第175話 有坂裕美 Ⅰ
たかが部活動紹介だ。
別にいつも通りで私は構わないと思っていた。
それよりも、他の部との協力という方が私にとっては重要である。
今回、演劇部のシナリオの原案を書かせてもらった。
今までは小説しか書き方を考えていなかったから、難しくはあったけど、勉強になった。
ものを書く、自分の考えたストーリーをみんなに見てもらう手段は本当に多いと実感した。
もっともあらかた小川先輩に変えられちゃったけど…。
電脳部とは意気投合したは良いけど、出した企画は完全なダメ出しだった。
学園恋愛もの自体は否定されなかったけど、ハッピ-エンド、バッドエンド、ノーマルエンドだけでもあと3倍の枝分かれ要求されるし、それ以上に物語が薄いって言われちゃったからな。
部長の斎藤幹人は、PCに関しては結構な熱量のあるやつなんだけど、それ以上にシビアな目を持っていやがる。
こちらもそれに負けない根性でいいものを作りたい。
そんなことを部活動紹介で新入生に提示できればいいと、私は思ってるんだけど。
部長の詩織は、とりあえずいつもの格好は止めて、せめて壇上に立つ時だけでも普通の着こなしをしてほしいと頼まれた。
いや、これが、あたしだし。
詩織は部長という立場もあるし、今でこそ部員が2年だけとはいえ6名いるから廃部は免れているけど…。
何とか新入生を最低3名は入れたいと思ってると言っていた。
この学校は私立という事もあって、制服や身だしなみにそこそこ厳しい。
あたしは、この格好が好きというだけで、根っからのギャルという訳ではない。
でも、この格好を否定されると、つい意地を張ってしまうことが多いのも事実だ。
あたしは、結構勉強は好きだ。その勉強のもとは先人たちの知識の集合体でもある。
アインシュタインの相対性理論なんて、SFくらいでしかお目にかかれないと思っていたら、GPSのための人工衛星上で、その位置の特定の計算の補正に使われているなんて聞いたときには、ただ、ただ感動したものだ。
人によっては、数学の三角関数なんて将来にわたって使わないんだから、高校で教える必要はない、なんて言った弁護士がいたが、本当にどこで使うかなんて未来をわかるわけがない。知っているだけでも、必要になった時のとっかかりはえらく違ってくると思う。
ある弁護士は、医療訴訟で、相手の病院に対しての矛盾を突くために、懸命に医学書を勉強した、なんてことを言っていた。
当然、弁護士に医療の知識を勉強する機会はないはずなのに、依頼者のためにそこまでできる人は充分尊敬に値する。
翻って、先の弁護士の方が、違法建築などの案件に携われば、三角関数は知っていて損はないのではないかと考えてしまう。
やっぱり、知識は人の心を豊かにする。
知らなくていいかもしれないけど、知っていると、いろいろな事件や出来事をより深く知ることが出来る気がする。
別にそれだからあたしの成績がいいという訳でもないんだけど…。
嫌いな教科、先生もいるし。
でも、小説のネタ、という事では知識はあるに越したことはない。
私は将来、小説家という訳ではないが、物語を作って世の人々に診てもらう職業に就きたいと、結構真剣に考えている。
だから、文芸部だけでなく、演劇部、電脳部と協力をお願いしている最中なのだ。
微妙ではあるが、今回の新入生歓迎の舞台のシナリオに関わらせてもらった。
かなり直されはしたが、それでもギリギリ自分が伝えたかった内容が、盛り込まれたと思っている。
今度は電脳部に何とか、あたしに作品を生かした形でゲームに昇華してもらいたい。
そんな自分主張が、このギャルっぽい姿なのだ。
ここは詩織の頼みでも曲げることはできない。
そんなことを詩織にいったら、「もう、好きにして」と、呆れられた。
明日の文芸部の部活動紹介は、例年の勧誘と、今回の各部とのコラボという事を前面に出していくという事で、大方決まった。
それと少し色を付ける感じで、TSUGUMIのことに触れる。
興味のあるやつには刺さる筈だ。
流石にメイクを派手にしたら、ガッコに入れてくれない可能性はあったからそこはナチュラルで。
スカート丈もギリギリで攻めていこう。
リボンタイを少し緩めて、ブラウスのボタンを3つ開けてみたら、鏡にしっかりキャミからこぼれたピンクのブラが顔を出していた。
さすがにこれはあたしが恥ずかしい!
2つに変更。
去年のような、部活を邪魔する幽霊部員なんかいらない。
これは部員全員が共有している認識だ。
去年のあいつらは、3年には上がったが、結構教師に目をつけられていて、かなり息苦しそうだ。
ざまあみろってんだ。
あたしは去年の騒動、って言っても私がその中心だったんだけど、を、思い出していた。




