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第139話 3人の通学路

「白石は宍倉さん、送って行くんだろう。」


  須藤が文芸部を後にして、すぐにそう声をかけてきた。


「ああ、そのつもりだけど、あやねる、大丈夫?」

 さっきの部室ですこし青ざめていたような印象があったため、念のため聞いてみる。


「え、大丈夫だよ。光人君が送ってくれるって、学食で約束してくれたよね。それとも、私を送ってくの、都合が悪い?」


 あやねるが意地悪そうな笑み浮かべてを聞いてくる。


「都合が悪いって、どういうこと?」


「見られたら困る人がいっぱい、いるんじゃないかと思ってさ。」


「そんなわけないよ。でも、あやねるのほうも、俺みたいな男に送られて迷惑なんじゃないかな。」


「迷惑なんかじゃないよ。それどころか…。」


 そう言って顔を赤らめるあやねる。

 あのー、すんごく可愛いんですけど。


 ああ、そいえば芝波田先生に報告しなきゃいけないだっけ。


「ごめん、ちょっと保健室に報告しなきゃ。」


「芝波田先生?」


 あやねるが確認してきた。


「二人とも、ちょっと待ってて。」


 下手すると須藤が逃げそうだったので、釘を刺して保健室に向かう。


 ちょうど芝波田先生が出てくるところだった。

 もう5時過ぎてるから、帰宅するところだろう。


 よかった、間に合った。


「先生、遅くなってすいません!」


「おお、白石。元気そうね。よかったわ。」


 芝波田先生が笑いながら声をかけてきた。


「おかげ様で、何の問題もないそうです。一応、岡崎先生に診断書を提出するよう言われてます。」


「そうしてくれると助かるわ。それはそうと、今日は一人?」


 周りを見渡す。俺一人は変か?


「すでに入学して、すぐにつきっきりで看病する美少女連れだったから、今日も一緒に帰るのかと思って、ね。詳しくは聞けなかったが、岡崎先生が送る時に一緒だったんでしょう、昨日の女子。」


「まあ、そうですけど。」


「今日は一人で帰るの?」


 この答えすると芝波田先生に揶揄われるよな、この流れ。


「一応、今、待ってもらってます。」


「ああ、やっぱりね。でも、何で一緒に来なかったんだい。」


 やっぱり、楽しそうだよ、この先生。


「報告だけですから、わざわざ一緒に来なくてもいいでしょう?それに他に男友達も一緒なんです。」


 うん?芝波田先生の顔が変なんだけど、なに?


(面白い獲物を見つけた時の顔だね、あれは)


(何だそれ。いや、親父も今、面白そうな雰囲気出してんな)


「ほう、白石にすでに同性の友達がいる?ほう。いいの、その男と二人きりにして、あの美少女。」


「先生、美少女なのは事実だと思いますが、宍倉さんって確か昨日名乗ってましたよね。それに二人きりにするって、どういう意味なんですか?」


「せっかくの青春の相手を、早々に無くすのは哀しいよね。」


「先生、なにをほざいているんですか?」


「ん?今、ナチュラルに敬語の中に暴言入れてきたね。今回は聞かなかったことにしてあげるわ。私は何といい先生なんでしょう!」


「自分の世界に入るのは構わないんですが、俺と宍倉さんはそういう関係ではないですよ、残念ながら。では、報告しましたんで、先生も人の青春に喜ぶより、自分の青春を送る方が楽しいと思いますから、頑張ってください。」


「うるさいわね、白石。私はこれでもモテモテの日々を送ってきましたよ。お前に心配される筋合いはないの。覚えておきなさい。」


「岡崎先生は近いうちに結婚を決めた婚約者がいるそうですよ。昔の日々に思いをはせるより、今を楽しんだ方がいいんじゃないですか?」


「ちっ、岡崎の野郎、あの噂は本当だったのか。」


 今、明らかに黒柴波田でたよね。


「早く宍倉さんのところに行ってあげなさい。きっと待ってるんじゃない?」


「はい、では失礼します。柴波田先生は綺麗な人ですから、いい人すぐに見つかりますよ!」


「一言多い!青春ラブコメクズ野郎!」


 あっ、やっぱり先生まで噂は行ってるわけですね。


 俺は苦笑いしている柴波田先生に一礼して、二人の元に戻った。


 二人は微妙な位置で俺を待っていてくれた。が、あやねるはニコニコしてるが、須藤はやけに暗い顔をしている。


「光人君、思ったより遅かったね。今、須藤君と保健室に行こうかって、話してたんだ。」


「うーん、俺の「女泣かせのクズ野郎」噂が柴波田先生の耳にまではいっていて、いろいろ揶揄われてた。」


 言ってることに多少の編集を加えました。既に広がってる噂の話はこういう時便利。


「ハイハイ、二人の世界に入るのはせめて、俺がいなくなってからにしてくれると、こちらは助かるんですけど。っていうか、オレ、やっぱり邪魔者だよね。」


 何か、あやねるに言われたな、これ。さっきの雰囲気は一緒に保健室に行くっていう雰囲気ではなかったよな。


「いやいやいや、そんなことないから、駅までは一緒に行こう!なっ!」


 俺は横にいるあやねるに大袈裟に同意を求めた。

 その俺の声に、あやねるの顔があまりいい表情、というより露骨に嫌な顔を浮んでいたが、すぐに笑顔になった。


「うん、一緒に行こう!」


 須藤も今のあやねるの表情の変化を確実に見ていた。

 が、それがどういう意味を持つか十分わかったうえで、仕方なく頷いている。


「じゃあ、北習橋の駅までみんなで行こうか。」


(うん、須藤君も光人もあやねるの顔の表情の意味、解ってるみたいだね。)


(そりゃあね。露骨に須藤は邪魔者っていう感じだもんな。俺のいないときになんかあったっぽいし。でも、俺たち付き合ってるわけではないし、大体、知り合ったの、昨日だよ。なんでそこまで俺になつくのか、全くわからない。多分、あやねるはそんなことを考えてはいないと思うけど、単純に何か裏を考えちゃうよ。二戸詩瑠玖のこと、まだ2年たってないんだから)


(あやねるの心の奥には、本人が意識していない部分で何かあるとは思うよ。それが何かは解らないんだが。ただ、依然宍倉さんという人との接点はあった気がするんだが、ちょっと思い出せない。思い出したら、伝えるよ、光人)


 俺はとりあえず、あやねるのことは考えずに、3人で駅まで、できるだけ楽しく行きたいと思ってる。


「須藤、電脳部、どうだった。」


「楽しかったよ。まあ、ゲーム班はちょっとマジすぎてついていけなかったけどね。部室に完全にeスポーツ用のゲームPCが置いてあって、部員が模擬でゲームやってたけどさ。見てる分にはすごい楽しいけど、あのレベルでゲームやれって言われたら、俺はごめんだね。」


 須藤はバス停でバスが来るまで、ゲーム班がどのくらい凄いか、語っていた。

 これぞ、ヲタクって感じの早口。うん、あやねるが引いてる。


「ゲームを作る方はどうだった?」


「それこそ文芸部との合作なんだけど、シナリオは一度上がったんだけどね。単純な恋愛ハッピーエンド系で、深みがないんだって。そもそもノベライズゲームはその選択による奥の深さが物をいうからね。商業ベースではないと言っても、やっぱり作るからには面白いものにしたいって感じだったな。正直、電脳部に入るよりは文芸部をサポートしたい気持ちではある。」


バスがちょうど来たので、3人で乗り込んだ。

 須藤の熱い想いは十分に理解できたが、あやねるは完全に理解の外のような顔つきだ。


「あやねるはゲームなんかはしないの?」


「うーん、パズルゲームはやってたりしたけど、あんまりやらないかな。」


「そんな感じはしてた。さっき須藤が言っていたノベルゲームってのは、その名の通り小説を読んでいるようにゲームが進むんだけど、途中の選択肢で結果が変わるんだ。今のその系のゲームはかわいいイラストで、しっかりした声優さんが声を充てていたりするから、そこそこの需要がある。一方、電脳部のゲーム班ってのはEスポーツなんて呼ばれてるんだけど、対戦式のバトル系というやつで、やってる奴じゃないと勝ち目はないよな。」


 一応補足のつもりで言ってみたが、どうもピンとはきてないかな。


「じゃあ、やっぱり須藤は文芸部に入るつもり?」


「傾いてるのは事実。有坂先輩もちょっととっつきにくいかなって思ってたけど、今日の感じなら大丈夫そう。」


「女の子ばかりだぜ、大丈夫か?」


「それはそうなんだけど、文芸部を選ぶ時点で覚悟していたからさ。ちょっと有坂先輩見たときは考えちゃったけどね。」


 少し照れたように頭をかいている。


「でも、結構、須藤君、女子とうまくやれるんじゃない?私も別に須藤君と話してて、いやな気分にならないし。」


 あやねるが須藤の良さを彼女の言い方で表現した。

 おそらく、その対極にいるのが塩入だ。


「そうだよな。人のことをなんかハーレム野郎みたいに言っていたけどさ。須藤だって、今日一日で、来栖さんだろう、日向さんだろう、そしてTSUGUMI先生。多くの女子と関わってるぜ。」


「言われてみれば、そうだな。朝、来栖さんと喋れただけで、俺、凄い!って思ってたのに。」


 バスが大きく傾いて左折した。駅は目の前だ。


 倒れそうになったあやねるの腕を取り、支えると、そっとその俺の腕に寄り添ってきた。

 ちょっと甘い匂いがした気がした。


「これで、付き合っていないとはね。」


 胸やけを起こしたような苦い顔をした須藤が、そんなことを小さく俺に言ってきた。


「うっせい!」


 俺は須藤の言葉に対して短く鬱陶しそうに言った。


 隣であやねるがキョトンとした表情を浮かべる。


 駅前のバス停に止まった。

 ここが終着なので、乗っていた客の波に従い、バスを降りる。


「じゃあ、ここで!また明日な!」


 須藤がやけに明るく手を振る。

 まるで、嫌々俺たちといたみたいだ。


 俺は須藤の上着の袖をつかみ、引き寄せた。


「俺達から歓喜の解放、みたいな態度取ってんな、なんでだ?」


 須藤は隠れるように俺を呼び寄せ、小さい声で俺にだけ聞こえるように言った。


「宍倉さんの笑顔が、すげえ怖い。」


 須藤はそれだけ言い残し、逃げるように改札に向かった。


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