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第115話 部活動紹介Ⅹ 演劇部

 照明が消えて、一瞬、静寂が拡がる。


 その後、大きな拍手が起こった。声援や個人の名前を呼ぶ声。


 そして、証明が点灯した。


 山南、北川、そして山南兄、警官とほかに数人が舞台上でにこやかに立っていた。

 驚くべきことに、またギャル先輩の有坂裕美(アリサカユミ)さんも一緒に立っている。

 みんな歓声に対して手を振っていた。


「あのギャルの先輩はこの演劇部にも絡んでんのか。」


 拍手をしながら景樹が誰にともなくつぶやいた。


 そう言えば文芸部の紹介の時に、電脳部だけでなく、演劇部ともコラボするとか言ってたっけ。

 これが、その成果なのか。


「シナリオを描いたのか、協力という形なのか。文芸部の部長は出てきてないから、やっぱり有坂先輩なんだろうな。」


 須藤も、そんなことを言っている。


(小説とシナリオだと作り方が違うと思うんだけど、あのギャルの人は、かなりの才能があって、なおかつ努力してんだろうな。自分がこの「作家」と言う職業で生きていくための可能性を模索してる感じがするよ)


(ああ、そういうことか。親父に言われなきゃわからんかったわ。自分の才能がどこまで、どの分野で通用するか。小説、ゲーム、演劇。自分のためにこの部活動を利用しているってことなんだ)


(こうなると、青春とか言う感じじゃなくなってくるな、光人!)


 舞台の上ではマイクを握った、少しふくよかな優しそうな女子が真ん中から一歩前に出てきた。


「皆さん、入学おめでとうございます!演劇部、部長浅田りゑ(アサダリエ)です!」


 声援と拍手が大きくなる。


「私たちのショートライブ「屋上の二人」、楽しんで頂けましたか?」


 部長が今回の舞台のタイトルを言って、観客に感想を求めた。


 拙い(ツタナイ)ところはあったけど、面白かった。

 俺は素直にそう思った。


 声援も好意的な声が多い。

 と言うか、否定的なら、この場で声に出して言うやつはいないか。


(うん、この雰囲気での否定的な発言は、かなり勇気がいるよ。基本自殺行為だな)


 親父にも俺の意見が認められてしまった。


「みんな、ありがとうね。この舞台はこの新入生のためだけのものなので、再演することはないと思いますが、みんな一生懸命練習したんだよ!後でも褒めてあげてね!では、関係者の紹介、いっちゃうね!」


「これ1回で終わらせちゃうんだ、もったいないな。」


 景樹が残念そうに言った。


「最後のどんでん返しのところが、ちょっとセリフだけで語られて少し消化不良なんだけどさ。」


「景樹はこういう舞台って結構得意なの?」


 さっきの不満が俺も同調するような評価だったので、サッカー大好き体育会系の景樹がそんなこと言うのに、ちょっと不思議な気がした。


「そういう訳じゃないけど。うちの妹や、父親がサスペンス系の映画が好きでよく一緒に見てるんだよね。まあ、高校生の演劇に変に評価するのはどうかと思うけどさ。」


「須藤はどう思う?」


「佐藤の言うことはもっともだと思うけど、この長さという制限があるから仕方ないんじゃないかな。」


「そういうもんだろけどね。」


 真ん中に出ていた浅田先輩が下手側に移動した。


「どっちがヒロインか分からなかったかもしれないけど、一応ヒロイン、山南咲空(ヤマナミサクラ)を演じました、三井澄美(ミツイスミ)!」


 女子としては少し背の高い、可愛い感じの少女が一歩、前に出てお辞儀をする。

 ああ、やっぱり山南が主人公だったんだ。

 途中の演技は絶対悪役だと思った。


「山南咲空役の三井澄美です。途中、「この眼鏡、伊達なんだよね。」と言うセリフ、飛ばしちゃいました!ごめんなさい!」


 言われてみれば、眼鏡が飛ばされても何事もなく演技してたもんな。


 その言葉に、会場は大うけだった。


「続いて、北川穂香(キタガワホノカ)役、坂井沙織(サカイサオリ)!」


 その言葉で少し脱色して軽くウェーブの掛かったブラウンの髪の毛の少女が前に出てくる。

 涙を流す演技のせいか、顔が少しえらいことになっている。


 でも本人はやり切った後の爽やかな笑顔で手を振っていた。


「北川穂香役の3年、坂井沙織です。しっかりやり切れて、今は満足です。よろしく!」


 そう言うと坂井先輩がやおら自分の額に右手を持って行った。

 そのまま右手を持ち上げるように手を挙げる。

 すると少し脱色して軽くウェーブの掛かったブラウンの髪の毛が宙を舞った。

 その下からセミロングの黒い髪の毛が現れた。

 宙を舞った髪の毛はそのまま観客のいる中央まで、って、おい!


 俺の足に落っこちてきた!


「あら、やだ、飛びすぎちゃった!」


 かわいい声でそんなこと言ってないでさ、この鬘、どうすりゃいいの!

 なんか変に、女性の化粧品のような、いい香りと、微妙なヌメリあるんですけど!


 舞台にいた女子が飛び降りて、速攻、こちらに向かってくる。


 なんか見慣れたギャルチックな制服、って!


「また、お前か、この「クズ野郎」!」


「有坂先輩、これ、俺の所為ですか?」


 また俺の前に来て、有坂先輩は俺の足にかぶってる鬘をひったくるようにして掴む。

 俺を見る目が歪んでいて、本当に嫌そうに顔が引き攣っていた。


「「クズ野郎」、あたしの名前覚えんな、即行記憶を消去しろ‼」


「そんなスマホのメモリーじゃないんですから!無茶言わんでください!」


「じゃあ、あたしが強制的に消去してやろうか!」


 そう言うと、鬘を持っていない右の拳を握りしめた。


「分かりましたすぐ忘れますから、殴るのは止めて、昨日倒れてるですよ、俺。」


「よし、すぐ忘れろ!」


「はい、有坂先輩。」


「忘れてねえじゃないか!」


「暴力反対‼」


 俺は両手で顔を庇った。


「まあまあ、その辺で。その鬘がここまで飛んできたのは只の事故なんですから。」


 景樹が殴ろうとする有坂先輩の前に出て、俺をかばってくれた。

 こちらからは見えないが、必殺技イケメンスマイルを有坂先輩に浴びせたようだ。

 有坂先輩の攻撃意欲が急激に下がったのが分かる。


「ちっ、まあ、いいか。もう女を泣かせるんじゃないぞ、「クズ野郎」」


 そう言って、カーテンコールの舞台に戻っていった。


(あの先輩に完全に「クズ野郎」とインプットされたようだな、光人)


(俺、今回は全く悪くないのに)


「ごめんね、そこの彼!えっと、「女泣かせのクズ野郎」でよかったかな。」


 全部あんたの所為だろう!

 北川穂香!じゃなくて坂井先輩だっけ?


 ステージ上から「女泣かせのクズ野郎」言われちゃったよ。


 うわあ。周りでみんながくすくす笑っていやがる。


 ちょっと冷静になろう。

 あのあやねるを泣かせてからいいとこ4~5時間しかたってないよな。

 なんでこんなにその名前が拡がってんだよ!


「ちょっとハプニングがありましたが、有坂さんのお陰で無事収集出来ました。有坂さんは今回、この舞台のためのシナリオ・演出を手伝ってもらいました。文芸部副部長さんです。皆さん拍手‼」


 また拍手の音が大きくなったが、何故か、俺の周りの人が、景樹や須藤を含め、俺に向かって拍手している。

 なんなんだ、この状況。


「今回、この劇を手伝わせてもらった、文芸部の有坂です。いい勉強をさせてもらいました。今後も協力していきたいと思ってますので、演劇部ともども文芸部もよろしくお願いします。」


 お辞儀をすると、拍手がまた大きくなった。


「はい、ちょっと順番が変わりましたが、こう見えて、ギャルっぽくても真面目で、まだ彼氏のいない有坂さんでした。この縁で「クズ野郎」の毒牙にかからないように気を付けてくださいね!」


 館内大爆笑。


 有坂先輩が、浅田部長の声に反論しようとして真っ赤な顔で口をパクパクさせていた。


「続いて、演出はわたくし、演劇部部長、浅田りゑ。そして山南兄こと山南隆(ヤマナミタカシ)警部補、3年で副部長の井原康介(イハラコウスケ)、警官役、3年田中慶一(タナカケイイチ)、2年古谷有美(コタニユミ)。」


 二人の男子と一人の女子がお辞儀のみ。


「脚本、3年小川新一(オガワシンイチ)。そして、この部の顧問で総合監督で独身の中丸紅葉(ナカマルモミジ)先生でお送りしました。放送委員会のみんなも照明・音響にご協力していただき、ありがとうございました。」


「ちょっと、りゑちゃん!独身関係ないでしょう、新入生相手に!」


 袖から顔を出したスーツ姿の女性が部長に文句を言ってきた。


「えっ、でも、岡崎先生の恋人は8歳下って話だから、先生もギリ、今年の新入生、大丈夫じゃないですか!」


 この言葉に、また会場がドッと笑った。

 と同時に、脇で見ていた岡崎先生がずっこけるように転んでいた。

 まさか自分に流れ弾が飛んでくるとは思わなかったらしい。


「新入生の皆さん!興味があれば特別棟まで来てくださいね。本日は最後まで見てくれてありがとう!」


 舞台の全員がその言葉に頭を垂れた。

 そして、舞台上部から幕が下りてきた。


「これにて、新入生部活動紹介を終わります。各部が張り切ったのと、思わぬハプニングもあり、予定時間をかなりオーバーしています。皆さん、この後各部での自由な見学ができますが、最終下校時間は6時です。これは時間厳守でお願いします。今回の進行は生徒会広報の辺見が担当しました。拙い進行で申し訳ありませんでした。」


 そう言って深く礼をして、ステージの横に姿を消していった。


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