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第166話 須藤文行 Ⅵ

 日向雅さんに声を掛けられ、思わずキョドってしまった。


 本当に俺は女子に免疫がない。

 というか、自分以外の人には多分、同じような行動をしているのだろうけど。


 でも、嬉しかった。

 僕の作品を読みたい、なんて言われたらもう、どうしようもなく嬉しかった。


 思わず文芸部に持って行こうと思ってプリントした僕の作品、「魔地」を渡してしまった。

 同じく小説を書いているであろう文芸部の先輩なら、作品に対する正当な批評をしてくれると思って持ってきたんだが、そうでない人間だと、ただ悪口を言うためだけの批判を繰り広げたりする。

 渡してしまってから、少し後悔がよぎった。


「読み終わったら、忌憚のない意見を聞かせてくれると嬉しいな。」


 自分ではそういったつもりだが、かなり噛んでいたようだ。この言葉に、日向さんは。


「それは最低限のマナーだね。OK、ありがとう、須藤君。お礼というにはおこがましいけど、週明けに私の作品、持ってくるよ。見てもらえたら嬉しいな。」


 と言ってくれた。

 ちょっと涙が出そう。

 でも、日向さんも小説書いてるのかな。

 微妙に作品という言い方が気になった。

 まあ、それも週明けにはわかるし。まあいいか。


 とりあえず、俺と白石、宍倉さんで学食に向かう。


 そこには少し怒っている美少女が二人。


 ちょっと待ってくれ、白石!

 お前の周りには美少女しかいないのか?


 そこにいる二人が、朝方の騒動の時にいた二人であることはわかってはいたが、それでも今自分の周りにいる3人の女子がレベルの高い美少女という事実は変わらない。

 さらにここに柊夏帆が加われば、自分が高校にいるのではなく、高校を舞台にした映画の撮影に参加したエキストラかと思ったとしても不思議ではない。


 この白石光人とはいったい何者なんだ?

 昨日の朝の時点では同じ側の人間だと思ったのに…。


 美少女二人に怒られている白石に、俺のことを紹介してくれるように頼んだ。


 なんか屈辱感。


 白石の妹と紹介された静海ちゃん。

 中学2年との事。

 確かに幼い感じがあるが、しかし背丈ってこんなに高いのか?

 あまり兄には似てない感じ。


 鈴木伊乃莉さんは、宍倉さんとは違って少し大人っぽい、というより保護者っぽい?

 大きめの少しきつめの瞳でこちらを見てる。

 どうやら値踏みされてる感じがするんだが…、何故?


 なんて考えてたら、やっぱり宍倉さんの保護者だったらしい。


 文芸部見学の件で怒った振りをして、白石に送ってくるように命じていた。

 そう、まさに有無を言わさずの命令だった。


 宍倉さんを白石に押し付ける形で、鈴木伊乃莉さんは颯爽と学食を後にした。


 俺はその後姿を、おそらく羨ましく思っていたのかもしれない。

 微妙に文芸部への見学を白石に頼んだことに後悔の念が沸き起こり始めていた。

 そうは言っても、頼んだのは俺だ。

 もう逃げることはできない、らしい。


「白石さ、LIGNE交換しとこう。後で連絡くれよ。」


 仕方がないので連絡先を聞いた。

 そして俺は、颯爽とはあまりにもかけ離れた形で白石から逃げるように離れた。


 電脳部は刺激的だった。

 eスポーツ班は見てる分には充分エキサイティングだったが、とてもじゃないが参加できるような柔な部活ではなかった。

 やるならプログラミング班だろう。

 まあ、有坂さんの恋愛経験不足満開のシナリオはどうしたもんかってとこだけど…。

 人のことは言えないんだけど。

 もしかしたらお互いの足りないところを補えば、リア充では辿り着けない究極の恋愛ゲームができるかもしれない、なんてね。


 そんな事を考えつつ、電脳部の方々に礼を言って部室を後にした。


 とりあえずLINGEに白石たちと文芸部の前で待ち合わせのメッセを入れた。

 それまで連絡がないところから、まだ生徒会室で用事をしている最中か?

 ここはまず先に行かせておいた方がいいだろう。

 先に行って有坂先輩にでも見つかったら、何のために白石を誘ったのか意味が分からなくなってしまう。


 目の前に会った自動販売機から紙パックのジュースを買い、飲みながら少し時間を潰す。


 そろそろ、大丈夫かな。


 そう思って文芸部の部室に向かうと、見慣れた二人の後ろ姿を見つけた。

 仲良さそうな二人を見て、「いいなあ、ああいうの」とは思うものの、この二日間を考えると一人の方が気は楽かもしれない、といつもの結論に落ち着く。


 だから陰キャボッチとなっていくんだよなあ。


 行く場所は一緒なので、声を掛けずに後を行いていく。


 2階への階段を上っている途中で、聞きなれてしまった有坂先輩の怒声が聞こえてきた。

 その後、チャラい感じの男子新入生が階段を下りてくる。


 俺はビビりながら階段の脇に避けた。

 何か悪口を言いながら自分の横を通り過ぎる。


 何事もなくやり過ごせたので、一息ついてたら、今度は白石が絡まれた。

 階段を登り切らずに顔だけ出して様子を見たら、宍倉さんに見つかった。


 優しそうな文芸部部長の大塚先輩の招きで、仕方なくそのまま部室に入って話を聞くことになった。


 でも、文芸部というより主に有坂先輩の個人情報と、日向雅さんについての話だった。

 それでもTSUGUMI先生がやはりこの高校の文芸部にいたことは、僕にとっては一つの成果だと思ってる。


 もう、自分の中ではこの部に入ろうと思っているが、週明けに岡崎先生に入部申請書をもらってからになる。

 有坂先輩も、想ったより怖くない。

 というより面白い。

 有坂先輩の個人情報は、僕には刺激が強すぎて、これからの妄想に役立ち、いや、いや、小説のネタに活躍してくれそうだ。


「ごめん、ちょっと保健室に報告しなきゃ。」


 おい、白石なに言ってんの!

 宍倉さんを送ってくんじゃねえのか!


「二人ともちょっと待ってて。」


 おい、せめて俺を解放してくれ‼


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