第195話 親睦旅行に向けて Ⅱ
「はい、そこでラブコメは終了ね。始まるよ。」
一人の背の高い女子がそう言って俺とあやねるの会話を強制的に止めに来た。
この子が今野さんか。
確かにバスケやってるだけあって、背、高いな。
その一言でみんなその班の机のあいてるとこに座る。
あやねるは当然のように俺の横に座った。
が、あやねるの斜め前の席に塩入が陣取って、俺を焼き尽くさんばかりの睨みを入れてくる。
明らかにあやねるに好意を持っている彼にとって、この二日間は耳を覆いたくなる噂が耳に届いていたのだろう。
もっとも、噂と言ってるが、その半分以上は事実に基づいている。
俺の横にはなぜか瀬良が座ってきた。
先程の一件で変な同志意識を持ってしまったのかもしれない。
確かに俺はエロは好物ではあるが、この学校、クラスでは隠したいと思ってる。
それでなくても、一部女子から「女泣かせのクズ野郎」と思われているときに、さらに不名誉な呼び名、二つ名は欲しくない。
瀬良の前には須藤が座ってた。
てっきり俺の横に来るかと思っていたが、あやねるから一番遠い場所を選んだようだ。
尋常じゃない恐れ方だ。
俺の前には背の高い女子、今野さんが座ってる。
だが、微妙に先程怒ってきたときと、雰囲気が違う。
乙女らしさを前面にアピールしてると言えばいいか。
変にしぐさが、女っぽいように努力してる感じ。
この努力してる感じと周りに思われてる時点で、だめなんだけどな。
その原因は、その隣に座ってるイケメン男子の所為だろう。
自分から積極的にその座席に行ったのか、結果的にそうなったのかは何とも言えないところだが、爽やかイケメン景樹君は、気を使って、今野さんにこの旅行について話してるようだ。
景樹の普通さに対しての今野さんの落ち着きのなさ。
まあ、恋する乙女ってことなんだろうな。
確か景樹は今はそういうことは敬遠してる感じなんだけど…。
で、その景樹君の斜め前、この班のお誕生日席に塩入が構えてる。
あやねると少しでも近づきたいんだろうなって、みんなが気づいていそう。
ほかに班から、好奇の目で見てくる奴が少なからず見受けられる。
親睦旅行は、北関東にある日照大の研修所を使って行われるそうだ。
26ある日照大系列の付属高校がみなここで、親睦旅行と銘打った研修を受けるそうだ。
まあ、当然ながら、日程はかち合わないようにしているようだが…。
バスで移動して、初日の昼食が班ごとのカレーライスつくり。
その後、班ごとでオリエンテーリングを行い、その後、学校側が用意した材料をもとにペットボトルロケットの制作。
夕食は研修センターで用意してくれる。そして、先生たちの余興があって、入浴、就寝。
2日目は、早めに朝食を食べて、ペットボトルロケットを作成後、飛距離を競うという趣向らしい。
昼食後にその飛距離での優秀な班を表彰。その後に簡単単なレクリエーションと、3日目のオリエンテーリングの説明。
これが各クラスを縦断しての班編成らしい。
親睦旅行の肝といったところ。岡崎先生によれば、特進クラスと、内部進学組と外部受験者の接点を持たせるためのものらしいが、コミュ障にはきついイベントだ。
新しいクラスにも慣れ切ってないところでこんなことをする学校に少し敵意を持ってしまう。
そして夕食後、キャンプファイヤー。就寝。
最終日は朝食を食べたのちに問題のオリエンテーリング。その後バスに乗って昼食場所に移動。
その昼食時にオリエンテーリングの表彰も行うらしい。
昼食終了後はバスに乗って学校に帰るという日程。
今日はそのうちの1日目のカレーの担当と手順を決めるという。
できれば、ペットボトルロケットの原理を調べてほしいと岡崎先生が言っていた。
その資料は図書室にもあるし、電算室でインターネットから情報を収集してもいいらしい。
とりあえず、班長、副班長を決めるところから始まった。
「誰か立候補する人って、いるか。」
景樹がちんたらやる気はないらしく、すぐに声を出した。
「佐藤でいいんじゃん。部でも統率力あるし。」
投げやりっぽい態度で塩入が言った。
俺も雰囲気的には景樹がいいと思っているが、ここで景樹がその声に異を唱えれば、結局押し付けあった後のじゃんけんってのが相場。
「ああ、俺でいいならやるよ。別に大したことをやるわけじゃないんだし。」
あっさり快諾しやがった。
これが陽キャイケメンの決断力のすさまじさ。
「はい、はい、はい!私、副班長やります!」
今野さんが勢い良く手を挙げて、副班長に立候補。
別に他にやりたい人がいるわけもなく、すんなり決定。いろいろ楽でいい。
続いて、カレーの役割分担。
カレーを作るグループと飯盒でご飯を作るグループに分かれる。
カレー組に4人、飯盒組に3人というところまではすんなり決まったが、さて、誰と組むかというところで、少しもめた。
単純に言うと、あやねるが塩入を嫌がったという事。
それに塩入本人が気づいていない。
須藤と世良は完全に傍観者である。
「まあ、料理ってことで女子が決めるってことでいいんじゃないか。」
らちが明かないと判断した班長、佐藤景樹は女子に選択権を与えるという解決策を出してきた。
「えっ、そ、それは…。」
塩入は何とか抵抗しようとしたが、他6人の賛成で、今野班と宍倉班に分かれた。
カレー組を今野班が担当で、佐藤・塩入・瀬良、飯盒組は宍倉班で俺と須藤。
この班分けに渋い顔をしたのが塩入と須藤。
特に須藤は、あやねるが怖いのもさることながら、また二人の邪魔者扱いをあやねるにされることが嫌なのは目に見えている。
とはいえ、あやねる自身が、男性恐怖症を完全に克服していない以上、俺と須藤以外の男子と一緒に協同作業ができないという事実がある。
さすがに俺がそこを少し須藤に説明して、しぶしぶ了承させた形になった。
本当に疲れる。
また、塩入君の目の鋭さが増し、今にも俺を貫くほどまでに視線の鋭さが増したようだ。




