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第189話 3日目 伊薙駅にて

 スマホのアラームが鳴っている。


 俺は目を開けて、周りを見た。


 間違いない、俺のいつもの部屋だ。


 睡眠不足なのは間違いない。

 上半身をベッドから起こして、今見ていた夢を思い起こした。


(おい、親父!今の夢は何なんだよ!)


 しばらくは無反応。

 もし本当にあの別の人格が消えてくれたのなら、こんなにもうれしいことはないんだが…。


(おはよう、光人。今日もいい目覚めだね)


 ああ、やっぱり消えたりしないんだね。

 うん、わかっていたよ。


(なに、一人で納得してるんだい。父さんにも聞かせてくれよ)


(すっとぼけんなよ、親父。俺の頭の中の思考は、あんたに駄々洩れなのはこちとら百も承知してんだよ)


(急に江戸っ子になったね。生まれも育ちもこの伊薙なのに!)


(俺が親父の人格がなくなったらうれしい、って考えたらすぐに顔出してんじゃねえか!駄々洩れ以外何が考えられんだよ)


(まあ、朝からそんなに怒ることもないだろう。なんだ、夢見でも悪かったか?)


(悪くはない。あやねるの子供の時の可愛らしさを堪能できた…、って、てめえ、何言わせんだよ)


(お前が勝手に言ってんだろう。私は悪くないよ)


(そういうことじゃない!あの夢、宍倉彩音の小さい時の親父の記憶だろうが!とぼけんじゃないよ)


 俺は親父の物言いに心底、頭に来ていた。


(別にとぼけてないよ。誰もあの夢が私の記憶ではない、って言ってないだろう)


(やっぱり、あの鮮明な夢は親父の記憶なんだな)


(そう、私の記憶だな、間違いない)


(親父殿さ、あれだけしっかりした記憶あって、あやねるを忘れてたの?あやねるみたいな記憶封印していたわけじゃないのに?)


(だから忘れてたんだって!昨日、宍倉真理さんに会って、門前仲町店時代を思い出したんだよ。それに彩ちゃんだってあんな美少女になっちゃうからさ…。)


(思いっきり名前言ってたよね!確かに男の子っぽかったけど、あやねるそのままだったじゃん!)


(それは当たり前だろう。昨日、彩ちゃんとその母親の真理さんと会ったんだ。記憶が補正されて夢に出てきても何もおかしくはないさ。)


(何かはぐらかされてる感じだな。でも、あんな感じで宍倉家に親父が関わっていたとすると、あやねるの態度の異常性が垣間見れるな。「白石のおじちゃん」って、かなり親しくないと言わない気がする)


(だからこそ、無意識での行動なんだろうな、光人の好意を持ったのは)


(真理さんには格好つけて彩音さんを守るみたいな事言っちゃたしな。とりあえず、雰囲気的にあやねるが嫌そうな場面には、盾になるつもりはあるよ。伊乃莉がいるときなら問題はないけど。同じクラスで、親しい女子が出来るとことは楽になるんだけど…。)


(よっ、「女泣かせのクズ野郎」!)


(うるさいわ!そんな風に変な噂できちまってるからさ、どうしたもんやら)


(昨日の感じなら、智ちゃんはまだしも、弓削さん辺りは味方になってくれるんじゃないかな。昨日の彩ちゃんの話をじかに聞いてるし)


(ああ、そうだった。その話とは別に、昨日の件でお礼を言っておかないとな)


(それをきっかけにするのはいい考えだよ、光人)


 その時、俺の部屋のドアをノックする音が聞こえた。


「お兄ちゃん、起きてる?結構いい時間だよ。」


 静海が心配して様子を見に来たようだ。


「今、着替えてるとこ。すぐ行くよ。」


「ママがご飯用意してるから早くね。」


「あいよ!」


 俺はベッドから立ち上がり、制服に着替え始めた。




 今朝は玄関に西村智子の姿はなかった。

 彼女の家の位置を考えれば、昨日うちの前にいた方が不自然であったし、昨夜の電話で流石に今日待ってることはないと思ったが、少しほっとした。


 で、相変わらず、静海が俺の手を握ってきた。


「これ、おかしいだろう?俺達兄妹だろう。」


「えっ、だからおかしくないでしょう。兄妹なんだから。10年くらい前はよく手を繋いで遊んでたじゃない。」


「いや、そんな記憶はない。大体、10年も前じゃお前3才だろう。絶対手を引いていたのは親父かお袋だ!」


(うーん、確かに私は二人の手を繋いでいた時だが、光人もちゃんとお兄ちゃんとして静海の手を繋いで、歩いとったぞ!)


(だから記憶ないって、俺!)


 ほぼ、無理やり引っ張られるように手を繋がれている。

 そして、たまに横に来るかと思えば、無理矢理、静海は俺の二の腕を抱くような行動をとる。

 そんなことをされては、静海のまだ薄い胸が制服越しに感じられてしまい、さらに昨日のあやねるの柔らかい胸と比べてしまう俺がいた。


(うわー、スケベなお兄ちゃんだこと。いいか、光人。静海はお前の妹なんだぞ。私と愛する舞子さんの愛の結晶なんだ。兄と妹でそう言う関係は、絶対、ゼッタイ、やってはいけないことだからな!)


(わかってるって!そんなことは絶対、あり得ない!)


(この世にあり得ないことなんて、ありえない。BY 鋼の錬〇術師)


(なに、アニメのセルフで格好つけてんだよ、親父!ありえないことはあり得ないなんて言ってたら、俺と静海がそうなってもいいと受け取れるぞ)


(あ、いや、前言撤回。つい、思いついて、言ってしまいました。ごめんなさい)


「静海!お前どさくさにまぎれて、何やってんの!」


「だって、昨日、西村さんから、お兄ちゃんと宍倉さんがこういう風にイチャイチャしながら歩いてたって言ってたもん。」


 自分の行動が静海に筒抜けな事態に、頭が痛い。

 しかも村さん、いや、智ちゃんから情報が言ってるとは思いもしなかった。

 昨日の登校風景を思い出すと、そんな情報を共有するとは思ってもいなかった。


「あっ、やっぱり本当なんだ。お兄ちゃんの不潔!付き合ってもいないことこんなことしてんだ。」


 俺が言葉に詰まったことに、その情報の正しさを確信したらしい。

 それはまだしも、さらに自分の薄い胸を人の腕にこすりつけるのは止めなさい。

 と言葉にはせず文句を心の中で行ってみる。


(言葉にしなきゃ伝わらんぞ、私以外には)


(一番伝わって欲しくない奴に伝わってるよ。大体、今の言葉はこんなに駅が近くて人が多いのに言えるわけないだろう)


(あ、確かに)


「静海、お前さ、つい最近まで、俺をゴキブリ扱いして、半径1m以内には近づくな!って言ってたくせに。このゼロ距離、と言うよりマイナス距離はどういうことだよ!」


「うー。それは…、しょうがないじゃん。また、好きに、なっちゃったんだもん。」


「お前、俺たちは…。」


「わかってるよ!お兄ちゃんとしてに決まってんじゃん!」


「じゃあ、これはやっぱりおかしいから。もう、駅なんだから、人目があるんだから。」


「もう、分かったわよ、お兄ちゃん。」


 やっと、静海がつないでいた手を離してくれた。


 俺はひとつため息をついて、ポケットから定期を取り出した。


 改札を二人で続けて通り抜ける。


「あっ、やっぱり白石兄妹だ!」


 後ろからそんな聞いた声がかかった。


 俺と静海は同時に後ろを振り返った。


 あれ?

 誰も…いない?


「違う!視点ちょっと下げる!」


 少し下から、そんな怒った声が聞こえてくる。


 二人で少し下を見たら、昨日見た高校3年の小さな髪の長い女性が俺たちににこやかにほほ笑みかけていた。


 え~と…。

 誰だっけ?


 明らかにわからないという表情が顔に出たらしい。


「もう、本当に失礼な兄妹だね!生徒会の岡林、岡林真理子!ちゃんと、覚えてよ!」


 少し怒りながら、柔らかい声で2度目の自己紹介をする岡林先輩だった。


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