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第12話 宍倉彩音 Ⅱ

 入学式が行われる第一体育館。

 整然と入場して、指定の椅子に着席した。と思ったら、前の列の女子生徒が急に振り向いて、「おー、あやねる、おひさ」と声を掛けてきた。


 親友の鈴木伊乃莉(イノリ)だ。


 おひさも何も、一緒に登校したのだ。別れてからまだ1時間もたっていない。


 でも、分かってる。

 伊乃莉は私が心配だったのだ。


 誰も知っている人がいない中で一人になった私、宍倉彩音が。


 伊乃莉、私は大丈夫。その思いを込めて、


「ちょ、いのすけ、入学式始まるんだから、振り向いちゃだめだよ」と、明るく告げた。


「いのすけはや・め・て」


 伊乃莉はそう言いながら、微笑んでいた。


 伊乃莉との会話に白石君が驚いているのが雰囲気で分かった。

 心が温まる感じ、悪くない。


「え、だれ?宍倉さんの友達?」


 反対の席からの言葉は完全スルー。


 きっと、白石君が助けてくれる。

 私に何かあったら。

 そんな都合のいい考えが私の心を包んでいる。


「うるさくてごめんね、彼女、中学からの友達。鈴木伊乃莉っていうんだ」


 少しからかうように白石君の耳元で囁き、片目をつむる。


 へたっぴだな~、わたし、ウインク。


 でも、十分に照れてくれている。

 知らなかった、私にこんな性癖があるなんて。少し楽しい。


「えー、宍倉さん、それひどくない」


 塩入君の声が大きく響いた。


「静かに!」


 私を助けてくれたのが、白石君ではなく、先生だった。

 ちょっと不満。だけどうるさい塩入君が黙ってくれたのは助かった。


 入学式が始まり、校長の挨拶になった。そこで岡崎先生の言葉を思い出した。


 ウケる自己紹介。なに、それ。


 頭は上の空で入学式は進み、知らないうちに終わってしまった。


 保護者席にいるはずの母は、このまますぐ帰ることになっている。


 事務所にいる父が心配だからだ。


 通常であれば受付事務の相沢詩織(アイザワシオリ)さんと父で事足りるが、個人経営の会計事務所では何が起こるかわからない。できれば母もいた方が、対応がスムーズなのは間違いない。中学までであれば、距離はさほど離れていないので、緊急時に連絡が来ればすぐに向かうことができた。


 でもここからは軽く1時間はかかってしまう。母はきっと気が気ではないと思う。


 だから、朝、伊乃莉に帰りに一緒に帰ってくるように頼んでいた。


 続いて、生徒会による説明が始まった。


 生徒会長は凄い人だと単純に感じてしまった。

 高校生の生徒会長ともなると、こんなにも大人なのかと感心してしまう。


 自分の2年後にこんな風になれるのかしら、いや、無理に決まっている。


 そんなことを考えながら、会長の話をかみしめていた。


 会長の話が終わると、大きな拍手が起こった。私もそれに合わせて、知らずに手を叩いていた。


 続いて、司会進行の人の合図で、生徒会役員の人たちが壇上に現れた。


 その中にひと際目を引く女子生徒がいた。


 ダークブランの髪の毛を少しなびかせるようにして、綺麗に背筋を伸ばして歩き、壇上の椅子に腰かけた。


 私はふと白石君があんな綺麗な人を見たらどんな表情をするのか気になった。


 もし、にやけた感じだと嫌だなあ~。


 横目で白石君の方を見てみた。


 びっくりした。


 自分が想像していた、綺麗な女性を見て憧れるような顔をしているかと思った。


 少しモヤモヤした気分で。

 だけど全く想像をしていない状態だった。


 顔から血の気が引き、明らかに変な汗が額に張り付いていた。


「光人君、大丈夫?」


 思わず声を掛けてしまった。


 白石君の顔がこちらを向いた。それでも続ける。


「顔、真っ青だよ」


「いや、なんでもない」


 なんでもなくはない顔でそう言ってきた。


 私もずっと白石君を見てるわけにはいかなかったので、正面を向いた。


 でも、私には各委員会の説明をしているはずの副会長の声は全く入ってこない。


 副会長の説明が終わると、あの綺麗な女性が壇上に現れた。


 まるでそこだけが光り輝くような雰囲気を纏っている。

 生徒会書記、柊夏帆(ヒイラギナツホ)先輩。


 ダークブラウンのサラサラの長い髪が、まるで光の粒子を帯びているように輝いている。


 私が柊先輩に見惚れていたら、隣から、ガタンと大きな音が鳴った。


 びっくりしてそっちを見たら、白石君が前のめりに倒れていた。


「白石君!」


 思わず、叫んでしまい、白石君の体を引き起こそうと手を伸ばした。


 既に白石君の右隣の男子が白石君の肩をつかみ起こそうとしていた。


 その向こうに、驚いた表情の岡崎先生がこちらに向かってくるのが見えた。



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