第119話 岡崎先生写真鑑賞会 Ⅱ
「両窓側の奴、ちょっと暗幕閉めてくれ!」
いわれた生徒が、カーテンを閉めた。
と、同時に教室内の照明が暗くなる。
プロジェクターが光を黒板の前に卸されているホワイトスクリーンに投射された。
最初の1枚は結構古めだ。
この高校の制服をきて、演壇に両手をつき、上半身を突き出すようにして何かを語っているところを切り取った1枚だ。
髪型はおかっぱをもう少し長くしたショートボブっぽいが、パーマを当てていないストレートの黒髪だ。
おでこを完全に出して、前髪をヘアピンでとめている。
瞳は大きめで黒目がち、鼻は少し小さく唇は熱めで肉感がちょうどいい感じ。
顔の輪郭は卵型と言うところか。
集会での演説か何かだろうか。
全身の写真ではないが、美醜を語るより、その迫力が伝わる。
目鼻立ちは悪くないが…。
「この写真の少女は6年前の生徒会長時代の写真だ。そのころまでは風紀委員と言うのがあってな。今でいうところの生活委員会なんだが。中身はかなりの厳しさがあった。この学校はもともと男子校だったという事もあり、男女比が大体今でも変わらず、2:1と言うところなんだが、男女共学になる際、男女交際を半ば禁止する風潮があった。恋愛にうつつを抜かして、進学実績に影響すると困るという事だな。学則に明記はされていなかったが、理事長、学校長はじめ上層の教員はその考えで風紀委員を作り、校内では徹底して指導に従事していた。」
岡崎先生の話そうとしていることは解った。
この生徒会長の時に、学校と風紀委員の件でぶつかったという事か。
「この生徒会長、向井純菜さんは、まあ、今の柊よりも人気があってな。有言実行を地で行く女子生徒だった。生徒会長になるときの公約が風紀委員の撤廃で、本人の人気と、その公約で、一応他の立候補者もいて、特に学校側が押していた生徒もいたんだが、一人で満票に近い票を獲得したんだよ。この学校では伝説的英雄だな。その集大成の生徒総会で風紀委員の撤廃を提案、その時の演説の写真だ。俺が言うのもなんだが、彼女はどちらかと言うと可愛い女性なんだが。」
教室のなかから黄色い声が上がる。
口笛迄鳴らす奴がいた。
「うるさい!まだ話は続くんだよ。で、この写真だ。見て分かるように、全生徒、並びに教員に対して力強く演説をしている。ちょっと怖いくらいの表情だろう。当然生徒総会の前の段階で学校側に対して恋愛禁止の暗黙の了解を解消するように迫った。なんと言ってもこの向井純菜と言う女子生徒は定期考査、学力テストでほぼ1位を取っている非常に優秀な生徒だった。学則を変えるわけではないから、最低限度の男女交際を認めさせたんだよ。その結果、風紀委員会は解散、最低のマナーを守るように生活委員会を設立して、有終の美を飾ってる。」
教室内がどよめいている。
そんなすごい人が岡崎先生の恋人ですか、そうですか。
(凄いな、光人。でも、柊夏帆を恋人にすれば、こういう風に思われるんじゃないか)
(机上の空論だ。第一、俺たちに秘密を抱えてる女性は信用置けないよ)
(そうだな)
写真が変わった。
3人の女性が円筒形の入れ物をもって微笑んでいる。
その中央が先ほどの迫力のあった女子であることが分かった。
こう見ると、確かに岡崎先生の言う通り可愛い少女だ。
「これは、見て見当がつくと思うが、卒業式の写真だ。この3人は同世代の男子から3大美神などと呼ばれていたよ。右隣が当時の生徒会書記の岡林真佐子、現生徒会庶務の姉にあたる人だ。そのまま日照大に上がって今は銀行に勤めている。反対側の飯倉京子は国立の松江大学に進学して、今は大学院に進学した。優秀な生徒たちだったよ。」
その頃を想ってだろうか、しみじみと懐かしそうな口調で先生が話している。
「先生!先生の恋人のその向井元会長は今何をしてるんですか。」
「花嫁修業中だな。」
「そんな訳ないでしょう。そんな優秀な人が専業主婦は流石にもったいないと思いますよ。」
津川茉優が強気に岡崎先生に食って掛かっていた。
ちょっとした正義感なんだろうけど、結構鬱陶しい。
「ははは、そうだな。花嫁修業中は本当だ。料理の腕を磨いているし、俺の部屋の掃除もやってもらってるからな。」
おい!先公!のろけをたれるんじゃねえ!
「彼女は国立筑羽大学の理工学部を卒業後、ITの会社に就職して頑張ってるよ。じゃあ、最後の写真な。」
さっき先生に突っ込んでいた津川さんが赤い顔でもじもじしていた。
ああ、あれか。
彼氏に家に入って掃除するってのがエロい妄想に発展したな。
写真が変わる。
これは最近撮られた写真だな。
硬直している岡崎先生と、その横で満面の笑みを浮かべた向井純菜さんが腰のあたりで小さくピースサインをしている。
凄くほほえましい写真だが、非モテ陰キャからはリア充爆散しろ!の大合唱が聞こえる。
「まあ、これは、なんだな。付き合い初めてのデートの時の写真だ。ちょっと、こっぱずかしいんだがな。」
非常に照れる岡崎先生。
「この年でかなり年下の恋人ができて嬉しいんだが、まずはこれが俺の持ってる写真だ。」
すかさず立ち上がった女生徒。
「他にはないんですか、先生。」
山村咲空が写真の少なさに文句を言ってきた。この少女は何を期待してんだろう。
「写真はデートの時によく撮ってるよ。彼女のスマホでね。」
先生はまるでとってないんだよな。
一斉にブーイングがかかった。
大きなため息をついて岡崎先生は、一旦現在の写真を取り消してもう一つのホルダーを開け、スライドショーを開始した。




