を見ないで。お袋がそんなシャイなところがいいみたいなこと言ってたぞ。)
(公式っていうか、ママ的にはそっちになるんだけどな。実はその前に結婚しようって言ってるんだなー、これが)
(えっ)
(友達と酒飲んでてな、あっ、友達って池川な。俺の大学院の時の後輩。何度か家にも来たことあるけど、覚えてるか)
(なんとなく。確か、今は石川で薬剤師やってるん人だよね)
(そうそう。あの時はまだ、こっちの製薬会社で働いててね。親御さんの具合が悪くなって地元に帰ったんだけど。その池川と飲んでるときに、急にさみしくなってママに電話したんだ。)
(なんだそれ)
(まあ、聞け。それで酔った勢いで電話してな、ママ、優しいから、付き合ってくれたんだけど)
(お袋、そんな感じだよな)
(また、その優しい声に感極まっちゃって、「結婚しよう」って言っちゃった)
(酔った勢いでか!まだ高校生の俺が言うのもなんだが、最低だな)
(同じことをママにも言われた。結果、やり直しになった。)
(お袋は結婚する意志があったけど、プロポーズはちゃんとしてほしいってこと?)
(そんなとこだと思うよ。でもな、結婚してほしいなんて、なかなかいえないよ)
(ヘタレがここにいた。その時同席してた池川さんは)
(何とも言えない表情してたな。まあ、目の前で急に「結婚しよう」とか電話で言ってるの見てたらそうなるか。だから「ダメだしされた」って言ったら大笑いされた)
(わかった。親父だと認める。どこをひっくり返しても俺の想像力でその話は出てくるはずがない)
(認めてくれてありがとう)
(で、なんでこんなことになった)
(まあ、そう思うよな。ま、何だ、いろいろあるんだよ)
(なんだ、その辺に曖昧な言い方!何か知ってんのかよ)
(まあ、その、何だ、いろいろな)
(おい、何知ってんだよ、正直言え、親父)
(いじめられて、将来が不安な息子を残して逝くことができない、過保護親父ってことさ。納得しとけ、こっちだって、なんでこうなったかわかんないんだからさ)
(判んねなら、最初からわからないと言え。なんで、そんな持って回った言い方すんだよ)
(そりゃ、ま、父の威厳?ってものがあんだろ)
(ねえよ、その後のぐだぐだやってたらさ。つまり、なぜこんなことにんったか。親父の記憶が俺の脳内にでてきた理由は不明。そういうことだな。)
(ああ、解らない)
(何かっこつけてんだか。で)
(うん?)
(いつからここに居るんだ?)