第131話 文芸部までのデート
生徒会室を後にして、すぐに須藤に連絡を入れた。
【もうすぐ終わるから、文芸部の前で、よろしく】
つまり先に行ってろということかい?
「須藤ももう少しで終わるらしい。文芸部の前で待っててくれって。」
あやねるにそう言って先に歩こうとしたら、ワイシャツの裾を掴まれた。
「柊先輩のこと、ありがとうね、光人君」
「俺、何もしてないよ?」
あやねるの言葉にちょっとびっくりした。
「そばにいてくれるだけで、心強かったんだ。」
「よくわからないけど、役に立てたならよかったよ。まあ、静海が会いたいって言ってたのもあったけどね。それで、生徒会には入るの?」
この様子だと8割方決めてそうだけど。
「うん、頑張ってみようかなって思ってる。なれるとは思わないけど、柊先輩を目標にして。」
「なかなか高い目標だね。」
「もお、ちょっと馬鹿にしてない?わたしのこと。」
少し拗ねたその感じ、可愛い!!
「馬鹿にしてるわけじゃないよ。でも、あれだけ自信が体の中から溢れ出している人を目標にするってことは、並大抵の努力じゃないだろうな、って思った。」
「ああ、そういうことね。うん、そうだよね。頑張ってみるよ」
そう言いながら、上目遣いで俺を見上げた。
何が言いたいかは、なんとなく理解した。
「光人君も一緒に生徒会やらない?一緒だとすごく頑張れる気がするんだけど…。」
白石光人君、ビンゴ!
「あやねるの頼みは聞いてあげたいけど…。今のうちの状態だとちょっと厳しいかな?もしかしたらバイトしなきゃなんないかもしれないし。」
「えっ、バイトって禁止じゃ…、ああ、そうか、光人君の状況だと、そうだね。」
納得はしているようだが、さみしさは隠し切れない感じ。
(モテる「クズ男」さんは違うね。父さんも青春したくなっちゃった)
「でも、何かあれば、できる限りのことは手伝うから、遠慮なく言ってね。あやねるの笑顔、大好きだからさ。」
「大好きって!そんなに軽々しく言うもんじゃないよ。」
「軽々しく言ってるつもりなんてないんだけどな。」
そういった俺のことをジーっと見たかと思ったら、やおら首の向きを変えた。
「そういうとこ、光人君ずるいと思う。」
向こうを向いたまま、あやねるのつぶやきが聞こえてきた。
「ずるいって、何が?」
(まあ、光人にはまだわからんよな。どうしてこんな天然な男に成長したんだか…)
本当にこいつら何を言ってんだか。
「そういえば生徒会に入るのはいいとして、何をしようとあやねるは思ってるの?」
「何をするって?」
「役職っていうの?会計とか、庶務とか担当があったみたいだけど。」
少し考えて、顔を挙げて俺を見た。
「書記かな、やっぱり。今の生徒会で一番知ってる柊先輩の下で教えてもらうのが気負わずに済みそう。」
そんな話をしていたら、クラブハウス二階の文芸部の近くまで来ていた。
須藤はまだ来てないようだ。
あとで電脳部について聞いてみようと思っていた時…。
「お前らのような奴は、この部室に入るんじゃねえよ!」
どこかで聞いた耳なじみがよくなってしまった怒りの声が聞こえてきた。




