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第213話 娘の父親の気持ち

「で、その続きだよ、あやねる。確かにあやねるのお母さん、真理さんが光人を夕食に招待したいって、言ってたけどさ。」


「本当だよ。まさかいのすけが、私が同学年の男の子に送られることまでお母さんにしゃべってるとは思わなかったから。」


「それは違う!私は自分じゃない友人があやねるを送っていくからって言ったんだよ。そしたら、真理さんがいきなり、「それ白石光人君だよね」みたいに言われて、当てられちゃったんだから。」


「そこはせめて、「女子」の友人と言って欲しかったな。」


 俺はため息交じりに言った。

 出されているコーヒーを何も入れずに飲んだ。

 苦い。

 こんなもの、よく敏文氏は飲めるもんだ。


(慣れると結構うまいぞ。コーヒーの香りもよくなるし、砂糖の嫌な甘さもないしな。ミルクを入れると刺々しい苦さも少し和らぐから、もしなんなら、ミルクだけでも入れてみるといい。)


 親父の忠告に従って、テーブルの中央にスティックタイプの砂糖と一緒にある、使い切りのミルクを混ぜてみる。

 うん、少しは飲めるかな。


「だって、私真理さんに嘘はつきたくなかったんだもん。」


「で、嘘を言わずに性別を隠して伝えた。それが速攻バレたと。」


「しょうがないじゃない。まさか、あやねるが嬉しそうに光人のこと真理さんに話してるなんて思わないでしょう?初日にあった男子の話を嬉しそうにしゃべってたから、親しい友人ってことで、すぐに白石光人だって分かったみたいだよ。」


 そう言って伊乃莉は、さっきから肩をすぼめて小さくなっているあやねるを凝視した。


「えっ、だって、だって、さ。やっぱり遅くなった理由は言わなきゃいけないじゃん。お母さんを心配させたんだし。」


「それは何となく違う気がする。真理さんが心配してたのは、一晩中泣いてたことでしょうに。」


「あ、それは言わないで、いのすけ!」


 いきなり俺のガラスの心臓を9㎜パラべラム弾が貫いた。

 俺は思わず胸を押さえてしまった。


「ああ、昨日の女泣かせの件か。一晩中、泣かせてるって、本当にひどい男だな、光人は。いきなり今の発言で胸に被弾したっぽい。」


「宍倉先輩って、ずっと泣いてたんですか?朝の時も泣いてましたよね?」


 景樹が俺の傷をさらに抉り、静海は静海であやねるに追い打ちをかけてくる。


 あやねるはさらに小さくなった。

 あやねるのビーフシチューはまだ4分の1くらい、残りがあるが、食事を続けられるんだろうか?


「で、真理さんから招待を受けたときの光人の気分は?」


 思わぬ攻撃で傷ついて弱ってる俺を誰も庇ってはくれず、さらに伊乃莉は俺を揺さぶってきた。


「さすがに、知り合ってまだ2日目の女の子の家に、その両親がいる場に行くのは、ちょっと気が引けた。と言うかあやねるの両親、とりわけお父さんにはまだ会いたいとは思わなかった。単純に一人娘を持つ父親に会うのは恐怖以外の何物でもなかった。」


「まあ、そうだよね。うちのお父さん、私の上に今大学生のお姉ちゃんがいるんだけど、その友達が数人で遊びに来た時に、必ず顔を出してたんだよ。特に男子がいるときに。私はお姉ちゃんが付き合っている人を知ってたんだけど、当然お父さんには黙ってたんだ。だからお父さんはうちに来る男子の友人の中の誰かは解らないはずなんだけど、妙な威圧を掛けてた。うちのお父さん、基本いい人だけど、比較的大きな会社社長なもんだから、それなりの威厳みたいなもんがあってね。体格も結構いいもんで、普通に怖いだろうなって思ってたよ。」


「ちょっと待って、鈴木さん!今日もそのお父さん、来たりすんの?」


 景樹が少し焦った感じで言った。

 そうだね、景樹君。この状態を見たら、お父さんのターゲットは間違いなく君に決まりだよ。


 俺の破壊されたガラスの心臓が回復してきた。


「さあ、どうだろう?友人を呼んでちょっとした食事会をすることは言ったよ。」


「うん、ありがとう。僕はとりあえず、噂の真相が聞けたので、これでお暇させてもらうよ。」


 そう言って立ち上がろうとする景樹。

 俺はすかさず景樹の肩を抑えた。


「まあ、まあ、そう言わずに、景樹君。まだ話は終わってないんだからさ、ゆっくりしていきなよ。」


 景樹が俺を睨んできた。

 俺も帰れるものなら帰りたい。

 しかし、伊乃莉に話しておかなければならないことがあるため、帰るわけにはいかないんだ。

 俺を独りにしないでくれ!


「お前、光人!何やってんだと!俺もう関係ないだろう。変に誤解されちゃ困るんだよ。」


「大丈夫、俺がいるじゃないか。俺を独りにさせるんじゃねえよ。それでなくても、昨日似たようなことがあって、胃が痛くなったんだから。」


「お前も帰ればいいだろう、光人。」


「あ、光人は帰れないよ。昨日のこと、まだ聞いてないもん。あやねると一緒にいてもらわないと。」


「そういう事だ。大丈夫、誤解はされないよ。伊乃莉と景樹が付き合っていることは黙っているからさ。」


「いうに事欠いて、何気に付き合っているようなことを吐くんじゃねえよ。俺はついさっき、初めて口きいたんだぞ、鈴木さんと。」


「君の後輩の悠馬君もいるんだからさ、もう少しゆっくりしていけばいいんじゃないかな。なあ、悠馬君。」


「まあ、そうですね。景樹先輩には高校のサッカー部のこと、聞きたい気はしますけど。と言うより、うちの親父、今日は8時過ぎまでは帰ってきませんよ。と言うか、帰ってこられないと言った方がいいかな。結構遠くの店まで視察に行ってるんで。それとその地の野菜の買い付けの価格交渉もあるっていってたから、下手すりゃ泊りですから。姉ちゃんもそれを狙って、今日無理矢理、この食事会やってるんですから。」


「なんだって!」


 俺と景樹が揃ってそう言うと、テヘペロってな感じの、いたずらっぽい表情で俺たち二人を見ていた。


「ははは、焦っちゃって、楽しいね、佐藤君、だっけ。光人を呼ぶのにはさすがにうちのお父さんが邪魔しに来られるとまずかったんでね。ごめんね。」


 景樹は悔しげな顔をして、椅子に座りなおした。

 どっちみちよかった。

 景樹が残ってくれて。帰り道の静海と二人で帰るわけだが、出来れば二人きりになるのは、少しでもその時間を減らしたい。

 さっきのあやねるのトラウマの原因絡みで、帰宅途中で変な事になると目も当てられない。

 家まで着いてしまえば、最悪親父が何とかしてくれるはず。


(人を何だと思ってるんだ、光人!)


 親父に対してはスルーを決め込む。


「まあ、楽しませてもらっちゃたよ。光人、佐藤君。」


 少し笑った後、伊乃莉がそう言った。


「で、昨日、宍倉家であったこと、言うてみ。」


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