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第13話 西村智子 Ⅰ

 白石光人(シライシライト)と初めて会ったのはいつだったか。

 たぶん小学校のはずだ。3年生から4年間同じクラスだった。


 中学1年の時は違うクラスだったけど、また2年生で同じクラスになった。

 だから、可愛いだけでジコチューの女子、二戸詩瑠玖(ニノヘシルク)との関係も、そしてその後に起こったひどいいじめ、いや暴行事件もよく知っている。


 そう、私が白石光人、ううん、コウくんのお父さんである白石影人(シライシエイト)さんに助けを乞うたのだから。


 私と淀川慎吾(ヨドガワシンゴ)、コウくんはいわゆる幼馴染というやつだ。


 この3人は仲がいい方だと思う。


 私がコウくんに抱く感情は好意ではあるけれど、友情と言って差し支えないと思う。

 男女間に友情が存在するかどうかなんて言われてもよくわからない。

 でも恋愛感情ではないと思う、きっと。


 コウくんの暴行事件は刑事事件としては表沙汰にはならなかった。


 これはコウくんのお父さんである白石影人氏が尽力したからだが、あの3人がのうのうと学校に来ているのも腹立たしい。


 さらにいえば、その発端である二戸詩瑠玖とその恋人の三笠颯(ミカサハヤテ)も許されないことをしたと思ってる。あの2人に関しては、私の人脈を最大限に使って釘を刺しておいたけど。


 それでなくても中学受験での失敗で、かなり参っていたコウくんを見ていたから、正直しんどかった。


 中学3年で心情的に安定してきて、高校受験にも頑張っていたのに、さらに影人氏の事故が起こるなんて。本当にこの世に神様はいないんだって思い知らされた。


 でも、あの事故の直後はなんて言葉をかけていいかわからなくて、会いに行けなかった。


 お葬式も家族葬で行うとのことで、お焼香も行けなかった。実際、あれだけの事故で、マスコミも来ていたから、普通にお葬式はできないとは思ったけど。


 淀川慎吾、いえ、シンゴが少し強引なくらいに私を引っ張り出してコウくんの家に連れてってくれなければ、今日、明るく話すことはできなかった。慎吾には感謝しかない。


 家にお線香をあげに行ったとき、コウくんも静海(ルナ)ちゃんもお母さんの舞子さんも、元気はなかったけど、思っていたほどではなくて、少し安心した。


 特に静海ちゃんのコウくんに対する態度がすごく穏やかになっていたのには驚かされた。

 前はあんなにコウくんから距離を取っていたのに。


 今日も入学式に笑顔で来てたのを見たときは、すごい嬉しかった。


 それに私と弓削(ユゲ)ちゃん、大西さんの会話に自分から入ってきたのも、ちょっと驚いちゃった。以前なら私がほかの女子とはしてる時は、まず近づいてくることはなかったもんな。


 ただ、今はちょっと嫌な感じ。


 確かに友だち作れとは言ったけどさ~。


 かわいい女の子とイチャイチャしろと言った覚えはないぞ。


 白石光人は、今まさに、遠目からも可愛いと思われる女子生徒とお話しして、鼻の下を伸ばして浮かれてる。


 私は自分の席について、コウくんを観察している。


 話している子がかわいいというだけで、ちょっとモヤモヤするのに、その子がどうもコウくんが推しの声優に似ている気がする。何気に胸も大きい。


 別にコウくんのことなんてなんとも思ってないけどさ。ないけどさ。


 なぜか頭、来るな。


 自分が、かなりコミュニケーションが高い方だと思ってる。


 友達も多い方だし、結構誰とでも仲良くなる自信もある。


 でも、モテるというのとは違うことも理解している。


 男の子にとって私は何でも話せる異性の友達に過ぎない。

 別に哀しくないよ。私はこんな私を気に入ってるんだから。

 

 それでも、もう少し背が高くて、手足がスラーっとしてたら。

 もう少し眼がクリっと大きかったら。

 もう少し顔がちいさかったら。

 もう少し胸が大きかったら。

 もう少し、もう少し、もう少し…。

 

 担任の岡崎先生の指示のもと、廊下に出席番号順に並んだ。

 

 私の後ろの女の子は背が高い根室星那(ネムロセイナ)さん。

 背が高いせいか、少し猫背。髪の毛は短めだし、この背丈だとバレーボール部かバスケットボール部にでも在籍してたっぽいんだけど、膝より少し短めのスカートから除く足は華奢で、運動をしている雰囲気じゃないんだよね。


 私は自分の筋肉質のふくらはぎを見ながら、そんなことを考えていた。


「西村さん、だよね」


 根室さんから声を掛けられ、自分のふくらはぎに目を向けていた顔を上げた。


「そうだよ、根室さん」


 私は初めて話をする人に向ける程よい微笑みを返しながら答えた。


「西村さんなんて堅苦しい呼び方しないでいいよ、とも、か智子でいいよ」


「じゃ、ともちゃんってよばせてもらうね。」


「うん、OK」


 根室さんは少しうれしそうに、そう言ってきたので軽く返した。


「根室さんは中学ってどこだったの」


「地元の草野台中学。県立の習橋高校も受けたんだけど、落ちちゃって。ここなら自転車で通えるからって決めたの。」


「習橋高校受けたんだ。この学区じゃトップじゃない。すごい!」


「だから、落ちたんだってば。特進にも入れなかったし」


 微妙に自虐入ってんな、根室さん。


 あーと確か、星那って名前だったよな。いいなあー、私の智子なんてありきたりの名前より、かっこいい。


「受けようってとこがすごいよ。私は千城市の伊薙中学出身。テニス部だったの。ねえ、根室さん、じゃなくて、星那でいいかな。星那はなんか運動部やってた。草野台だとバレー・バスケ結構強いよね」


 こちらも名前呼びに変えて、少しプライベートに踏み込んでみる。


 草野台中は、そこそこスポーツに力を入れていて、運動部は市の大会は突破して、地区大会や、県大会に来る部は結構ある。女子テニスは弓削ちゃんの向平中が強いから、地区大会でよく顔を合わせてたけど。


「わ、わたし、背が高くてよく間違えられるんだけど、運動まるっきしなんだよ。」


「あ、なんか、ごめん。私なんか、逆にこの背でテニスやってて、やっぱり背の高い人はいいな、なんて思っててさ」


「あ、別に慣れてるから、大丈夫、大丈夫、うん、大丈夫」


 これはかなりの地雷だったかな。


 俯き加減の猫背は背が高くて自信のない人の傾向だよね。


 俯き加減で分かりにくいけど、顔は小さめだし、前髪で隠れがちだけど可愛い目をしてる。きっと、ちゃんとしたら映える子なんだろうにな、なんか、もったいない。


「さあ、行くぞ、しっかり並べよ」


 岡崎先生が声を掛けてきた。

 私は「じゃ、またあとでね」と星那に声を掛けて前を向いた。




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