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第159話 母親同士の会話

「ただいま!遅くなってごめん。」


 ドアを開け、家の中に声を掛ける。


「お帰り、光人。大丈夫だった、こんなに遅くなったけど?」


 お袋が座っていたソファーから声を掛けてきた。

「ごめん、友達のお母さんに夕食誘われちゃって、食べてきちゃった。」


「あら、そうなの。まあ、こんな時間だと何処かで食べてきたとは思ったけど。連絡してね、そういうときは。じゃあ、冷蔵庫に夕飯は行ってるから、明日にでも食べて……、ちょっと待って、今どこで、食べたって?」


「友達の家で、そこのお母さんに誘われて、一緒に夕食ご馳走になってきた。」


「それ、先に行ってよ!あれ、今、何時?10時半?光人、その友達の連絡先分かる?お礼言わないと‼」


 ああ、そうなるんだ、親の立場だと。


「お兄ちゃん、宍倉さんちで夕食まで一緒だったの?」


 少し沈んだような暗い声が右から聞こえてきた。


 静海が部屋着で立っていた。


 薄いピンク色の長袖のTシャツに水色の七分丈のパンツ姿は、華奢な静海によく似あって可愛いと思うのだが…。


 その表情!


 どうしてそんな表情になるんだ!


「お兄ちゃんは、私やママとご飯食べるより、昨日知り合って家に連れ込み、今日泣かせたと思ったら手を握って家まで送っていく、ショートボブが似合う胸の大きな美少女とご飯を食べる方がいいんだよね、お兄ちゃん。」


 すごく悪意の強い言い方。

 俺を見る目が、以前の黒い害虫Gを見るよりもさらに険悪になっている。


(光人、お前は静海に何をしたんだ!)


(なにも、何もしてねえよ!)


「ねえ、お兄ちゃん。宍倉さんと付き合ってるんじゃなかったよね。それが、もうお家にお呼ばれして、食事をしたの?それは結婚の報告かなんかしてきたってことだよね。でなければ、普通相手の親と食事、しないよね。どういうことなのかしら?」


 尋問レベルが上がってる?


 というか、何で妹にこんなこと言われなきゃなんないんだろう。


 単純に考えて、家族とご飯食べるより、あやねるみたいな彼女が出来たら、そっちと食事した方が楽しいのは普通ではないか。

 彼女じゃないけど。


(それ言ったら、血を見るかもしれんぞ、光人)


(うん、今の静海からは闘気が見える)


「静海はちょっと後でいい?光人、そのお友達に連絡取れる?遅くて申し訳ないんだけど…。」


「もう、10時半超えてるからなあ。」


(舞子さんは今の静海の話、聞いてないよな。相手が女の子だって、全く思ってないぞ、これ)


(うん、そうだよな。LIGNEで無事帰ったことは伝えようと思ってはいたけど…)


 まあ、嫌われるならしょうがないか…。


 お袋を見ていると、ここまで元気になった事の方が俺としては、実は嬉しい。


「お袋、ちょっと友達にかけてみるけど、遅いから断れたらごめんな。」


「あ、うん。お願い、光人‼」


「こんな時間に宍倉さんに電話する気‼」


「まあ、お袋の頼みだからね」


 まだ何か言いたそうにしている静海を手で制して、スマホから電話した。


 さすがにこんな時間じゃ、でないかなと思ったら、2コールで繋がる。


『ら、光人君、2時間ぶり、だね。電話、初めてだよね、嬉しい!』


「うん、夜分遅くにごめんね。無事家に着いたんだけど、そっちで夕飯いただいたって話をお袋に言ったら、家の人にぜひお礼を言いたいって聞かないもんだから、さ。申し訳ない、真理さん、大丈夫かな?」


『なんだ、私の声が聞きたいとかじゃないんだ、ふーん。』


「いや、声を聴きたかったのはあるよ、でも、時間が時間だからさ、こんなことでもないと、電話できなくてね、なんか、ごめん。」


『冗談、だよ。待っててね、お母さん、ちょっとお父さんをさっきの光人君に対することで説教してたから。帰りがけにも、もう遅いのに、喫茶店で何かしたんでしょう?』


「うん、まあね。でも、あやねるを思ってのことだから。勘弁してあげて。」


「お兄ちゃん、そんなに宍倉さんの声、聴きたいの?」


 いいから黙ってくれ、という意味で静海の前に手のひらを広げた。


 不服そうに頬を膨らませる静海。


(静海の怒ってる顔も可愛いな)


 親父が親バカ全開で俺の脳内をかき乱す。


 お袋が俺の横に近寄ってきて、早く変われポーズをしている。


 なんか、俺の家族、うざい!


『じゃ、お母さんに変わるね』


『こんばんは、光人君。』


「真理さん、こんな遅くに申し訳ありません。先程はごちそうさまでした。で、こんなに遅く悪いんですけどうちのお袋が一言、お礼が言いたいとの事で、お電話してしまいました。大丈夫ですか?」


『ええ、大丈夫よ。うちの人にちょっと光人君への態度に一言言わせてもらってただけだから。別にお礼なんて…。でも、影人さんの奥さんだよね、当然。』


「ええ、それは間違いないですね。では、かわります。」


 そういって、近くでそわそわしているお袋に俺のスマホを渡した。


「同じクラスメイトの宍倉さんのお母さん、宍倉真理さん。」


「え、宍倉、さん?」


 そう、小首をかしげながら俺からスマホを受け取る。


「夜分遅く本当にすいません。白石光人の母、舞子です。今日はうちの光人が夕食をご馳走していただいたそうで、申し訳ありません。一言お礼を申し上げたくて…。あ、いえ、そん、な…。送っていった…。いえ、とんでもない、息子が役に立つ、なら、良いんですが…。はい、あ、ちょっとお待ちください、ね。」


 お袋はそう言って、スマホから顔を離し、一応スマホ前面を手で隠す。


「光人!食事したお家って女の子のお家なの!」


 ああ、やっぱり静海の言ってること聞いてなかったな。


「うん、宍倉彩音さん。昨日、うちに来た女の子の一人。」


「なんで早く言わないのよ!だったら、こんな時間に電話なんかさせなかったわよ!」


 いや、男子だとしても、その親に電話していい時間ではないと思うのだが…。


「聞かれなかったし、さっきの静海との会話聞いてれば、普通分かるかなと…。」


「聞いてなかったわよ、あんたたちの会話なんて。大体、食事をご馳走になるような女の子、西村さん以外にいるなんて思わないわよ!」


 それはそうだね。

 俺もお袋の立場ならまさか女子の家に食事に呼ばれるとは考えるわけがない。


「そういう事で、宍倉彩音さんのお母さん、宍倉真理さんと、お父さん、宍倉敏文さんと食事をしてきました。」


「本当に早く言ってよね。私、びっくりしちゃったんだから。」


 そう言って、スマホに戻るが、どうもこちらの声が聞こえたようだ。

 真理さんの笑いをこらえる声が聞こえてきていた。


「待たせてしまってすいません。まさか、うちの息子に女の子の友達がいたなんて思いもしなくて、え、ええ、白石影人は私の夫です。あ、いえ、そうなんですか!門前仲町の時の…、いえ、とんでもない、わざわざ、そんなこと、ええ、そうだったんですね。凄い偶然ですね。もし、お越しいただけるなら、うちの人も喜ぶと思います。はい、ぜひ、よろしくお願いします。本当に、今日はありがとうございます。」


 そう言って電話を切り、ふうーと大きなため息を吐いた。


「お父さんのことを知ってる人だったのね。もう、早く言ってよ、光人。そんなつながりで呼ばれたなんて、ね。」


 ああ、そこまで話したんだ、真理さん。

 そういえばさっき確認されたっけ。


「後日、日時を調整してお父さんにお線香をあげたいって言ってもらえて、少しうれしくなっちゃった。こんなにあの人は慕われてたんだって。」


「えっ、宍倉さん、お父さんのこと知ってたの?昨日はそんな風に見えなかったけど。」


 静海がびっくりして、俺にそう言ってきた。

 そういえば、線香あげるとき、静海居たもんな。

 あの時のあやねるの態度見てたらそう思うよね。


「あやねるは小さい時だし、薬局の薬剤師として、お母さんの真理さんが接していたくらいだから知らなくても不思議じゃないよ。」


「ああ、びっくりした。本当に光人は変わったよね。まさか高校入学でお互いの家を行き来する女子の友人ができるなんて。でも、良いことよ、光人。頑張ってね!」


 何を頑張れと、お袋さん!


「もう遅いから、風呂入って、しっかり寝なさい。」


「あ、お兄ちゃん!」


「静海、風呂入ってくるから、あとでな。」


「う、うん。じゃ、あとで。」


 何とか静海の追及をかわし、風呂場に向かった。



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