第228話 伊乃莉との約束
続いて、伊乃莉に電話を掛けた。
「遅かったじゃない。もっと早く電話がかかってくると思ってたわ。」
はい、自分もそのつもりでした。
「悪い、帰りがけに他校に行った友人に会って、うちで食事をとりながら話し込んでた。」
「幼馴染ってとこ。まあ、違う高校なら西村さんではないんだろうけど…。」
鋭いな。
この電話が終わったら智ちゃんに連絡は取らなきゃならないんだが。
「当然男だよ。隣に住んでるもう一人の幼馴染で、親友ってやつ。帰りにちょうど電車で会ってね。静海もお袋も顔なじみだし、うちに親父がなくなってから、あんまり話す機会もなかったからな。」
俺はベッドに寝ころびながら、会話を続ける。
「今、電話してて大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だよ。食事も、お風呂も終わってる。」
「こっちもそんな感じ。」
「あ、今、私に入浴シーン想像したでしょう?スケベ!」
伊乃莉がとんでもないことを言ってからかってきた。
そんなことを言うもんだからつい想像してしまった。
スタイルよさそうだもんな。
胸は薄いけど。
「うん、スケベなのは思春期男子で仕方ないと思ったけど…。今、明らかに失礼な考えを浮かべたでしょう?」
なんでそんなことわかんの?伊乃莉さんは超能力者?
「まさか…、へ、変な想像もしてないし、胸が薄くて、でも、大丈夫、なんて、思ってないよ。」
「思ってんじゃない!。見たこともないくせに、変な想像しないでよ!私は着やせするの!」
うっかり、自分の考えをトレースして、言葉に乗せてしまった。
こういうことが、信用を無くしていくんだよな。
(そ、信用はあっという間に崩れるよ、光人!)
「おっと、そんなピンク色の会話をするために電話したんじゃないよ。」
「あんたが変な想像して、私をディスってたんでしょう!」
「怒るなよ。ちょっとあやねる関係の話なんだから。」
「わかってるわよ、そんなこと。昨日の宍倉宅での真理さんとの話でしょう。」
まあそれはすでに、伊乃莉の家で軽く触れてたからな。
「うん、伊乃莉も知っておいた方がいい話だったんでね。当然あやねるには、今のところ聞かれるわけにはいかない話。」
「長くなりそうね。わかった、明日どこかで落ち合えばいいのね。」
話が早くて助かる。
「明日、午後1時から、その幼馴染の恋人のお披露目があるんだ。いくらなんでもそんなに時間がかかるとは思えないから、午後3時くらいでどう?」
「幼馴染の恋人の紹介ね。…ちょっと待って。それって、光人と、その幼馴染という男の子と、その恋人。その3人?」
「いや、慎吾、幼馴染から、西村を誘うように言われた。」
「ああ、やっぱり西村さんいるのか…。だと、午前中がいいな。」
「なして?」
「その会合が終わった後、友人と恋人は別行動としても、西村さんは光人と一緒に帰ろうとするはず。」
「それは何とも言えないけどね…。この前のことがあるから。」
「いいえ、もし同じ場所に集まってきたのなら絶対そうするよ。すると、私と光人が会うことがばれると、乱入してくるかもしれない。地下鉄のホームの時みたいに。」
「ああ、言われてみれば確かに…。」
少し間があった。
「さっき、その友人とは午後1時に会う予定なのよね。」
「うん、そうだよ。」
「じゃあ、午前10時に。西舟野の駅に集合ね。」
「えっ、西舟野?津田川にしてくれると助かったんだけど。」
「津田川じゃ、誰に会うかわからないでしょう。特に西村さんに会うわけにはいかないんだから。」
軽くため息をつく。
この後の電話が憂鬱だ。
「分かった、明日10時、西舟野駅の中央改札の前ってことでいいか。」
「了解、じゃ、おやすみ。」
「おやすみ。また、明日。」
とりあえず、伊乃莉と明日10時西舟野。
全く土地勘がない。
一応話が出来そうなところはネットでみておこう。
で、1時から昼食を兼ねた榎並虹心との顔見せ。
実は、終わった後の智ちゃんと変えるのが気まずいと思われたので、伊乃莉との約束を入れようとしたんだが、伊乃莉の言うように、一緒にくっついてこられると厄介なのは間違いなかった。
さて、その厄介な人物に連絡をしないといけないんだよなあ。
LIGNEにはあと二人の名前があった。
一人は須藤文行。
どうやら、文芸部に入る決心がついたようで、その報告。
午前の学校が終わった後、文芸部に行ってたみたいだ。
簡単に返信を送る。
そしてもう一人が西村智子だった。
内容は昨日の謝罪と、今日よそよそしくしてしまった事は本意ではない、という事だった。
この返信で明日の予定聞いちゃえばよくね?
(あまり褒められないな、その行動)
「やっぱり?」
(できればあって、面と向かって言いたいこと、言った方がいいんだが…。せめて電話な)
「わかったよ。」
つい、他に人がいないので、言葉が出てしまった。
ガチャン。
俺の部屋の扉がノックもなしに開いた。
「お兄ちゃん、誰と話してんの?」
静海がパジャマで入ってきた。
また、声が聞かれた。
いや、でも、これって…。
「いや、伊乃莉と電話してたけど…。」
「今、じゃないよね?」
何かをさぐってる?
まさか…。
「まあ、もしかしたら知らずに、独り言、言ってたかも。」
知らずに独り言って…、って突っ込まない!
なんか疑惑の目で見られてる!
「まあ、いいけどさ。伊乃莉さんと何の話?伊乃莉さんの家でもなんかこそこそしてたし。」
いやあん。
妹の追い込みが激しいんですけど!




