第194話 親睦旅行に向けて Ⅰ
結局、景樹も伊乃莉の家にいくことになった。
なんだかよくわからないメンバーだ。
というところでやっと始業のベルが鳴って、岡崎先生が入ってくる。
クラス全員が立ち上がり朝の挨拶後、先生が口を開く。
「さて、今日のスケジュールだが、うちのクラスの身体測定は後半、10時からの予定だ。」
そういう先生の顔は朝の爽やかさとは正反対で、疲れた感じを受けた。
まだ、昨日の婚約者お披露目会の疲れが残っているのか、もしくはその婚約者と何かあったのか。
「で、昨日言ったことだが、女子限定で、昨日言ったこと忘れてやっちまった奴いたら、あとで保健室まで行ってくれ。」
ああ、あの下着の話か?
さすがにあそこまで言われて…、と、どうやら何名かいる感じだね、これは。
挙動不審の女子が何人か目についた。
「で、だ。それまでの間に、学力テストの後に控える親睦会について、班で話し合ってくれ。少し決めとくことがあるんでな。ここに、映しておくから8時45分くらいから話し合ってくれ。学力テスト終了後にもう一回くらいそういう場を設けるが、できれば今回で大まかなとこ決めといてくれると後が楽になるからな。」
そう言って、先生はプロジェクターの用意に入った。
スクリーンが降りてきて、図と、行動の計画が出ている。
「とりあえず、机をこういう風に直してくれ。8時45分から話し合いな。一応班長と副班長くらいは決めてくれ。」
少し投げやりっぽい言い方でそう言って、いったん教室から岡崎先生は出ていった。
その後、図の通りに机を動かして、机で7つの島を作る。
「班ごとのグループ行動か。あんまり得意じゃないんだよなあ。」
須藤がそうぼやきながら俺の横に机をくっつけてきた。
「俺も中学の時の修学旅行はつらかったよ。5人の仲良しグループに一人で入ることになって、つらかった。」
当時を思い出してそんなことを須藤に漏らした。
共感してくれるかな、なんて思ったんだが…。
「そんなボッチ君。高校で覚醒してハーレム王になる。」
「なんじゃそれ!」
須藤のラノベにでも出てきそうなタイトルを急に詠唱する須藤。
しかも中空に顔をあげ、死んだ目をしている。
「今の白石の状況を端的に表現してみました。昨日の帰りの俺のつらさなんか、お前全く気付いてないだろう?」
「いや、一緒に帰ってくれて俺はとても助かった。遅くなったけどありがとう。」
「礼はいいけどさ。可愛い子に、本当にどっか行けって、暗に言われるのって、直接「キモイ」って言われるよりつらいことが昨日、実感できました。」
昨日の帰りのあやねるはそんなに怖かったのか。
うすうす感じてはいたんだが…。
「文芸部に入るのか、須藤。」
「まあ、そのつもり。昨日、俺の小説読んでくれたみたいで、勧誘の意味もあるんだろうけど、感想をよこしてくれて結構うれしかった。後で先生から入部の用紙もらおうと思ってる。」
「楽しそうでよかったじゃん。がんばれよ。」
「ああ。」
そう言って、須藤は照れ臭そうに笑った。
好きなものが見つかって、それを認めてくれるのはうれしいよな。
(お前も何か見つけろよ、光人)
(無理に見つけるもんじゃないだろう)
(そうだけども、さ)
ふと顔をあげて反対側の方を見ると、村さん、いや智ちゃんが(慣れないな、この言い方)こちらを見ていて、一瞬目が合ったと思ったら、逸らされた。
微妙な雰囲気を感じる。
それを見ていたのか、弓削さんが俺の方に苦笑いをした。
机のセッティングが終わるころ、数人の女子が教室を出ていった。
それを見るともなしに見ていると、後ろから背の高い男子が近づいてきた。
「あれ、白石君はあんなに可愛い彼女がいても、こういったことにやっぱり興味あるんだね、同士。」
振り向くと顔一つ高い位置からニヤニヤした笑顔で俺を見下ろすようにして言った。
俺が、何を言っているかわからんというような顔をしたら、余計変な笑い顔になった。
「またまた。ワイヤー入りのブラで来ちまった女子が保健室に行くの、見送ってたじゃん。」
「あの子たちって、そうなのか?」
「やだな、そらとぼけて。好きでしょ、そういうの、ヒヒヒ。」
うーんこの巨体で、にやにや笑いは、犯罪者一歩手前って感じだな。
「仮にそうだったとして、なんでそんなにうれしそうなんだ、えっと、瀬良だよな。」
「そっ、瀬良大智ってんだ、覚えてくれよ有名人。一緒の班だからさ。この班は宍倉さんなんかかなり可愛いけど、すでに白石のもんなのは解ってっから、あとは今野さんか。彼女もバスケットやってるみたいだから、話は弾みそうで、結構楽しみにしてんだ、この旅行。」
今野さんと言われてもあんまり覚えていないな。
後で顔合わせはするんだろうけど。
瀬良はエロ少年だが、人がよさそうでよかった。
あまりエロに突っ走られると巻き添えを食いそうだからな。
ほどほどの距離感を保てないとな。
「白石よう、俺たちは思春期バリバリなんだから、エロくて当然。女子のブラを想像できることなんて、楽しいに決まってんじゃん。」
まあ、そういう見方もできるか。
ただ、妄想に関しては、そんなことなくてもし放題じゃないかとも思うんだけど。
ちょっとしたことも、妄想を刺激するってこと、かな。
そろそろ時間になる。
あやねるがとことこっていう感じで近寄ってきた。
「さっきの伊乃莉の家に佐藤君を誘う件は、さっき直接確かめてきた。結構乗り気だったよいのすけ。」
「ああ、わかった。みんなで行こう。昨日のホームの話も伊乃莉にしないといけないしな。」
「うん、軽くは伝えてあるけど…。光人君も一緒の話してくれると助かるし。それとやっぱり、生徒会室に一緒に行っていいかな。」
「えっ、さっき遠慮するようなこと言ってた気がするんだけど。」
「うん、そうだけど、生徒会入りを決めたから、できれば言っておきたいなって気になった。だめかな。」
すでに考えることを放棄している俺は素直に答える。
「わかった。一緒に行こう。」
「うん、よろしくね。」
「はい、そこでラブコメは終了ね。始まるよ。」
一人の背の高い女子がそう言って俺とあやねるの会話を強制的に止めに来た。




