第204話 教室の机の片づけ
何とか身体測定が終わって、教室に帰ってきた。
「レントゲン、めちゃ込んでたな。」
須藤がそう感想を漏らした。
他の測定やら、内科検診は並んでいてもすぐに順番が来たんだが、レントゲンだけはえらい待たされた。
なんで男女比が2:1で、レントゲン車は1台ずつなんだよ!
女子の体育館からは楽しそうな高い声が聞こえてきたが、男子の測定を行った第一体育館は広いだけあって、しかもそんなに喋ってないから、疲れた空気が蔓延している空間になっていた。
「まあ、とりあえず終わったんだから、よしとしとこ。みんな身長伸びてんだし。」
う~ん、身長が伸びてんのはいいけど、ことさらいう事でもないよね、景樹。
「じゃあ、あとはこの表をクラスのボックスに入れて終わりってことでいいんだよな。」
俺は一仕事終えたサラリーマン状態。
(ああ、解るよ、光人。私も仕事が終わって帰る途中の電車はとりあえず、一息ついていた)
(いや、経験者の感想はいらない)
岡崎先生は暇そうに教壇近くに座っていた。
「おお、終わったか?」
「はい、何とか…。先生、レントゲンっていつもああなんですか?」
「ま、そんなとこだ。前半のクラスだと、一番にレントゲンを撮っちまうらしい。」
「あ、それいいな。」
「言っとくが、白石。前半って、特進メインだからな。」
「うわあ、贔屓だ。」
「当然だろう。奴らは、この高校の知名度、偏差値を上げるための選りすぐりだ。いやだったら、懸命に勉強して、高2では特進クラスに行け。」
「わかりました、がんばってみます。」
そう言いながら、ため息をついてしまった。
俺は肩を叩かれたので、そちらに目を向けると、無駄に格好をつけた須藤がサムズアップしていた。
3人で教壇においてあるボックスに身体測定の表を入れた。
「先生、今日はこれで終わりでいいんですよね。」
景樹が先生に確認した。
「まあ、そうなんだけど、さっきの机をもとの戻しといてくれ。頼むよ。」
「他のクラスメイトは?」
「何もせずに帰った奴が大半だ。と言ってもまだ帰ってこない生徒が半分以上いるがな。」
はあ、まあ、しゃあないか。
「須藤、光人!ちゃっちゃっとやっちまおうぜ。」
爽やかイケメン君は、サボる、もしくは逃亡という選択肢はないらしい。
「あ、私も手伝います。」
後ろから聞きなれない女子の声が聞こえた。
振り向くと黒髪をポニーテールにしてる眼鏡の女子が机を動かしにかかっていた。
当然見たことはあるんだけど…。
誰だっけ?
「あ、来栖さん、ありがとう。」
と、思わぬところから、その女子を呼ぶ声が飛んできた。
須藤だった。
俺もびっくりだが、景樹の驚きにはさらにびっくりした。
「えっ、須藤の知り合い?」
「いや、知り合いって、同じクラスメイトだろう。」
「いや、そりゃそうなんだけどさ…。ちょっと意外だったから。」
言われた来栖さんは景樹に見つめられて、少し顔を赤らめている。
さすがは爽やかイケメンだ。
「来栖さん、ありがとう。じゃあ、すぐに終わらせちゃおう。」
景樹はそう言うとすぐに近くにある机を動かし始めた。おお、素早い。
俺と須藤もあわてて、机を移動していく。
自分たちが使っていた机はすぐに片し終わったが、気付いたら、景樹が他のもやり始めてしまったので、仕方なく俺と須藤もそれに従った。
「私も手伝おう。」
続いて、聞き覚えのある、クールな口調が耳に響いてきた。
振り向くと、思った通り、日向雅さんだった。
「助かるよ、日向さん。」
軽く感謝の言葉を日向さんに向けた。
この俺の口調に、また景樹の驚いた顔がこちらを見てる。
俺と須藤は、景樹から一体どう思われているんだろうか。
「まあ、光人は何となくわかってたけど、須藤も女の子の友達が出来てるって凄いな。」
そんなことを言いながら、机を片し終えた。
「ありがとう、来栖さん、日向さん。」
珍しく須藤が先頭を切ってお礼を述べた。
確かに、二人とも須藤の知り合いというのが正解だからな。
「ううん。自分たちの机だから当然だよ、須藤君。私、まだじょその友達いないから、一人でさっさと終わらせてきちゃったんで…。」
う~ん、今の発言は微妙だな。
女子に友人はいないが、須藤とは友人ってことだな。
「オレ、佐藤景樹。須藤の友達。席も近いから、来栖さんの友達の一人に入れてほしいな。」
このイケメン野郎は、凄いコミュニケーション能力でグイグイ行くな。
「う、うん。佐藤君さえよければ、お願いします。」
「あ、俺は…。」
俺も自己紹介がてら、景樹みたいなことやってみようとしたら…。
「大丈夫です。知ってます。「女泣かせのクズ野郎」さんですよね。」
どういう覚えられ方してんだろう。
と、思ったら、来栖さんが目で後ろを見ろと合図を送っていることに気付いた。
おそるおそる後ろを振り向くと、教室の後ろのドア付近から強烈な視線を発射している女子が後ろの背の高い女子を引き連れてそこにいた。
いわずもかな、あやねるである。
つまり、来栖さんは状況を的確に判断して、先ほどのセリフを吐いた、ってことかな。
ちなみに後ろで、自分がどうすればいいか分からず、立ちすくんでるのは同じ班の今野瞳さんと判明。
「全く、白石君は、本当に「女泣かせのクズ野郎」になっちゃうかもね。」
来栖さんは少し笑顔になりながら、俺の隣にいる須藤に同意を求めていたりする。
「あまり彼女を刺激するようなことはしないほうがいいぞ。」
一緒に机を片してくれていた日向さんが、そうアドバイスをくれた。
あやねるがツカツカッて感じの歩き方で俺の親君に来た。
「何をやってるのかな、光人君。教室内でナンパはよくないと思うよ。」
気のせいか可愛いあやねるのこめかみに青筋が浮かんでる気がした。
「いや、何か誤解していないか、あやねる。机を片してもらうのを手伝ってもらっただけだけど。」
そう言われ、班ごとに島が作られていた教室が、綺麗に元の縦並びに変わっていることに気付いた。
「あ、ありがとうやってもらって…。」
「ああ、気付いてもらって助かるよ。俺と、光人、須藤と片付けてたら、来栖さんと、日向さんが手伝ってくれたんだ。な。」
景樹が簡単にこの場の説明をしてくれた。
「日向さんも、来栖さんもありがとうね。これからも、何かあったらよろしく!」
爽やかイケメン景樹君のお礼に、二人とも軽く頭を下げて、自分の机に向かった。
明らかに、俺に対するあやねるの態度が影響しているためだろう。
二人の動きはやけに不自然だった。
特に日向さんは何か言いたいような感じでこちらを何度か振り返った。
ただ、それは俺でない別の人が目的のような感じだ。
「宍倉さんも…、今野さん、早く身体測定の表、先生に出しといたほうがいいよ!」
教室の外で入るに入れなくなっている今野さんに、景樹は声を掛けた。
ビックリした今野さんが慌てて、あやねると一緒に教壇においてあるボックスに票を入れていた。
「で、俺は光人が生徒会室から帰ってくるのを待てばいいんだな。」
「ああ、悪い、ごめんな。」
「いや、俺がいろいろ聞きたいだけだから、気にすんな。」
「ああ、わかった。」
そう言ったところで、あやねるが戻ってきた。
LIGNEにも静海の着信が入っていたので、これから生徒会室に向かうという事を入れる。
「じゃ、ちょっと行ってくるな。」
俺はあやねるを伴って、昨日も行った生徒会室に向かった。




