第164話 須藤文行 Ⅳ
なんで俺はこの3人でここにいるのだろう?
部活動紹介のために第1体育館に来ている。
まあ、女泣かせのクズ野郎こと、白石光人は解る。
席が前後で、このクラスになって友人と言える奴だ。
例え入学からすぐにラブコメでおなじみのハーレム野郎だとしても…。
ただ、そのとなりにいる爽やかイケメン君はなぜ、ここにいるんだ?
名前は佐藤景樹。
おなじクラスメイトではあるが、ついさっきお互いに知り合ったばかり。
俺と同じ匂いのする白石はまだしも、なぜこんな陽キャの権化のような奴と俺は同じ場所に座っているのか、いまだ自分で納得できずにいる。
佐藤君がやけに白石を気に入ってしまい、一緒に部活動紹介に行くことになったのがどうもこの状況の発端らしいが。
白石は白石で、なんでここまで佐藤君がなついているのか、微妙に解ってない風だが、諸事情でこの組み合わせを選んだ感じ。
その証拠に変な目でこっちを見ている、うちのクラスの美少女と言っていい女子の存在。
俺の前の席の白石と今朝方痴話喧嘩をやらかした宍倉彩音さん。
一応、俺にも声をかけてくれる程度には親しいと思うが、その目は怖いからやめてください。
この白石という男。
どう見てもこちら側の陰キャボッチ系の奴だと思ったんだが、クラスメイトの美少女にその友人の女子、明るいムードメーカーの西村智子さん(お顔はちと残念)、可愛い妹に、この学校で屈指の美女、生徒会書記の柊先輩と奴の周りに女子がいっぱい寄ってくる。
そうはいってもこいつのおかげで儚げな感じの来栖さんと結構仲良くなれたので、そこは感謝してる。
どっちにしても、塩入君のようにお気に入りの女の子が、白石に夢中でいやな気持ちになっているわけではないので問題はない。
ただ、ここまでイケメンの佐藤君がいると、俺は何をしゃべっていいのか、本当に解らん。
あっちは陽キャ特有のフレンドリー感満載で接してくれてはいるんだが…。
大体、佐藤君にしても塩入君にしてもサッカー部に入部しているらしい。
ここにいる意味はないんじゃないだろうか?
白石の話だとダンス部のパフォーマンスが面白いからと言ってた。
自分が文芸部と演劇部に興味があることは白石に伝えているが、白石は別に興味はなさそうだった。
まあ、別に佐藤君は俺をからかってくるようなことはしない。
というより、白石をいじって遊んでる感じ。
確かに白石はからかうにはネタが豊富過ぎる。
昔からの知り合いではなく、昨日初めてあったにもかかわらず。
部活動紹介が始まった。
最初は俺が一番興味がある文芸部の紹介だ。
この高校の文芸部に関して、俺が閲覧している「作家になるべき」のサイトで、結構話題になっている。
本当かどうか定かではないのだが、去年、当時の1年生が上級生の2年生を部から叩き出したという噂。
もし真実なら何が起きたかは非常に興味がある。
ただ、それが自分の身に降りかかることは避けたい。
なんてことを考えていると、とんでもない人が壇上に現れた。
文芸部副部長有坂裕美、2年生。
本当にその恰好は今までのこの日照大付属千歳高校で見られるような姿ではなかった。
当然、学則違反だとしか見えない。
その恰好でこの壇上に出てくる肝っ玉の太さ。
もし、先の噂が真実なら、やったのはこの先輩に違いない。
少し文芸部に対する見方が変わった。
入らないほうがいいのではないか。
隣のもう文芸部にしか見えない部長の先輩がしかめっ面をして、フォローの発言をしている。
にもかかわらず心が真面目だなどとほざいている。
さらに新入生に話を振ったかと思ったら自爆していた。
えっ、この人なんなの?
白石も佐藤君もびっくりしたようにこの状況を見ていた。
司会の生徒会の先輩がかなり厳しい表情を向けていることに気づいた部長先輩が、本来の部活動紹介に話を戻した。
「須藤はさ、そういうところの投稿とかしたことあんの?」
佐藤君が文芸部の話で僕に聞いてきた。
まあ、体育系の陽キャイケメンには縁のない世界だと思うけど、簡単に説明した。
あまり興味はなさそうだったが、有坂先輩には興味がありそうで、白石に先輩を追い出した噂について聞いていた。
で、やっぱり追い出したのは有坂先輩でビンゴ!
なんて話をしてたら、まさかの本人の登場。
うわー、引き攣った笑顔が怖い!
でも標的が白石でよかった。
正直安堵した。
と思ってたら、さっきの誉め言葉に照れる有坂先輩の姿が記憶に新しいからか、明らかにコミュ障陰キャにはできないスキル、褒め殺しを白石は有坂先輩に向けて放っていた。
いや、本当、さっきの新入生とのやり取りでそこが弱点なのはわかってたけど、それをすぐさま攻撃力として使える奴は、俺たち陰キャ族の人間ではありえない。
しかも照れる有坂先輩は素直に可愛い。
あまりにもその可愛いテレ顔を女泣かせのクズ野郎が引き出したことに頭に来たのでちょっと有坂先輩にチクった。
胸元の隙間を凝視していることを。
「おい、須藤!なに言ってんだよ!」
俺の言葉に白石は慌てて俺を非難してるが、有坂先輩は手が出そうになっていた。
そんな行動を司会のイケメン先輩が止めてくれた。
いやあ、大げさなことにならなくてよかった。
と思っていると、有坂先輩まで白石の「女泣かせのクズ野郎」の名声が伝わってることに噂の速さの凄さに驚く。
とはいえ、この状態で文芸部に行くのか、俺。
「白石、頼む。一緒に文芸部の見学付き合ってくれ。」
俺はこの「女泣かせのクズ野郎」にすがるしかなかった。
例え、美少女を従え、さらなる美女のいる生徒会室に行くようなハーレムキングだとしても。
白石は有坂先輩とのひと悶着でかなり文芸部への見学をいやがっていたが、もともと人がいいのだろう、最終的に文芸部への同行を承諾した。
そう考えると、つい頭に来たからと言って、白石の有坂先輩へのセクハラは言うべきではなかったかな。
白石がどうなろうと、ざまあ~って感じだけど、結局俺は自分の首を絞める結果になったんだから。




