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第174話 宍倉真理 Ⅳ

「私が送っていく。」


 ちょっとびっくりした。

 夕食を食べ終え、なかなか面白い食卓の光景だったけれども、光人君が返るのに思ったより時間が狩ることを聞いて、帰る支度をしてる時だった。


 彩音が光人君を送る気満々で、靴を履いている時、敏文さんがそう切り出した。


 私は敏文さんを見ると、結構真剣な面持ちだったので、ここは信用できると思った。


 彩音が微妙に反発していたが、私の一言で不満な顔はしていたが、敏文さんに任せた。


 もっとも、当の光人君は顔が歪むのを、懸命に耐えてる感じ。


 恐らく、しっかりと光人君個人のことを見極めようと思ったのだろう。

 ここでいくら光人君との付き合いを否定しても、学校では同じクラスなのだ。

 敏史さんには何もできないんだから。


 二人がこの階からエレベータに乗って、姿が見えなくなる。


「お父さん、大丈夫かな?」


 彩音の心配は、当然敏文さんを心配してのことではない。

 敏史さんが光人君に何かしないかが、心配なのだ。


「自分の父親を信じてあげなさい、彩音。」


 私と彩音はダイニングに戻って、後片付けを始める。


 それなりの量を用意したつもりだったが、高校生男子はやっぱりよく食べることを痛感した。


「お母さん、私がいない間、光人君となにを話していたの?」


 気になるよね、そりゃ。

 差しさわりのない範囲ではしておかないと、変な事考えるかもしれないし。


「お礼を言ったのよ。彩音は事件のことや中3の嫌なこと、光人君に話したんでしょう。」


「うん。ちょっとした話の流れでね。それが関係するの?」


「当然でしょう。あなたが、伊乃莉ちゃんがいなくて、私達とも一緒じゃないのに、電車でちゃんと帰ってきたんだもん。それも同級生の男のことでしょう。びっくりすると同時に、すごい嬉しかったんだよ。これで孫の顔が見れる可能性が出てきたって。」


「それ、本気なの、お母さん。」


「半分は本気。可愛いらしいよ、孫って。半分は冗談だけど、でも、そうなってもいい、って感じだったよ、さっき、その話が出たとき。」


 そう言うと、彩音は下を向いてしまった。

 きっと恥ずかしくなったのだろう。

 なんと言っても「私たちはまだ」だもんね。

 当然そういう風になってもいいから言ってるんだよね、彩音。


「お母さんの意地悪‼」


「でも、彩音は光人君のこと、嫌いじゃないわよね。中3の時の男子に対する態度とは、雲泥の差があるよね。」


 この言葉に、キッ、って感じで私を見てきた。

 一番比べられたくない相手なのだろう。


「あいつらと光人君を比べないで!お母さんでも起こるよ!」


 おお、強烈だな。


「ごめん、ごめん。それくらい光人君が好きってことだね。」


「…、まあ、そう、だけど…。」


 と言って、また顔を伏せる。

 耳たぶが赤い。


「その気持ちは大事にね。今朝みたいなことがあると、さすがに私も心配しちゃうから、ね。」


「あ、ごめんなさい。無事、仲直り出来ました。他にもいろいろあったけど…。」


「仲直りできたのは、一緒に帰ってくるのを見てれば分かるわよ。でも、いろいろって、何かあったの?」


 伏せてた顔を上げて、少し不安げに私を見てくる。

 2匹目の子犬、ここに発見。


「ねえ、お母さん。ぱっと見で、光人君モテる方だと思う?」


 これは、恋のライバルが出てきてるってことか?


「そうね、本当のことを言わせてもらうわよ、悪い子だとは思わないけど、いわゆるモテるタイプには見えないわね。彩音を送ってくれるぐらいだから優しい子だとは思うけど。」


 彩音が微妙な顔でこっちを見てる。

 本当のことを言えという割には、光人君がモテるようには見えないというネガティブな言い方に反感を覚えてるよね。

 でも、その印象は彩音自身感じていることと一緒だから、文句も言えない、ってとこかしら。


「そうだよね、光人君。いわゆるモテ男くんではないよね。でもね、これは私が悪いんだけど、「女泣かせのクズ野郎」というあだ名をつけられちゃったの。」


「それは、もしかすると、彩音の所為、よね。」


 人前で、やっぱり泣いたのか、我が娘は…。


 我が愛しき娘は、首をコクンという感じで縦に振った。


「でも、そのあだ名がついたのは、私だけの所為でもなくて…。昨日はうちの高校で一番じゃないかという超絶な美少女の先輩に声掛けられて、で美少女の妹さんと一緒に登校して、さらにギャルチックな先輩と絡んだり…。自分で言うのもなんだけど、昨日の時点で私と伊乃莉と知り合ってるしね。なんか、やたらと、女性が彼の周りに居るんだよね。これ、どういうことなのかな。」


 それは私に聞かれても、としか言いようがない。

 大体妹さんはしょうがないと思うし、自分をしれっと美少女の中に入れちゃう彩音もすごいと思うんだけど…。

 絡んでるだけで、告白や好意を寄せられたっていう話じゃないんだし…。

 まあ、これが恋する少女ってものなのかな?


「単純に、環境が変わって、知り合いが増えただけって話だと思うんだけど。違う?」


「そう言われれば、そうかもしれない…。」


 でも、彩音が青春してることは素直に嬉しい。


 そうだ、伊乃莉ちゃんのことを聞いておかないと。


「今日はどうして伊乃莉ちゃんと帰ってこなかったの。彩音、まさか光人君に送って欲しいからって、伊乃莉ちゃんをないがしろにしてないでしょうね。」


 まあ、伊乃莉ちゃんの口ぶりはそんなことではなさそうだったけど。


「ああ、それはね。部活動紹介の後で、私が生徒会と文芸部に見学に行きたいっていったら、そんなに待てないって言われて…。そしたら光人君が送ってくれるから、大丈夫って伊乃莉に言われた。」


 そういう事か。

 待てなくはないが、良い機会と踏んだね、伊乃莉ちゃん。


「もう一度聞くけど、電車、大丈夫だったんだよね、気持ち悪くなったりしてないんだよね。」


「うん、それは大丈夫。光人君がいてくれて、安心して帰ってこれたよ。」


 もう、伊乃莉ちゃん、さまさまだね。

 ちょっと賭けに出た感は否めないけど…。


「彩音、あとで伊乃莉ちゃんにお礼言いなさいよ。こんな機会作ってくれたんだから。」


「そりゃ、光人君と二人っきりで帰れる機会なんてそうそうないとは思うけど。」


「違うわよ。あなたが私達や伊乃莉ちゃんなしで電車に乗れるような機会を作ってくれたことによ。」


「ああ、そういう事だったんだ。気付かなかった。」


「本当に伊乃莉ちゃんには感謝しないとね。」


「うん、わかった。」


 あとは敏文さんが帰るのを待つだけか。

 ちょっと遅い気がするんだけど。


 と考えていると、あることに気付いた。


「彩音、あなたもう寝ちゃうかな?」


「うーん、眠気は、やっぱりあるけど…。どうして?」


「もしかしたらだけど、あと2時間の間に光人君から電話あるかもしれないから、出来れば寝ないでもらうと助かるんだけど。」


「え、本当!うん、頑張って起きてる。でも、そんなことが何で分かるの?」


「この時間だから、何とも言えないけど。友人のお宅で食事をご馳走になった時って、親はやっぱりお礼を言ってくるもんなのよ。さすがに遅くには失礼になるから、来るかどうかはわからないんだけどね。」


「うん、了解。ちょっと楽しみ。」

 わー、うれしそう!

 こりゃ、かかってこなかったら、また寝られなくなるのかな?


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