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第149話 宍倉真理の告白 Ⅰ

 真理さんは火を止め、流しに水切りのざるを用意して、茹で上がったパスタを流し込み、水を切った。


 カルボナーラを作るのであれば、結構神経を使うような気がしたが、おもむろに和えればできるカルボナーラのもとを取り出し、フライパンにあけた。


「これ、楽なのよ!」


 明らかに言い訳っぽく言った。

 多分その気になれば作れるんだろうけど、俺と二人きりで話すことを優先したんだろう、ということは理解できた。


「結局、電車に乗るけど、伊乃莉ちゃん、あ、あやねるの友達ね。」


「ええ、知ってます。昨日彩音さんと一緒にうちに来てますので。」


「ああ、そういえばそんなこと言ってたわ、あの子。」


 真理さんはフライパンでパスタとカルボナーラの素を和えながらしゃべり続けた。


「まあ、その伊乃莉ちゃんが日照大千歳高校に行くってことで、仕方なく認めたの。受験のときも一緒に行って、少し緊張はしてたものの、大丈夫そうだと判断したわ。後は、伊乃莉ちゃんがいなくても一人で通えるようになれば、ある意味リハビリも終了かなって、思ってたんだけど…。」


 テーブルに皿を並べ、カルボナーラを分けていく。


「まさか、一人ではないけど、伊乃莉ちゃんなしで、しかも男の子と2日目には帰ってこれたんだもん。ちょっとわからないとは思うんだけど、2重に嬉しかった。同じ年の男の子とも親しくできるんだって…。でも、その相手が白石光人君なら、それもありえたのかもしれない。」


「もしかしたら、なんですけど、真理さんは俺の親、白石影人を知っているんですか?」


 すでに知っていることは親父が言っていた。

 ただ、この真理さんの言い方、明らかに俺が白石影人の息子で、それがあやねるに影響を与えたと思っている言い方としか思えない。


「…ええ、存じ上げてるわ。」


 パスタを分け終え、フライパンを流しに入れると、また改まった言い方で俺の目を見た。


「本当は、最初に言うべき言葉ね。白石光人君、影人さんの事故、お悔やみを申し上げます。」


 何度目だろう?また真理さんに頭を下げられた。


「何の因果かしら。彩音はそうと知らずにお線香をあげたのよね。あの子がお線香をあげてるときに、何か変わったことはあったかしら?」


「いえ、これといってなかったような…。少し手を合わせてる時間が長かったような気がしなくもないですが。」


「そう、やっぱり思い出すことはなかったようね。でもなんで、私たちが、白石影人さんを知っていると思ったの?」


「最初に違和感があったのは、わざわざ俺を白石光人とフルネームを呼んだことです。普通は白石君と呼ばれる気がします。つまり知っている白石というものと区別したかったということかな、と。」


「ええ、全くその通り。面影もあるような気がしたし。」


「で、思い出したのが、うちの親父が、鈴蘭薬局の門前仲町店に通勤していたことを思い出したんです。」


(うそつけ!さっき私が言うまで知らなかっただろうが)


(うるさいよ、親父。話が続かなくなるから変な茶々は入れないでくれ)


(あ、すまん)


 急に素直に謝ってきた。

 親父も真理さんの言葉に興味があるのだろう。


 少し考えるような雰囲気をさせつつ、脳内で親父と会話。


「で、さっきすぐ先にその店があることを確認しました。これだけ近ければ、商店会みたいなもので顔を合わせたかもしれないし、持病があれば薬を受け取りに行ってるかな?と考えました。」


「そう、うちの人は高血圧と高脂血症があって、近くの医院さんで診てもらってるんだけど、処方箋は近いから鈴蘭堂さんで薬をもらっているのよ。」


「その時、うちの親父と彩音さんは顔を合わせたことがあるんですか?」


「顔を合わせるどころか、本当になついてたわ。白石さんも同じくらいの息子がいるけど、娘さんだとこんなにかわいいんだなって言って、可愛がってもらっていたの。」


「親父、そんなこと言ってるんですか?どうせ彩音さんから聞くと思いますが、うちには2つ下の日照大千歳中学に通ってる妹がいます。そんな言葉、でてくるはずは普通はないんですが…。」


(ぎくっ)


「妹さん、がいる?つまり娘さんが、いた?」


「はい、そういうことです。」


「それは、つまり…。」


「おそらくですが、営業トークかと…。自分の父親ながら、何と言っていいか…。」


「本当ね。」


(おい、親父!営業トークなんかしてっから、あやねるを忘れていたんじゃないのか?)


(仕方ないだろう、もう、5年以上前の話だよ。真理さんみたいに姿形がほとんど変わらなければ気づくかもしれないけど、彩ちゃんなんて小学生が高校生になって、しかもあんなに可愛くなってれば、なおさらだよ。)


「でも、うちの親父の遺影を見ているはずなんですが、そんな素振り一切ありませんでしたが。」


うん、と真理さんが頷いた。


「私が初めのころに話した言葉、覚えているかしら?」


「えっと、彩音さんは自分を守る行動を、無意識にするって話ですか?」


「そう、彩音は凄い辛い事があると、どうもその出来事に絡んだ記憶をなくしてしまうようなの。」


 一瞬、何を真理さんが何を言っているのか、わからなかった。

 記憶を無くす?

 辛い事から逃げるために?


「真理さん、何を言っているのか理解が追いつきません。」


「彩音はつらいというより、深い悲しみを感じて自分ではどうにもならないと、その記憶を忘れるというより、封印するような感じなのかしら?普通に生活していると殆ど分からないんだけど。」


 そう言いながら、少し天井に視線を向けていた。


「何か診察かなんかされたんですか?」


「痴漢の件、その後のクラスメイトの問題で心療内科でカウンセリングを受けたことがあって、その時のお医者さんがそう言った症例があることを教えてくれたの。この時は嫌悪感という形で表層に出てるから慣れることによって解決できるだろうと話してくれたんだけど…。さっきの深い悲しみの果てに記憶を封印するってことについては、今のところ対処することが出来ないってことを言われたの。」


そんなに簡単に記憶をなくすことができるのだろうか?


「この症状がどれほど根が深いかによって対処が変わるらしいんだけど…。彩音は今までに白石影人さんの件も含めて3回くらいやってるの。」


それは多いのか?俺には判断がつかない話だった。


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