第144話 照れまくるあやねる
長いあやねる自身の気持ちの説明が終わった。
絶句である。
「こんなことしか言えないんですけど、私のこと、少しは理解してもらえたでしょうか。」
あやねるが村さんに向かって、そう言った。
そう言えば、もともとは村さんがあやねるに突っかかっていったんだっけ。
「それは、コウくんに、一目惚れって言うこと?」
いや、そんな感じの説明ではなかったとは思うけど、俺はここに居ていいのだろうか?
(ここに居ないほうが正解なんだろうけど、何で光人が反対方向のあやねるを送らなきゃならないかっていう説明なんだから、いないのはおかしいよな)
(これは「愛の告白」ではないよね)
(「愛の告白」ではないが、聞きようによっては、もっと重いぞ、心して事に当たれよ、光人)
「ある意味では一目惚れです。でも、男女間の恋愛という感覚ではないと思います。この人がいてくれたら、私は大丈夫だという信頼感のようなもの、だと思ってます。」
毅然とした態度で村さんに言い切った。
「うん、この場はニッシーの負けだよ。白石君が宍倉さんを送りたいというのが本人の意志である以上、これ以上ニッシーは何も言えないからね。ニッシーが白石君を心配してる気持ちは、白石君もわかってると思うよ。ね、白石君。」
弓削さんがフォローを入れながら俺に振ってくれた。
これは後でしっかりと感謝の意を伝えないとな。
「ああ、村さん、ありがとうな。二戸のことがあって心配してくれてることは十分わかってる。でも、宍倉さんを送っていくことは俺の意志だ。そして、あんなことにはならないことを約束するよ。」
村さんは少し怖い目で俺をしばし見つめ、肩の力を抜いた。
「そうね、美少女には騎士がつきもよね。わかった。コウくん、しっかり騎士の仕事をしてらっしゃい。間違っても送り狼にはならないでよ。」
少し寂しそうな笑顔で俺の肩をたたいた。
「お、おう」
そう答えるのが精一杯だった。
そのまま村さんは、自分の帰るホームに向かう。
その後を追いかけるように弓削さんが走り出す。
と、こっちを振り向いて、ウインクをした。
「頑張ってね、ナイトさん!」
そんな二人に俺は軽く手を振った。
「あやねる、お疲れさま!行こうか。」
俺はそう言ってあやねるに顔を向けた。
そこには顔を真っ赤にして、両手で顔を覆う少女が小さくなっていた。
はてな?
(なにが、はてな?だ!あやねるがなぜこうなったか分からんのか、このドアホ!本当にこの天然鈍感童貞陰キャラブコメ野郎!)
親父が何故か、頭の中で騒いでる。
(さっきのお前との出会いのシーン!完全に「あなたが大好き!」と言ってるようなもんだろうが。それに今、いった本人が気づいちまったんだよ)
ああ、そう言うこと。ん、ってことは、俺はどう対応すればいいんだ?
(知るか、ボケ!)
「あやねる、大丈夫?」
「ウー、あー、もうやだー、勢いであんなこと…。わー恥ずかしい!死んじゃう、恥ずかしすぎて死んじゃう。」
ベンチに座ったまま悶えてる。
いや、なに、この可愛い生き物。
ああ、人目がなかったらお姫様抱っこして、連れてっちゃうとこだよ。
(どこに連れてくんだか、全く、このエロ童貞は)
「あやねる、ここにずーっとこうしていられないからさ、とりあえず電車乗ろう。今ちょうど来たから。」
「ウー。」
俺は、まだ自分の顔を隠しているあやねるの右手を強引に引っ張って、ドアが開いた電車に引っ張っていった。




