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第186話 宍倉彩音 XIV

「うん。明日身体測定があるんだけど、先生からブラはノンワイヤーで来るように言われちゃって…。あったスポーツブラをつけてたら、思ったよりきつかった。それで、ちょっと時間かかっちゃって。」


「ああ、レントゲン取るのには、金属はまずいわね。なんとかなりそう?母親の私が見ても、少し大きくなってるように見えるけど…。」


「う~ん、大丈夫とは言えないけど、測定の間は我慢して、終わったら着替えようと思ってる。」


「じゃあ、替えのブラは忘れないようにね。」


 そう言いながら、時間を気にしてるような雰囲気。


「遅いね、お父さん。」


「うん、このお時間にも帰ってこないとこ見ると、光人君を誘って駅前の喫茶店にでも行ってると思うわ。どうも、それが目的で送っていくって気がしてたもの。」


「え、光人君大丈夫?」


「まあ、さすがに暴力沙汰はないでしょう。」


「私、あんなお父さん初めて見たよ。」


 私はお父さんの態度が不可解でしょうがない。


「そりゃ、今までは男性恐怖症で、男子をお父さんの前に見せたことないでしょう、彩音。あの態度は、私から言わせれば、まだしもよ。」


「そんなもんかな?」


「私の父、あなたからすればおじいちゃんの勝男じいちゃんなんか、高校の時に、わざわざ送ってくれた男の子に問答無用で殴りつけてたからね。」


「え~、あの優しい勝男じいちゃんが!」


「私にも優しかったわよ。でも、私の周りに男の子を寄せ付けなかったなあ。大学出て、敏文さんと付き合うようになってからは、しばらくは隠してたからね。女の子の男親なんてそんなもんよ。」


「じゃあ、光人君、まだしもってことかしら?」


 そこで、お母さんは私の問いかけに答えず、また時間を気にしている。

そんなにお父さんが帰ってこないの、心配なのかな?

もしかしたら、光人君の身を案じて?


「多分、この時間まで帰ってこないなら、あと15分くらいは大丈夫そうね。」


 なんか、私が考えてたことと、全く反対のことを言った。


「できれば、お父さんのいないところで、彩音の正直な気持ちを確かめたくてね。」


 そう言ってお母さんはまたお茶をすすった。

私は自分の席に座った。

お母さんの顔が少し真剣みを帯びた気がした。


「彩音は、光人君のことをどう思ってるの?まあ、さっきの態度見てれば、おおよの検討はつくんだけどね。ちゃんと確かめようと思って。」


 お母さんが私の瞳の奥を覗き込むように見つめてくる。


「これは、彩音にとっても光人君にも重要なことなの。光人君のことどう思ってる?まだあって、二日しかたってないけど。」


 真剣なお母さんの眼差しに、嘘はいけない、と自分に言い聞かせる。


「私は、光人君、白石光人君が好きよ、お母さん。」


うん、と軽くうなずくお母さん。

でも、それでは済まなかった。


「そうよね、あの態度は。でも、その隙という感覚はどういうものかしら。友達として、それとも異性として?今後はどうするつもり?」


「ええ、そこまでは考えてないよ。それこそ知り合ってまだ二日だよ。早すぎるよ。」


「でも、ほぼ最初に会ったときに、いつもの彩音が抱いていた男性への恐怖心はなかったんでしょう。それはなんでかな?」


「わかんない。でも、初めてあった気がしないの。いっても信じてもらえないかもしれないけど、昔から知ってるような、優しい雰囲気があって。これは、自分で言うのも何なんだけど、運命ってものを信じてしまいそうになるくらい、安心感があるの。光人君が好きなのは本当。それを帰りがけに、光人君に行ってしまったの。」


「で、光人君は?」


「それは単純にうれしいって!でも、私のその感情は、まだ成長途中のようなことを言われた。」


「成長途中?」


「うん。今、私の心は変わってる最中で、男性に対する恐怖心が薄れていっているところって。光人君自身はそのきっかけに過ぎない。だかっら、しっかりあたしの心が成長したら、その時でも僕のことを好きでいてくれた時に、初めて俺は君と対等に付き合えると思うって。」


 軽くお母さんが笑った。


「さすが白石影人さんの息子さんね。」


 お母さんが急に光人君のお父さんの名前を言った。


 ここで、どうして?


「お母さん、光人君のお父さん、知ってるの?」


 お母さんは私の言葉に少し悲しそうな笑みを浮かべた。

その表情に私は戸惑ってしまう。


 私、なんか変なこと言った。


「やっぱりそうなのよね。それも確認したかったんだけど、確認するまでもなかったか。はあ~。」


 お母さんがやけに大きなため息をこぼした。


「まあ、そうね、そうよね。ここで覚醒して、なんてファンタジー漫画でも見ない展開だものね。これはしょうがないか。」


 そう言ってまた一口お茶をすすった。

もうすすらなくても十分冷めてると思うけど…。


「初めの質問に戻るわね。彩音の態度が少しは変わってるかと思ったけど、光人君を好きという気持ちだけだって、わかったわ。光人君のお父さん、もう彩音も知ってると思うけど白石影人さんという人ね。この先に鈴蘭堂調剤薬局って薬屋さんあるのは解るわよね。」


「うん、お父さんの薬もらいに行くとこだよね。私もお使いで何度か行かされてるもん。」


「そう。白石影人さんは以前そこの薬剤師さんとして勤務していたことがあるの。」


「ええ、本当?」


 私はびっくりした。そんなことってあるんだ。


「もう5,6年くらい前の話だけどね。顔見知りくらいの仲ではあるわ。会えば挨拶してたし。あなたもお使い行ったときに何度かあってるはずなんだけど…。」


「そう、なんだ。全く覚えてないけど…。でも確かに光人君の家でお線香あげた時に、遺影を見て妙に懐かしい感覚があったな。忘れてたけど、それでそんな感じを受けたのか。」


「そう、やっぱり覚えてないのね。それで、昨日、夕食の時に聞いたでしょう、光人君とお父さんのこと。」


「そういえば、事故のニュースがどうとか。」


「そういうことよ。もしかしたらと思って会ってみたかったの。彩音が関心を持っている男の子としての興味もあったけど、本当にあの白石影人さんの息子さんかどうか確かめたくてね。」


「それで…。」


「間違いなく影人さんの息子だと言ってたわ。で、いつかお線香をあげさせてもらう約束もしちゃった。」


 私がいないときにお母さんは光人君とそんな話をしていたんだ。


 ああ、でもやっぱり、私と光人君にも見えないきずながあるんだな、きっと。


「彩音の気持ちも分かったけど、光人君も彩音のことをよく思っているのは間違いないわよ。あなたがその気持ちに自信が持てたら、しっかりと光人君に伝えなさい。」


 お母さんが応援してくれるのは心強い。

お父さんがあの調子だと、しばらくは光人君の話題はしないようにしないといけないかと思ってたから。


「うん、ありがとうね、お母さん。私もいろいろ頑張る。」


「当然勉強も頑張って頂戴ね。」


 うーん、そこに来ちゃうよね。

今度ある学力テストは気が抜けないな、こりゃ。

ひどい点とったら、お母さんも敵に回る気がしてきた。


「あ、そうだ、彩音。こんなおそいからどうかわかんないけど、光人君の家の肩から連絡来るかもしれないから、その時はこっちに回してね。」


「家の人?」


「今日、夕食食べてもらったでっよう。そのお礼に連絡くれる親御さんもいらっしゃるからね。」


 そう言われれば、うちのお母さんも、よく,いのすけのうちにお礼の電話してたっけ。


「うん、了解。」


 その時、玄関のドアのあく音がした。


「ただいま。」


 お父さんが帰ってきた。


「さっきの話はお父さんには内緒に、ね。」


 お母さんが可愛らしくウインクしてきた。


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