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第170話 鈴木伊乃莉 Ⅴ

 あやねると光人は生徒会室に行く前に、学食で食事をとることにしたらしい。


 今しがた、あやねるから連絡が来た。


 私は友人とすでに食事を終えているから、自動販売機でジュースを買ってもうかなり空いている学食に着いた。


 さて、どこに座ろうか?


 空いてるとこならどこでもいいわけだが、入り口がよく見えるとこがいいよね。


 とりあえず、入り口から少し離れたところのテーブルの一つの座席に腰かけた。


 1-Fの友人、ミッチョンこと大木美津子ちゃんは陸上部を見に行った。

 中学の時は女子サッカーをしていたが、この高校にはないらしい。

 もともと走るのは好きとの事で、ちょっと一緒の行ってみたが、やはり私は体育会系は性に合わない。


 他の友人はとりあえず演劇部に行ったみたい。

 縁ちゃんこと、三枝縁がもともと演劇志望で、出来れば日照大の演劇科に進んで舞台演劇に携わりたいと言っていた。

 私には先の舞台の良しあしはよく解っていないが、結構感動したんだとか。


 で、あやねるから連絡があったのを機に、ミッチョンと別れて学食に来たとこ。


 すぐ来るようなこと言ってたくせに、いまだ姿を現さない。


 さてと、どうしたもんか。


 この後光人と一緒に生徒会室に行くはずだけど…。

 またその間どこかで暇をつぶすのも、少し飽きてきたかな。


 なんて考えていたら、見覚えのあるセーラー服を着た女の子が学食に入ってきた。


 セーラー服はこの高校の下、中学の女子の制服である。

 ただ、中学女子に知り合いって…いた。


 光人の妹、静海ちゃんだな、あれ。


「静海ちゃーん。」


 私は静海ちゃんに声を掛けた。

 そういえば光人と一緒に柊先輩に会いに行くって言ってたっけ。


 一瞬、声を掛けられた方、つまり私を怪訝そうに見てきた。


 あれ、顔、覚えられてないかな?

 昨日と今朝方、顔合わせてるんだけど…。


「あ、悠馬のお姉さん!こんにちは。」


「ああ、よかった、覚えててくれて。忘れられちゃったかと思って、お姉さん少し悲しくなっちゃったよお~。」


「す、すいませんでした。まさか一人でこんなとこにいるとは思わなっかたんで。」


 恐縮しながら近づいてくる。

 おそらく、目的は一緒。

 待ち合わせ。


「まさか、宍倉彩音と一緒じゃないとおかしいかな?」


「あ、いえ、そんなわけでは…。」


「宍倉彩音、まあ、あやねるって呼んでるんだけど、同じクラスじゃないんだよ。彼女の、っていうかお兄さんの光人も同じクラスだけど。いま、あのクラスだけ変な催し物をやってるみたいでね。もう終わったからって、ここで待ち合わせてんだけど、なかなか来ないんだよね。」


「あ、やっぱりそうですか。私もお兄ちゃんと待ち合わせなんですけど、おかしいな、連絡は結構前に来てるんですけど…。」


 静海ちゃんは私の前の席に腰かける。


 おお、やっぱり可愛いねえ、静海ちゃん。

 結構身長あるんだけど、まだまだ発達中って感じ。

 光人とはそんなに似てないよな。

 静海ちゃんの方が柔らかい感じがする。


「そういえばクラス替えはどう?悠馬とは一緒?」


「いえ、お陰様で私はD組ですけど。悠馬君は確かB組だったかな。」


「あラ~、悠馬、別のクラスになっちゃったんだ。泣いてなかった?」


 クラスが発表された掲示板の前で泣いている悠馬の姿を、まるでそこにいるように簡単に想像がついてしまう。

 帰ったら慰めてやろうかね、優しい姉としては。


「さすがに泣いてはいませんでしたよ。すんごく落ち込んでいるようでしたが。でも同じサッカー部の子と一緒でしたから、大丈夫ですよ。」


「いや、さすがに大丈夫ではないと思うけど…。まあ、いいか。静海ちゃん、お昼は?」


「ああ、1年の時の同じクラスの子ともう食べました。えーと、悠馬君のお姉さんはこの学食、食べてみました?」


「伊乃莉、鈴木伊乃莉ね。覚えてよ、ちゃんと!昼食はクラスで友達になった子と食べた。日替わりランチってやつ?結構おいしかったね。安いし。」


「そうですね、おいしいとは思います。でも、女子はあんまり使わないからって、男子の食べてるものに+αが付くんですよ。今日は確かサラダがついてたはずですけど…。」


「ああ、ついてた、ついてた。あれって女子だけなんだ。気付かなかったよ。」


「今日は日替わり、唐揚げでしたよね。あのお皿にキャベツの千切りついてたんですけど、それにさらにサラダつけてるんですよね。あんまり男子はサラダに関心ないけど、女子としては、ね。」


「あははは、確かにね。悠馬も、肉ばっかだし。そうか、あれサービスだと思わずに食べてたわ。どっかに書いておけばいいのにね。」


「あんまり事を荒立てると、男女平等がどうのとか言われるそうで、こそっと、って感じらしいです。いわゆる知る人ぞ知るって感じがウリっぽいです。」


「そっか、良い情報ありがとうね、静海ちゃん。うち、結構朝は忙しかったりするから、ここ使わせてもらっちゃおう。母さんも助かるわ。」


「うちもそんな感じですね。去年までは結構作ってもらってたんですけど…。もう母しかいないんで…。」


「ああ、そうだったね。でも、光人見てるとあんま、そんな感じしないんだよなあ。だから、あやねるが怒らせちゃったってのがあって、今朝の展開だよ。友人としては、朝あってからずーっと慰めてたんだけど…。静海ちゃんのお陰で何とかなったみたい、ありがとうね。」


「別に、そんな大層な事では…。私も柊先輩には会ってみたかったですし。なんと言っても、この高校の2大スターの一人ですから。会えるチャンスがあるなら、ぜひ会いたかったんですよ!」


 と言ってる割には、そんなに嬉しそうには見えないんだよね。


 憧れていたのは、多分、本心なんだろうけど…。


 憧れていた人の身内の所為で、実の父親を亡くす。

 そう、すんなり会えるものなのかな。


 私の場合は、すでに死んで、大方の後処理が済んでからうちのお母さんと父が結婚して私が生まれてるからな。


「でも、あの二人がとんでもない人たちだってのは、今日わかったよ。本当に。特にあの狩野瑠衣っていう先輩。なんなの、あの親衛隊みたいな人たち。」


「ああ、噂のRUI親衛隊のことですね。中学でも参加してる人いるみたいで。今日、始業式終わった後、いなくなってる人たちがいたんですが、どうもその親衛隊みたいで。部活動紹介に潜り込んだみたいですよ。」


 楽しそうにそんなことを静海ちゃんは言った。

 さっきの少し影がある表情は消えていた。


 これから柊先輩とやらに会いに行くの、大丈夫なのかな?

 お姉さん、ちょっと心配。

 でも生徒会室には、絶対、行かないからね。


 そんなことを思っていたら、やっと待ち人が来た。

 あやねると光人、はいいんだけど。

 もう一人、さっきのヲタ系男子が一緒だ。


 なんか、あったな、これ。


 邪魔ものがいるにもかかわらず、微妙に機嫌がいい。

 おかしい。


 とりあえず、私と静海ちゃんに怒られたのち、まだ昼食を食べてないので学食が終わる前に滑り込みで買ってきた。


 で、食べてる最中に、あやねるはとんでもないことを言い出した。


「生徒会の件、終わった後に光人君と須藤君と一緒に文芸部も見に行こうかと思うだけど…。」


 それで3人か!

 まさか、まだ私を待たせる気かい!


 私はあやねるに文句を言いつつ、これは良い機会ではないのか?


 私は光人に目配せした。


「うん、わかった。あやねる、私、帰ることにする。」


 私はあやねるにそう言った。

 これは、さっき考えていたことだ。

 まさかこんなに早く機会が来るとは思わなかったが…。


「うーん、ちょっと我儘すぎる気がするのと、帰りはあやねるの騎士様が送ってくれそうだから。」


「わがまま、なのかな?」


 あやねるがそんなことを言ってくる。

 いや、どう考えても我儘でしょう。

 私をどのくらい待たせたら気が済むんだっちゅうの!


 とはいえ、とりあえず、光人に軽くウインクする。


「光人があやねるのことを送りたそうにしてるから、かな。とすると、邪魔者は早々に退散しないと。」


 その後はなんかいろいろ皆さんの間でやり取りがあったけど…。


「じゃあ、そういうことで!あやねる!お母さんには連絡しときなよ!」


 私は何か言われる前に、さっさと学食を後にした。


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