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第124話 唐突の日向雅さん

 俺たち3人の目の前に一人の女生徒が歩み寄ってきた。


「一緒に拍手してくれてありがとう。」


 唐突に彼女は俺たちにそう言ってきた。


 最初、何のことかわからなかった。

 少女が日向雅(ヒナタミヤビ)さんという事を思い出して、体育館での有坂先輩に一人で拍手していたのを思い出した。


「いや、お礼を言われることではないと思うけど。」


「友達なの、有坂とは。」


 何個か疑問が俺の中を飛び交う。

 親父はその疑問に完全に沈黙。


 なんであの時拍手をしたのか?

 あの時、有坂先輩が熱く語っていた時、そういう状態だとは思えなかった。

 友達と言うには口調が硬すぎないか?

 しかも、呼び方が「有坂」と呼びつけ?年上に?

 

 3年生を追い出すほどの有坂先輩だから、年下に対しても、相応の接し方を求めてくる気がするんだけど…。


「そして、白石君、有坂としっかり接してくれてありがとう。あの子、あんな感じだから、結構煙たがられるんだよ、根はいい奴なんだが…。」


「いや、俺が煙たがられてんだろう、「女泣かせのクズ野郎」って何回か言われたし。」


「あそこまで、しかも男子に絡みに行くこと、それ自体凄いことなんだよ。あんななりして、初心(ウブ)だから、有坂は。」


 それは認める。

 そこまで知ってるんだから、確かに仲がいいどころではないのだろうけど・・・。


「とにかく、お礼が言いたかった。ありがとう。」


 また、礼を言われた。

 不思議な感覚だ。


 ただ、やっと、なんとなくだけど、あやねるが機嫌を斜めに方向を変える条件を、分かってきたような気がする。

 日向雅さんは特段美人とか、可愛いと称される人ではない。

 ただ、自分の中に芯の通った考え方と、行動力を持っている人であることは自己紹介の時から感じていた。

 

 その凛とした態度は、人を惹きつけるに十分な気がする。

 そして、あやねるはそういった、そのひと独自の魅力ある女性が俺と絡むと、機嫌の方向を変えるらしい。

 その方角がどこに向いているのかまでは解らないが…。


「あと、それと、須藤、君だったかな、君。」


 俺の右隣少し後方にいた、自称陰キャの須藤が声を掛けられ、明らかに戸惑っている。


「え、ぼ、僕、ですか?」


 声がひっくり返っていた。

 反対側のあやねるが噴き出し、慌てて口元を抑えている。


「そう、須藤君。自己紹介で小説を書いていると聞いて、ぜひ、話したかったんだ。ただ、自分で、みんなに関わるなと言った手前、言い出せなかったんだけど。有坂の件で白石君と、本当はもう一人の男子に謝意を伝えたいとチャンスを狙っていたところで、君がいてくれたから、ね。これは、話しかけなきゃ、悔いることになると思ったんだ。」


 日向さんの感情表現はストレートだな。


「とはいえ、これから学食に行くんだろう。私も、帰らなきゃならないので、手短に言わせてもらうよ。出来ればだが、君が書いた小説を読ませてくれないだろうか?」


 須藤が固まった。

 今朝がた女子と話せて感激していた須藤、既にオーバーキャパ状態。

 日向さんがなかなか返事が返ってこないことに、少し苛立ちが見え始めてきている。


 俺は肘で須藤をつつく。


「おい、須藤、どうすんだ?」


「あ、あ、すまん。急に言われて、どうすればいいか…。」


「そうか、済まない。確かに急に言われても、困るな。拙速すぎた。」


 少しその表情が暗くなる。

 そして須藤は、日向さんのその態度に慌てた。


(別に須藤君が悪いわけではないんだよな。急な申し出だから、一旦保留で構わないんだけど、凄い罪悪感持っちゃうだろうな、女子に免疫ないと)


(俺、これに関してはどうやって助けていいかわかんないんだけど。どうすればいい、親父)


(順当なとこだと、一言断りを光人(ライト)が入れて、明日以降に返事って感じかな)


(わかった、やってみる。)


「あの、ひな・」


「わ、分かったよ、日向さん。僕の小説に、その、きょ、興味持ってくれて嬉しいよ。ちょ、ちょっと待ってて。」


 俺が日向さんに声を掛けようとしたら、急に須藤が日向さんに話し始めた。

 そして、日向さんに待つように言って、自分の席の鞄から、何か紙の束を持ち出した。

 そして、すぐにこちらに戻ってきた。


「ほ、本当は文芸部に見学に行くときに、見てもらおうと、持って来てたんだけど。ちょ、ちょうどいいから、これ家に持ってって。で、この週末にも、読んでみて、よ。ファンタジーもので、趣味が合うか、わ、分からないけど、さ」


 ざっとA4サイズで50枚くらいの紙の束。

 その拍子に「魔地(マチ)」と、少しおどろおどろしいタイトルが印字されていた。


「えっ、いいの?今日いるんじゃないの?」


 さっきまで結構押せ押せできた感じの日向さんが、渡された紙の束に戸惑っている。


「だ、大丈夫だよ。も、もともと1年くらい前に「なるべき」に投稿してあった奴を、プリントアウトしたものだから。Webサイト見れば、読むことはできるし。」


「じゃあ、遠慮なく読ませてもらうわ。」


「よ、読み終わったら、忌憚(キタン)のない感想、聞かせてくれると、う、嬉しいな。サイトじゃ全然でさ。感想、いいとこも悪いとこも聞きたい。」


「うん。それは最低限のマナーだね。OK、ありがとう、須藤君。お礼と言うにはおこがましいけど、週明けに私の作品も見てもらえたら嬉しいな。見てくれる?」


「え、日向さんもなの。ぜひ見せてください。」


「あ、邪魔してごめんなさい。お昼食べに行くとこだったよね。じゃ、また。ああは言ったけど、これから、よろしく。」


「うん、よろしく。」


「よろしく、ね。」


「私もよろしくね、日向さん。」


「よろしくね、宍倉さん。」


 最初の自己紹介のイメージとはかなり異なった笑顔を讃えて、日向さんは軽く手を振るように昇降口方面に向かった。


(最初、あの自己紹介だと、あまり人と関わりたくないような壁を感じたんだけどな)


(光人の言いたいことは解るよ。自己紹介は、何故か人に対して威嚇的な態度を、故意に示した感じだったが。さっきの笑顔は年齢相応の可愛いものだったからな)


(俺にはその年相応ってやつはよく理解できないよ)


(年を重ねれば自然と身につくよ。それより、年相応と言えば、あの日向雅さん、光人より年齢、上かもしれんな)


 親父が変な事を言ったが、その言葉の意味することは俺にはわからなかった。


 俺たちは日向さんを見送るような感じで別れてから、学食に向かった。

 結構時間を食ったから、静海と伊乃莉が怒っている可能性に、少し頭が痛くなった。


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