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第223話 モテモテの光人君

「つまり、君のお兄さんは、美少女の宍倉さんってこと、生徒会役員の読者モデルもやっている柊さんという先輩に言い寄られてる。それ以外に超お嬢様の鈴木さん、文芸部の先輩のギャル有坂先輩、柊先輩の妹さんという多彩な美少女たちに囲まれ、ウハウハな高校生活を堪能しているということでいいのかな。」


 静海がコクリと首を下げて、頷く。


「まあ、もうそれでいいよ。この3日間は実に濃い3日間だった。」


 訂正する気にもなれず、俺は少し投げやりな感じでそう言った。


「光人のことを見直して静海ちゃんが今までの距離感を見つめなおした。それは解るけど、さらにゼロ距離になっていることがよくわからん。」


「だって、実はこんないいお兄ちゃんを、今まで冷たくしてたのも申し訳ないけど、さらに美少女たちに囲まれて鼻の下を伸ばしてるお兄ちゃんが見てられなくて…。だったら、私という存在を他の人に知らしめて、近寄れないようにして、私のただ一人のお兄ちゃんにしたいって思っちゃったんです。他の人に渡すにはあまりにも格好良かったから。」


「えらい変わりようだな、光人。」


 にやにやした顔で俺を見てくる慎吾に少しイラっとした。


「ホント、凄い変わり様よね、静海。」


 さっきまで食事の準備をしていたはずのお袋が知らぬ間に慎吾の横に座っていた。


「あれ、食事の準備はいいの?」


 静海が聞いてきた。

 それにウインクで答えるお袋。

 その仕草に俺の頭の中の誰かさんが悶絶している。

 勝手にやってろ!


「あとは火をかけるだけ。まだ時間あるしね。光人の学校の様子が楽しそうで、聞きたくなっちゃた。」


 えへっ、ってな感じで愛想を振りまくお袋。

 その表情は俺の頭にいる人以外、引きかねないのでやめてほしい。


「ああ、ママ。ちょっと聞きたかったんだけど、いい?」


「ん、なあに、静海。」


「お兄ちゃんがいじめにあってた時の話。」


 とたんに緊張が走った。

 俺はすでに先程語ったのでどうということはないんだが、お袋と慎吾が固まった。

 静海は詳しい経緯を、俺の口から知ったが、その時の周りの人がどう感じていたのか知りたかったらしい。


「なんだ、また、急に…。」


 お袋の言葉が固く、しどろもどろになっている。


 慎吾の顔つきが真剣なそれに代わった。

 そして、どういえばいいか考え始めたようだ。


「俺はその時は光人とはクラスが違ったんだ。」


 そう、その時は智ちゃんは同じクラスだが、慎吾は隣の2-Dだった。

 だから詳しい状況は断片が噂となって耳に入るだけだったはずだ。

 俺には、その噂について「大丈夫か」と声を掛けらえていた程度。

 でも実はその時から、その噂の主を探っていたようだ。


 二戸詩瑠玖に振られて、彼女は友人だと思っていた三笠颯と付き合うことになったことは報告していた。

 だが、その後も俺は詩瑠玖と会って、一緒にカラオケに行ったり、お茶したりしていた。


 そんなことをしてるのを偶然慎吾に見つかった。

 その時に慎吾から、「付き合っている三笠に変な誤解を生じかねない。遊ぶんなら三笠と3人以上で遊べ」と忠告を受けていたんだ。


 でも、俺は振られていても詩瑠玖が好きで、二人でいるだけでハッピーだった。


 そしてそれがばれて、俺はストーカー扱いをされ、いじめられるようになっていく。


「光人はどうしようもないなってとこだな、本音は。でも、あそこまで言われる筋合いはないとも思ったんで、噂を流してるやつを突き止めようとしたよ。」


 すでに慎吾はその時点で、2年生ながらサッカー部のスタメンだった。

 先輩の覚えもよく、慎吾の言葉に、サッカー部の連中は協力してくれた。


 その結果、大元は陸上部の三笠であることは解ったが、熱心にその噂を撒いてるやつがいた。

 2-Eで一応名ばかりだが卓球部の岩谷を中心とした3人だった。


 こいつらは人気のある三笠についておけば、自分たちが馬鹿にされないという、きわめて幼稚な思考で、その噂をばらまいていたんだ。


「一度直接岩谷には、その噂は何処から聞いたのかと問いただしたことがある。青したらあいつ何と言ったかわかるか?二戸からだというんだよ。光人から毎晩メッセが来て、朝と帰りに待ち伏せに会ったこともあると、二戸が怖がりながら言ったってね。そんな訳はないと言ったんだよ。それこそ、メッセージなんか送れるわけがないってね。何と言っても、その時にスマホは持っているとは言ったって、親父さんの管理下で女の子に気軽にメッセを送れるはずがなかったから。」


(そういえばそうだったな。中学受験がうまくいかなかったから、当初は与える気がなかった。陸上部で使うからって、最初は舞子さんのスマホを使ってやろうとしたけど、あまりにも頻繁過ぎるということで、私が規制をかけまくって買ってやったんだっけ)


(そうだよ。プライバシーゼロだったからね、あの頃。陸上部のやり取りも全部見られてたし)


「でも、あいつは完全に正義のヒーロー気取りだったよ。可愛い女の子が怖がってるんだから光人が絶対悪いって言って、俺が止めようと掴んだ腕を振り払ってまで名。その後に俺のことも悪く言って噂をさらに広げようとしたみたいだけど、さすがにサッカー部の連中を敵に回す気はなかったみたいで、すぐに立ち消えた。虹心がマネージャーをやっていて、二戸とも仲が良かったっていうのもあったけど…。だけど光人の噂は逆にひどくなっちまった。三笠は俺とは別に、学校ではスクールカーストって言うのか、あれのトップにいたからな。」


「ああ、そうなんだよな。事実を捻じ曲げても、俺が言ったことと三笠が言ったことでは、生徒も先生も三笠が絶対だったから。」


 本当にくだらないと今では思えるが、学校という狭い社会ではそのスクールーカーストってやつが絶対で、事実なんてものは二の次だった。


「悪いやつは懲らしめていい。いや、懲らしめなきゃなんないって感じになっていった。俺も注意していたつもりだったが、西村ほど光人のことを見ることが出来なかった。本当にあの時に西村があの3人を異常に思わなかったらと思う。今こうして光人と話ができることを西村に感謝しなきゃ罰が当たるってもんだ。」


「ああ、まあ、そう。智ちゃんは命の、恩人だよな、ははは。」


 俺が慎吾の言葉に、変な挙動を取ってしまった。静海は何とも言えない表情を浮かべて俺を見ている。

 さらに頭の中の別人格の冷たい感情が俺に突き刺さっている。


 一種異常な雰囲気に、慎吾とお袋が顔を合わせた。


「なんかあったな、光人。」


「西村さんになのかしたんでしょう、光人。」


 二人から攻められた。静海に視線を向けると、ナチュラルに外された。


「怒らないから、言ってごらん。」


 ああ、お袋が起こる気満々じゃん。


 こういう言葉言ってる人が、本当に起こらなかったためしがないんだよね。


「いや、本当にね、智…、西村さんには感謝してる。西村さんと親父がいなかったら今の自分はないとも思ってる。だけどさ…。」


「「だけど?」」


 二人の声が重なってるよ、おい。

 この事で正直言えば怒られる筋合いじゃないはずだけど…。


「昨日、宍倉さんちで夕飯、ご馳走になったじゃん。」


 この一言に、さすがにお袋は俺が何を言おうとしてるのか、そして智ちゃんと何があったかについて、思い当たったらしい。だが…。


「宍倉さんちで夕食を食べた?それ、どういうことだ。さっきの話じゃ、ただ、可愛い女の子がお前の周りに集まったって話じゃなかったっけ?いや、それどころか、今日の昼は超お嬢様の家で食べたんだろう。え、すでに彼女が出来て、なおかつご両親と家族ぐるみの付き合いしてるってこと?」


 いや、慎吾君。

 君も、かなりの妄想癖があるね。


「ちょっと冷静になろうか、慎吾君。宍倉さんは俺が倒れた時に介抱してくれた人ね。この子、いろいろトラウマ抱えていてね。その手助けをしたってことと、親父と知り合いってこともあって、宍倉さんのお母さんからお礼の食事をごちそうしてくれたのね。」


「光人さ、その説明は全く意味不明って自分でもわかってるよな、おい。」


 これ説明するんですか?すごく面倒くさいんですけど!


「それ説明しないと、もうどうしようもないと思うよ、お兄ちゃん。ちょっと、「西村さんのことは友人としか思えない」って言えばすぐ終わったのに…。」


「そうは言ってもさ、静海。なんでそんなこと言っちゃうの、ってなるだろう。」


「まあ、そうだけど。この話、長くなるよ。」


「わかってる二人で話をするな。よし、わかった。つまり西村が光人のことを好きだということが光人にばれた。どうしていいかわからない光人は、女性としては見ていない西村にはっきりとそう伝えた。OK!話の終着点はそう言うことだな。」


「うん、慎吾さんの言う通り。最後の結果はそこに行きつく。」


 うん、と頷く俺。

 その俺に、少し冷ややかな視線をお袋は向けてきた。

 親父もそうだが、お袋も智ちゃんには好印象を抱いている。

 その彼女に冷たい態度を取った俺を歓迎はしていないらしい。


「じゃあ、まあ、その途中の話。しっかりしてもらうぞ、光人。」


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