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第22話 白石静海 Ⅰ

 白石静海(シライシルナ)光人(ライト)が玄関から出ていく音をベッドの中で複雑な想いで聞いていた。


 今朝もうなされていた兄である光人への心配と、しっかりと母に挨拶して元気よく出ていく様子に安堵する気持ち。

 

 特に今朝方は叫び声だった。

 どんな夢を見ればあんな声が出るのだろう。

 

 正直なところ、兄の日照大学付属千歳高校合格は喜ばしいものではなかった。


 自分が世間一般でいうモテる部類だと意識している。


 母親である舞子(マイコ)は女性としては背が高い。

 父親の白石影人(エイト)は170㎝くらいの男性の平均くらいの身長だが、舞子はヒールも履かずにほぼ同じくらいの背丈だ。

 かなりほっそりしていて、手足が長い。

 よく言えばモデル体型。

 たれ目が特徴的な優し気な顔立ちをしている。


 自分も舞子に似て手足が長く、身長も高い。

 母譲りの少したれ気味の両目は二重で大きく見える。

 鼻は少し低めであるが、小さめの口とみずみずしい唇とバランスが良く、14歳のはじけるような肌は、化粧を施さなくても充分人目を引き付ける魅力をたたえている。


 春休み最後の今日は、中学で仲の良い神代麗愛(カミシロレイア)御須鳴美(ミスナルミ)、3人でコスメなどを見に行く予定だ。


 麗愛は名は体を表すを具現化したような麗しさだ。

 鳴美は騒がしいくらい明るい子で、愛嬌のある丸い顔に少しぽっちゃりな体型ながら、1年の時のクラス1-Bでは1番の人気者だった。


 クラスで隣の席にいた鈴木悠馬(ユウマ)は「1-Bには奇跡の3女神がいて、俺幸せ」などとよくほざいてる。


 そういう雄馬も見た目はそこそこイケメンに属するのだが、男友達と下ネタ全開の会話をするものだから、女子から無碍に扱われてる。

 そういえば雄馬の姉も高校から日照大学付属千歳高校に入学すると話していたような気がする。


 いわゆる陽キャと思われ、スクールカーストの上位にあるような自分たちグループ。


 それに対して、兄の光人は中学受験の失敗で、完全に自信を無くしていた。

 誰に対してもびくびくしているような、その態度は見ていてイライラする。

 地元の伊薙中学に入学して、陸上部に籍を置いてから少しまともになったと思ったら、いじめを受けて、最終的に父の影人が中学に乗り込んで解決させていた。


 光人は比較的頭はいい方だと思う。

 なんといっても父、影人の子供たちなのだ。

 だが自信を無くし、いじめを受け、自己肯定感とやらは最低になっていたようだ。


 髪の毛は伸びて、手入れもせず、ボサボサ。

 来ている服もしわくちゃで、身だしなみはどこの言葉かってくらい。


 そんな人を兄として考えるのも嫌で、言葉を交わす気にもなれない。


 いじめを受けていたことも家族には一切話さず、最終的に同級生の西村智子さんが父に泣きながら訴えたことで明るみに出たのだ。

 その時の自分の思いはどう表現すればいいのだろう。


 それから静海は一層光人との接触を避けるようになった。


 自分が中学受験に集中せざるをえなかった時期でもあった。

 同世代の異性である兄への気持ち悪さ、いじめを気づけなかった申し訳なさ。

 兄を忌避する状態は影人の死亡事故まで続いた。


 そんな兄が同じ学校に来ることは本当に嫌だった。

 あの光人が実の兄だと仲の良い友人たちに知られたくなかった。

 無理やり取られた最後の家族写真に、自分はかなり不貞腐れた表情で写ってる。


 そう、影人の遺影に使われている写真である。

 遺影には切り取られた父の笑顔しか映っていないが、その写真に笑顔で写れなかったことが、心を締め付ける。


 だが、事故後、光人は変わった。


 影人の遺体の身元確認に3人で行ったとき、舞子は泣き崩れ、自分は茫然と、思ったよりはきれいな影人の顔を、見つめていた。

 兄も最初は泣きながら、それでも力強く「父の影人で間違いありません」と確認を求める警察の人に言った。


 その後の葬式や墓入れ、事務的な手続きや交通事故後の一連の処理を父親の友人たちと連絡を取って進めていた。


 結果、2か月弱であらかたの処理を終え、私と母を励まし、日常に近い状態まで環境を整えたのだ。


 だが、と思う。


 なぜ、あんなことが光人にできたのだろう。


 不思議に思いながらも、兄を見直し、いや、頼るようになった。


 そこには以前の陰鬱とした光人はいなかった。

 その様は父の影人を見ているかのようだ。


 今、静海は、クラスメイトで心配して、毎日LIGNEを入れてくれていた麗愛、鳴美と3人で遊びに行くまでに心身は復調した。


 友との交流は、哀しみの中にあった静海にとって、久しぶりに心が躍るものとなっていた。


「静海!ママ行ってくるから、ごはんラップしてあるから適当に食べて」


「了解!」


「遅くならないうちに帰ってきなさいよ」


「わかった!いってらっしゃい!」


 階下の母に大きな声で答えて、静海はベッドから飛び起き、クローゼットを開いた。


 ピンクのパジャマを脱ぎ去り、下着姿になった。


 飾り気のない薄い水色のカップ付きキャミソールと、木綿の白いショーツ。

 クローゼットの扉にあつらえた姿見で自分の全身を確認する。


 胸が大きくなっていることを自分でも感じていたが、姿見に映るその部分は少し窮屈そうにその存在を強調している。


「ママに言って、ちゃんとしたブラ、買った方がいいかな?」


 麗愛はスレンダーでダンス部で活動しているから、いつもスポーツブラだと言っていたが、鳴美はもうしっかりとブラを胸に合わせて買っているらしい。


 今日ちょっと相談してみようかな。


 そんなことを考えながら、お気に入りの服に手を伸ばした。




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