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第190話 岡林先輩との遭遇

「岡林先輩って、最寄り駅、伊薙だったんですか?」


 俺は電車を待つホームで岡林先輩に確認していた。

 妹の静海は少し俺に隠れるようにしている。

 まあ、高校3年でほとんど面識はないからな。

 とはいえ、俺だって昨日会ったのがほぼ初めてなんだけど。


「そお。住所は伊岡だからさ、東口になるよ。」


「うちとは反対ですね。うちは伊薙で坂の下になります。」


「もちかしたら、伊薙中?」


「あ、はい、俺は伊薙中です。妹は、って昨日一緒だからわかりますね。日照大千歳中ですけど。」


「白石君、ん~名前なんだっけ?」


「ああ、光人です。妹は静海って言います。」


 その言葉に俺の背から少し顔をだして頭を下げる。


 電車が入ってきて、3人で乗り込む。


「じゃあ、光人君でいいよね。光人君と同じで私も伊薙中だよ。」


「えっ、日照大千歳中学じゃないんですか?」


「うん、お姉ちゃんたちは中学からなんだけど。」


 ん、お姉ちゃんたち?


「先輩のお姉さんって、一人じゃないんですか?」


「ああ、そっか、向井さんの事で岡崎先生に聞いてたんだよね。向井さんの友達は一番目のお姉ちゃんの真佐子姉ちゃん。今、日照大に通ってる2番目のお姉ちゃんがいて、真亜子っていうの。で、私が真理子。」


「こう言ったらなんですけど、先輩のご両親って、名前を付けるセンス、面白いですね。」


 ちょっと失礼かなって思ったけど、つい、名前の付け方にそう思ってしまった。

 岡林先輩のフレンドリーさがあいまって、そんなことを言ってしまったのかもしれない。


「そうかな?」


「まあ、人の名前の付け方って、いろいろあるとは思うんですけど、真理子っておかしいとは思わないし、真佐子も普通だと思うんですよ。でも、真亜子って2番目で、3番目に真理子というのは、何か意味があるのかなとちょっと思ってしまって…。」


「お兄ちゃん、それ、本当に失礼。そんな事言ったら私たちの名前なんて、何考えてんのっていうレベル。」


「うちの親はまさか3人も娘を持つとは思ってなかったみたいでね、二人目の時は「真人」、真実の真に人ってつけようと思ってたらしいのね。そしたら予想外で女の子が生まれちゃって。その時芸能人で「真亜子」っていうのを見て決めちゃったらしいの。私の時は両方名前を用意してて、普通に真理子になったんだって。聞いたときは笑っちゃった。」


 聞いてみればどうってことなかった。

 そう言えば、そんな芸能人がいたっけ。


「今、静海が言ってましたけど、うちは漫画からですけど。「デスノート」の主人公の「月」って書いてライトって読むのに親父が憧れたんですけど、お袋の反対されて、光の人で光人となりました。でも、月に絡む名前を付けたかったみたいで、月面にある「静かな海」って書いてルナって呼び方になったのが、妹の名前の由来です。」


「ほー。なんというか、ロマンチストだね、お父さん。あ、この前亡くなったんだよね。ごめんね、思い出させちゃって。」


「ああ、気にしなくて大丈夫です。もう、気持ちの整理はついてますし、な、静海。」


「はい、お父さんは誇りに思ってますし、この名前も気に入ってます。」


(光人、聞いたか!静海が名前気に入ってるって)


 ああ、そう言えば、このルナって名前をお袋も静海も気に入ってるって、内緒だったっけ。


(なんだよ、それ。みんなして、なんでこんな名前つけんだ、みたいな雰囲気だったんだぞ!)


(知らねえよ、親父!それは親戚に文句言ってくれ。)


「そう、ならよかった。カホがその事故の後はちょっとひどい状態だったんだけど。光人君が入学するってことを聞いてからはちょっと変わってね。」


「ええっと、カホさんって、柊先輩ですよね。」


「そう。カホは夏帆って名前だけど、みんな漢字見ると「カホ」って読んじゃうんだよね。で、呼び名がカホってなったの。」


「うちの親父の事故直後はそんなにひどかったんですか?」


「うん。カホ自身はその場に居なかったはずで、甥っ子の蓮君の状態が心配ですーっとついてたっていうんだけど…。心配で家に行ったときなんか、あの読モやってるカホとはとても思えないほどのやつれようだったわ。頬の肉がげっそり落ちて、目の周りは隈が出来てえ…。食事もろくに食べてなくて、寝てないんじゃないかと思うほどね。だから生徒会の女子は単純に蓮君を心配して学校に来ないのではなくて、カホ自身の体調不良だと思ってる。なんでかは解らないんだけど、ね。」


(女子、怖い)


(同じ女子だから見舞いに行ってそう思ったってことだろうね。でも、やっぱり、柊先輩があの現場にいたことは隠し通しているんだな。そして、そのことに非常に心を痛めてるのも、多分事実だよ、親父)


(そう考えると、お前に近づいたのは、何らかの罪の意識の現れってことか)


 電車が幕場本庄駅に着いたので、3人で乗り換える。


 俺は、この岡林先輩の明るさに好意を抱き始めていた。


「さっきの話の続きだけど、光人君のお父さんの事故の事、結構報道されたでしょう。で、光人君がその報道陣の前で「父は私の誇りだ」って言ったのを好意的に放送してたりしてね。その子が入学してくるってわかってからは、カホは変わったの。光人君と、っていうか白石家と何とか縁を作りたいって感じに変わって、かなりいつものカホに変わっていったの。」


(つまり、自分のどうしようもない罪の意識を、白石家と縁を作るという目標が出来て、積極的に動き出したってこと、かな)


(そんなとこだろう。読モなんかやって、結構有名人だ。それでなくてもあの美貌だ。あの私の事故の現場に居たら、報道陣に何をされたか分からんからな。家族の者が、現場にいた事実を隠匿するわけだ)


「ただね、入学式で光人君が倒れたでしょう?カホはそれをチャンスだと思ったみたい。で、無理矢理会いに行って、君の失礼な態度をした。違うかな?」


「ほぼ、想像通りですが、なんでそれを…。」


「やっぱりね。君に会った後だと思うんだけど、生徒会室ですんごい暗そうに座り込んでさあ、ぶつぶつなんか言ってんの。近くで聞いてみたら、「失敗したあ、失敗したあ、失敗したあ~」って。聞いても今一つ要領を得ないし。」


「なんか、柊先輩って、面白い人ですね。」


「ホント、面白いよ。普段はすました顔で、クールビューティーでござい、なんて態度してんだけど、すぐに喜怒哀楽出てね。で、昨日なんて、学校の施設案内の担当、強引に変えたりして、光人君に謝りに行ったんでしょう?」


「ああ、やっぱりそんなことしたんですか、あの先輩。」


「斎藤会長がカホには大甘だからね。そんなところがまた、副会長の大月君の気に入らないとこでもあるんだけど。」


 そこそこ人のいる車両で、その半分くらいは日照大千歳の生徒っぽい。

 また違う女子生徒といるとまずいかもしれないという想いが出てき始めた。


「昨日の生徒会のあの言い合いは、そのせいですか。」


「それもあるけど、それだけじゃないのよ。君のクラスでの自己紹介に勝手に参加して、あまつさえ部活動紹介の事前打ち合わせをブッちして、しかも帰ってきたら誰のお小言も聞けないくらいの上機嫌。それがあなたたちが来るまで続いてんだもん。大月君がいくら起こっても、ずーっとニコニコ、いや、ニヤニヤしてたかんね。」


 それがあの時の生徒会の状況だったわけね。

 静海も今の話を聞いて目を丸くしている。


「施設案内が終わった後、あの可愛い感じの子、宍倉さんだっけ、カホに生徒会室に行きたいって言われたって、そりゃ上機嫌だったよ。しかも君まで来てくれるって言うから、その前の鬱陶しいくらいの陰気さが微塵もなくなってんだもん。もう、勝手にやってくれって感じ。」


 電車が北習橋の駅に着いた。


 岡林先輩と一緒に降りたところで、俺は先輩にお願いした。


「あーと、先輩、申し訳ないんですが、ここからは別々に登校してくれませんか?」


 思いっきり、変な表情で岡林先輩が俺に視線を投げてきた。


「えっ、どうして?私と歩くのが嫌?」


「いや、そういう事ではないんですが…。電車の中でも視線を感じてたんですけど、昨日の一件でそれでなくても変に注目を浴びてるのに、また今日も違う女性を連れてるって思われるのは正直、心が持ちません。」


 ああ、という感じで納得した顔をした岡林先輩。

 と思ったら、ひどく意地悪な目つきになってる。


「まあ、分からなくもないけど。いっそう私と一緒に登校して、光人君のモテぶりを見せつけるっていうのも楽しいかなって思い始めちゃった。」


「勘弁してくださいよ、先輩。」


「うん、わかった。許してあげる。でも条件だしちゃおう。」


 小悪魔みたいに口元がいやらしく笑ってる。


「えっ、条件って…。」


「結構君と喋ってると楽しいってのもあるけど、カホのこと、もう少し教えてあげるよ。今日は午前で終わるでしょう?」


「ええ、健康診断で終わりって聞いてますけど…。」「


「じゃあ、終わったら生徒会室に来て。そうしたら、ここから別々にバス停に行ってあげる。」


 また今日も、生徒会室に行く羽目になった。


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