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第180話 有坂裕美 Ⅵ

 まさか、文芸部の見学に奴が、白石光人が来るとは全く思わなかった。


 ちょうど冷やかしの男子生徒を追い返したら、奴が女と一緒にいた。


 頭に血が上っていたところにさらに頭に血が逆流してくる。


「はあ、女連れできたか。やっぱり「女泣かせのクズ野郎」だな。」


といったところで、血が上っていた頭に強い衝撃が来た。


 ゴツン。


 かなりいい音がして、あたしの頭が猛烈に痛い!


「うちの部に興味を持ってくれてるだけで、うちらは謙虚に感謝しなきゃダメだって、昨日から言ってるよね、裕美。」


 裕美が本気であたしの頭を叩いてきた。

 おい、頭が割れそうに痛いぞ!


「すいません。一番興味があるのは、ここに居ないもう一人なんですけど。この部室の前で待ち合わせしてるんです。したら、いきなり先程の件に出くわしちゃって。」


 奴がそんなことを言っているが、あたしの頭はまだ痛い。


 奴、白石光人は部長である詩織と仲良くしゃべってる。

 少し羨ましい。あたしは最初から先入観とけんか腰の喋り方をしてしまったせいで、まだまともに喋れていないような気がする。


 そして、朝からの噂の一つ、やはり柊先輩と面識を持っていたことに、少し失望している自分がいた。


 あの、柊夏帆と比べて、全く勝てる気がしない!


 ちょっと待て、あたし。

 なんで柊先輩に勝つことを考えているんだ…。


 やっと痛みが引いてきたので詩織に文句を言ったら、正論で潰された。


 一緒にいる女子生徒は宍倉彩音というらしい。

 さっき奴が抱きしめていた女子であることはわかった。


 詩織が二人を部室に招き入れようとしたら、もう一人をその宍倉とかいう女子が発見して手招きしている。


 そこにいたのは部活動紹介の時に白石と一緒にいたメガネ男子だった。

 どうやらこいつが一番文芸部に興味がある奴らしい。


「有坂先輩、俺たち文芸部の見学、行っていいですよね?」


 そう言って来たので、反射的に「却下」と言ってしまった。


 だが、詩織があたしを怒ってくれて、無事に3人を部室に入れることが出来た。


 と思ったら、詩織があたしの胸の奥に隠してることをばらしてしまった。

 あまりのことに一気に顔が熱を帯び、慌てて部室の隅に飛び込んだ。


 端で聞いていたら自分の去年の騒動を知っていた。


 眼鏡男、須藤というらしいが、こいつは結構作品を作ることを楽しんでるようだ。

 帰ったら「なるべき」で読んでみよう。


 さらに、一緒にいた女子が朝の女子と同一人物で、しかも噂はかなり間違って伝えられていることが分かった。

 つまり噂を鵜吞みにして、結構白石に悪口を言っていたことに気付き、さすがにこれでは人を非難できないと思ったので、素直に謝った。

 そして、少し自分の心が軽くなったことを自覚した。


 そんなあたしに白石、いや光人は「可愛い」とまた言ってくれた。

 嬉しい!


 光人がここに来たのは眼鏡の須藤の付き添いだけではなかった。


 最初、質問と言われたので、自分の恥ずかしい情報を言ってしまい、また赤っ恥を書いてしまった。

 ただ、今の自分は男性とそういう事をしたことがないと伝えたかったのだが、先走りもいいとこだった。

 恥ずかしい…。


 ただ、既にあたしの親友、日向雅と知り合いになってるとは思わなかった。

 それと同時に、自分のことを応援してくれる雅に嬉しくなってしまった。


 が、雅は余計なことを光人に吹き込んでいた。

 あいつ、本当に余計なことを…。


 ただ、雅にすでに話せる友人らしきものが出来たのは良い傾向だ。

 そして雅が自分の作品を見せると言っている。

 雅も、こいつらと交流を持とうと思っている。

 私が感じた安心感だろうか。


 ずっと考えていたことを、光人に尋ねた。


「白石と宍倉は付き合っているのか?」


 その問いに、宍倉が光人のワイシャツの裾を握っていた。


 これを見れば、普通の人は付き合ってると認識するだろう。


「あッと、いい友人関係です。」


 この言葉に、明らかに宍倉の顔が失望に変わったのを見逃さなかった。


 まず間違いなく、宍倉は光人に惚れてる。

 そして、光人もそれを充分認識している筈なのに、その言葉…。


 でも、その言葉にホッとしている自分がいた。


 ああそうだ。

 もうあたしは自分を偽るのを止めよう。


 何故かは自分でも分からない。

 でも…。


 あたし、有坂裕美は初めて恋をした。

 下級生の白石光人に…。


 そして、やっぱり、白石光人は「女泣かせのクズ野郎」だった。



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