第138話 文芸部と須藤文行
何かがあった。
そしてそれを有坂さんは知っている。
でも、今は話してくれないんだろうことも、わかっていた。
「あとは今は言えない。この事は本人から聞くべきことだ。ただ、事実として何故1学年上のはずの雅が君たちと同じクラスにいるかという事だ。雅は鴻之台の女子高に一度入学している。そして止めて今年もう一度この高校を受け、今に至るという訳だ。」
疑問はいっぱいある。
かなり俺が変な顔をしていたのだろうか?有坂先輩が笑い出した。
「まあ、いろいろ考えてんだろうなあとは思ったが、すごく面白い顔だな、白石!もう話さないって私が言ったから、聞くに聞けないってとこだろう。まず、編入試験を受けて転校って考えるだろうが、入学して殆どすぐやめてるからな。それに、転入試験を受け付けてる学校自体少ないし、大抵はレベルが下がる。それと、この学校に来たのは、まあ、私がいるからだ。彼女が本気で勉強してたらもっと偏差値の高い高校に行っていたはずだよ。今言えるのはここまでだ、白石。」
「ありがとうございます。言いづらいこともあったともいますが、話してもらえてよかったです。」
俺の横であやねるが何故か俺のワイシャツの裾を握りしめてる。
震えてるとかではないようで、体調的には問題なさそうだが…。
「うん、雅とは、ぜひ、この関係をしっかり築いてほしい。あと変に年上扱いはしないでやってくれ。それは雅がきっと嫌がるだろうから、な。」
「はい、俺たちも、日向さんの芯の通った佇まい、好感を持ってます。いい友人になりたいと思ってます、な。」
と、須藤に振った。
「は、はい!俺も日向さんの作品、楽しみにしてますし、自分の小説の感想聞きたいんで。そんな友人、なかなか見つけられないと思うんで。」
「そう言ってもらえると、私も嬉しいよ。日向の作品は凄いよ、十分楽しみにしてな。」
「話は終わったかしら、裕美。」
「うん、終わりだよ、詩織。あとは任せたよ。」
有坂先輩はそう言うと、最初にいた隅に戻っていく。
「まあ、かなり個人的な話だったね。全く文芸部の説明をしてないんだけど、一通りする?」
大塚先輩が主に須藤に向かいそう声を掛けた。
「大体は部活動紹介で分かってます。雰囲気が知りたかったのと、有坂先輩とうまくできるのかが知りたかったんで、大丈夫ですよ、大塚部長。」
「入部、する?」
「まあ、部長、そうことを急ぎすぎると、逃げられますよ。ねえ、須藤君、「なるべき」のID持ってるんでしょう。ペンネーム教えてよ!」
佐藤つぐみ先輩が大塚先輩を諭すように言って、須藤に向かって聞いてきた。
「ああ、そうですね、TSUGUMI先生。出来れば、読んでもらって感想聞きたいし。ひらがなで「ぶん」で登録してありますので、よろしくお願いします。」
「OK!家帰ったら見てみるよ。他に気になってる部活動あるの?」
「さっき、電脳部に行ってきました。」
「いいよね、電脳!」
さっき隅に戻ってたはずの有坂先輩が急に食いついてきた。
「電脳の子たちって、本当に物を作るのが好きな子が多くてさ。本当に話してるとすぐ時間なくなっちゃうんだよね。とはいえ、コラボ作品の件あるから、まじ、めちゃくちゃな仕様出してくんの、ムカつくけど。」
ノリノリだな、有坂先輩。他の先輩は苦笑い。
「正直、廃部がどうのより、有坂が持ってくる企画が多いから、人手欲しいんだけどね。幽霊部員飼ってる余裕ないんだよ。」
佐藤先輩が少し疲れた笑いを浮かべてた。
「入部届とかの書類は、担任の先生に頼むともらえるから、岡崎先生のクラスだっけ。入ってくれると嬉しいな、後ろの二人もね。」
大塚先輩がそう声を掛けてきた。
気づいたら結構な時間だ。
そろそろ帰らないと、俺の睡眠時間がやばくなりそう。
「見学者は結構来たんですか。あのチャラ男は別にして。」
須藤が気になるんだろう、そんなことを聞いた。
入部するとすれば、同学年の入部者は気になるとこだ。
「そうだね、10人くらいかな。大体女の子だけど。副部長がああだったから、見学者は少ない感じ、してるんだけどね。」
「真面目な子以外はいらん!」
「と、副部長が言ってるしね。そんなことから、真面目に取り込んでくれそうな須藤君には入ってもらいたいな。」
あ、大塚先輩が「女の子」を使ってきた。
今朝、来栖さんと話せて幸せと言っていた純真な須藤君が毒牙にかかるような感じだろうか?
ああ、須藤の顔が赤い。
そう、これが青春だな、うん。
「では、これで失礼しますね。」
須藤が大塚先輩の技に動かなくなったので、代わりに俺が挨拶して部室を出ようとした。
「そうだ、白石。一つ聞きたかったんだが。」
奥から顔だけ俺たちに向けて有坂先輩が、口を開いた。
「白石と宍倉は付き合ってるのか?」
あやねるはまだ俺のワイシャツを掴んでいた。
「あっと、良い友人関係です。」
俺の声に、あやねるの身体が緊張したのが分かる。
表情までは解らなかった。
「はっ、やっぱり、お前は「クズ野郎」だ!」
その言葉に、部室にいた他の文芸部員の先輩方が深く頷いた。




