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第214話 あやねるのお家訪問の報告

 俺は昨日の夕食の招待についてかいつまんで説明した。


 景樹は伊乃莉の家には十分驚いていたが、あやねるの家については、「この土地でビルもちか、凄いな」と、言葉とは全く同調していない冷静さでそう評していた。


 この雰囲気に「ほら、私はちっともお嬢様じゃないでしょう」的な顔で俺を見た。


 あれ、俺がおかしいの?


 とはいえ、静海はやっぱり驚いてはいた。


 俺たち二人が普通の平民、他の4人は貴族階級と言うところなのだろうか?

 そう言えば、景樹の事は全然知らないな、俺。


「あやねるに連れていかれて、あやねるのビルを見てたまげてたんだけど、さ。それ以上に急にあやねるのお母さん、真理さんに見つかって。さらに会計事務所のガラス戸越しにすっごく睨んでくる人がいると思ったら、あやねるのお父さんだった。いや、背筋に変な汗が流れたよ。」


 そう言った時に、伊乃莉が変な笑いをこっちに向けてきた。

 まるでプロポーズでもすんじゃね、とお父さんが誤解してたのを楽しんでいるよう。


「なんとなく、かなり強引に真理さんが俺を家に呼びこんだ気がしないわけでもないけど…。」


「うーん、そんな感じは確かにあったね。私の男性恐怖症みたいなものがよくなっていくことに期待してたみたい。」


 俺の言葉にあやねるが補足を加えた。それで俺もつい余計なことを言ってしまう。


「これで孫の顔が見られる、みたいなこと言ってたもんな。」


「あ、それ、言っちゃダメ!」


 あやねるが顔を赤くしながら、俺にそう言って口留めをしようとしてきた。

 が、いつもと違い向かいの席なので、俺に手が届かない。

 その代わり右横から、かなり不穏な声色が俺に降りかかってきた。


「お兄ちゃん、宍倉さんと、もうそういう関係になっていたの?」


 明らかに不条理な言いがかりである。

 昨夜、あれだけ言ったのに…。


「付き合ってないっていったくせに!」


 さらにこの言葉が向かいの彩音さまの琴線に触れたよう。


「た、確かに、まだ、付き合う、とか、そういう状態?になってないけど…。」


 あからさまに、「私、その発言、納得いきません」という思いの困った視線が、やっと修復に成功したつぎはぎだらけのガラスの心臓に突き刺してきた。


 その視線に、つい、「童貞卒業のチャンスか?」と囁く黒い俺、通称闇人が生まれかけているんだが…。


(光人、お願いだから変な気は起こすなよ。それでなくとも二戸詩瑠玖の件で、お前の恋愛感情はおかしくなってるんだから)


 二戸詩瑠玖と言う単語が俺を正常に戻らせてくれた。

 本当に俺の青春は、あの子に振り回されているってことか。


 この場で思い出す必要はないのに、思い出したことが一つ。

 俺の親友、淀川慎吾の彼女である榎並虹心。

 彼女は二戸の親友と言っていいくらいの友人であったことを。


「あ、あのさ。真理さんの言った言葉は、別に俺との子供を期待してるってことじゃなくてさ…。」


「うん、わかってるよ。真理さんはあやねるが普通に男性に接することが出来るようになれば、将来、ちゃんと結婚して、孫の顔が見られるという一般論だという事でしょう。大丈夫、曲解してるのは、頭がお花畑と化した我が親友と、君を愛してやまない妹ちゃんだけだから。」


 しかし、その言葉は流れ弾となって、他の男子の胸を直撃した。


「えっ、あんなに嫌な兄貴だっていってたのに…。裏では、愛してるって…。」


 悠馬君の心臓も俺と同じ素材で作られた心臓だったようだ。


 伊乃莉の言葉は、曲解した女子二人を沈黙させ、関係ないはずの弟君の愛の心臓に少なからぬダメージを与えたようだ。


「で、真理さんと話したんでしょう、光人。多分、真理さんは光人に聞きたいことがあったはずだよね。でなければ、さすがにあって2日目の男の子を自宅に招待するとは思えないもん。」


 3人に傷を負わせたお嬢様が、涼しい顔でそう聞いてきた。


「まあ、そうだね。」


 さて、伊乃莉には早いうちに真理さんとの話を伝えておくべきなんだが…。

 あやねるの前ではできないよな。


「俺の親父がさ、前にこの駅の近くで働いていたんだ。あやねるのビルの並びの、鈴蘭堂っていう調剤薬局で。真理さんと顔なじみみたいで、親父のことを聞きたかったらしい。」


「あ、やっぱりそうなんだ。昨日真理さんに光人があやねるを送っていくことを連絡した時に、そんなこと言ってたんだよ。うちのお母さんも、その薬局さんで昔務めていた人が事故で亡くなったって話をしてたからね。私にしても、うちの家族にしても、さすがにそこに勤めてた人のことは解らないから。でも、交通事故に関しては、うちに父も母もちょっと文館になっちゃうんだよね。」


 少し含みのある言い方を伊乃莉はした。


「俺の父親の事故は結構全国的な扱いになっちゃたから、逆に気付きにくいってのもあるんだけどね。うちの母親が関係のあるところに連絡してた時に、ニュースは見ててもその事故をうちに父親と認識できなかったみたい。母からの連絡で「あれが…。」みたいなことがそれなりにあったよ。」


 そう言うと、伊乃莉が少し困ったような顔で、何か考えているようだ。


「そうだよね。交通事故の関係者は、みんな言葉では言い表せないような感情を抱くみたいだよね。当然事故を起こした人が悪いんだけど、それが狙ってやったわけじゃないだけに。光人を見てると、つい数か月前にお父さんを無くしながらも気丈に振舞っていた人とは思えないもんね。子供を助けて自分の命を無くしたお父さんのことを誇りにしてますって、普通言えないもん。」


(まったくだ!うちの息子は日本一、いや世界一の息子じゃ~!)


(うるせえーよ、くそ親父!)


「うちも交通事故でお母さんを亡くしてんだよね。」


「えっ!」


 俺は思わず口から言葉が出てしまった。


「あっ、と言っても、今の私のお母さんじゃないんだけどさ。あやねるにも詳しくは言ってなかったと思うけど、光人には、なんていうのかな、静海ちゃんもそうだけど、交通事故の被害者家族としてってことで、聞いてもらいたいんだ。いいかな?」


「あ、ああ、聞いていいなら…。」


「うん、是非聞いて欲しい。うちの父親もそれなりに有名人で、マスコミってやつらに、結構反感抱いてたりするからね。私の母と結婚する前の、父親が結婚してた、もう一人のお母さん、鈴木美乃梨さんの事故の話。」


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