第157話 親父と会議 Ⅱ
(でもな、光人、もっと簡単に彩ちゃんを守る方法はあるんだよ)
(ホント!どんな方法?)
(お前が正式に彩ちゃんとつきあえばいい)
(出来るわけないだろう!まだ、俺はそんな気になってない!)
(そうか?二戸詩瑠玖のような腹黒さはないと思うが?)
(あやねるの方が複雑だよ!俺は正直、あやねるは可愛いと思う。魅かれてるんだと思うよ。でも、あやねるが見てるのが、俺か、親父なのか考えれば、そう簡単に結論は出せない)
(頑固だな。仮に私の面影を光人に見たとしても、それだけであそこまで好意を持たないと思うよ。まあ、これもすべて二戸詩瑠玖の呪いなのかもしれないが…。いつか、その呪いを断ち切らんとな)
(わかってる)
(今日、真理さんから聞いたことは、彩ちゃんもだが、光人のとっても重要なことだ。それは解ってるな)
(なんとなく)
(たよりないなー。まあ、いい。彩ちゃんの不幸だったことは大好きなおじいちゃんとの死に別れ、転校による親友の伊乃莉ちゃんとの別れ、そして近所の優しかったおじさんとの別れ。この3つがほぼ同時に起きたことだ)
(なあ、親父。自分で言って、恥ずかしくないか?)
(それは言うな!おじいちゃんは死んでしまったから、これはどうにもならないが、他の2点は、ある意味どうとでもなった)
(敏文さんの件か?)
(それもあるが、別に転校したって、そんなに遠くに引っ越しをしたわけじゃない。両親が彩ちゃんのことを見ていれば、その変化に気づくことが出来たはず。特に伊乃莉ちゃんが前の学校の生徒だとわかってれば、いつでも会うことはできたはずなんだ)
(確かにな。そう言えば個人事務所がどうとか言ってたような…)
(会計事務所を立ち上げたばかりで、彩ちゃんの変化に気付くのが遅れたんだろう。活発だった彩ちゃんが内向的になっていったのには気づいてたかもしれないが、転校という環境に慣れれば、また元の彩ちゃんに戻ると簡単に思っていたんだろう。これはあくまでも想像だがな)
(そこに女性の第二次性徴が重なった)
(よくそこに気が付いたな、光人。このむっつりスケベが)
(そういう事じゃないだろう?有坂先輩が男子相手に初潮なんてキラーワードをぶち込んできたときに、明らかにあやねるの顔色が悪くなったんだよ。最初は女子の間の話でなく、男子のいるところでそんな単語を出した有坂先輩に対しての嫌悪感かとも思ったんだけど…。ちょっとそれにしては酷い感じがあったから。とすると、初潮があやねるの何かに引っかかったんじゃないかと)
(私たち男性には今一つピンとこないが、知識で知っていても、実際になった時は結構ショックを受ける女子もいるらしいからな)
(急激な成長は身体だけでなく精神的にも負担がかるだろうしね。どうも、そこら辺の「女」になる感覚は俺たち男には想像もできないけど。いじめっ子から伊乃莉を助けるぐらいだったから、あやねるは男勝りだったんだろうし、日向さんは女同士の関係を嫌がってたと有坂先輩が言っていたのが、変わるきっかけに「初潮」なんて単語を口に出していた。身体の変化に対すり嫌悪感がまさか「トランスジェンダー」とかの問題でないことを祈るよ)
(日向さんの問題は今は考えないほうがいい。本人がどう思ってるかはわからないが、自分の中で決心して、年遅れでも高校に入学しようとしたことの意味は大きいからね。そうでなければ高卒認定試験や通信制の高校で高卒の資格を取って、大学に進む方法もあるからね。1年下の学年の子と一緒に学校に来るというのは、かなりの勇気と覚悟がいる。それが自己紹介での「私にかまうな」という発言だろうから)
(でも、俺たちに声を掛けてきたのは彼女からだ。しかも有坂先輩絡みじゃ、すぐ自分の年齢がバレる危険があるのに…)
(それだけ有坂さんと絆が強いってことだろう。その有坂さんを応援してくれるお前たちに興味を持った。日向さんがどういう活動をしているかはわからんが、芸術関係の創作活動をしているのは間違いない。だから、有坂さんと友人で、須藤君の小説の話も興味を持った。その想いは「私に触れるな」という自分の中の決心を、壁を砕くのに十分だったのだろう)
(そうだね。それだけ自分をしっかりと持っている彼女の問題は、彼女が助けを求めてからで充分という事だよね。有坂先輩もいることだし)
(そんなとこだろう。彩ちゃんはまだ不安定なとこがいっぱいだ。特に男女関係においては、気をつけなきゃいけない。その塩入君のことだけではないが、お前が彩ちゃんと仲良くなったことに、敏文氏の親バカの部分以外では、変に安心してるとこがある。あれだけ可愛い子だと、今までそういった恋愛関係の絡みを多少なりとも経験して、対処法も自分なりに出来上がってたりするんだが…。彩ちゃんはいろいろ経験不足だ。伊乃莉ちゃんは違うクラスだし、一番頼りになりそうな智ちゃんはお前絡みで、さっきの態度だろう?お前の対応は非常に重要だよ)
(で、一番簡単な方法が俺が付き合うってことに落ち着くわけか…)
(無理に付き合ったってしょうがないんだが、お前にしろ彩ちゃんにしろ、魅かれあってるのは間違いなさそうだし、ね)
(付き合うとか、恋人とかは別にして…)
(別にしちゃうんだ、はあ)




