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第113話 舞台「屋上の二人」Ⅲ

「屋上の二人」この原作を投稿してありますので、もしよろしかったら読んでみてください。

舞台劇と小説で、多少書き方を変えてありますので、その違いも面白いんじゃないかと思います。

「北川さん、私ね、生まれて初めて男の人と付き合うことになったの。聞いてくださるかしら。」


 急に明るめの声で山南が言った。


「そ、それは、おめでとうと、言っておくわ。」


 北川はその話に「えっ」と言うような表情を作り、慌てたように言う。


「あら、「そんなくだらない事!」と言って、ここから出て行っちゃうかと思ったわ。」


 自分の立場が今の北川より上だという事を知らしめるように、驚いた表情とともに北側に語る。


 それでも動かない北川に満足して様な表情を作る。


「男の人の手って、思ったより骨ばっているのね。見た感じもっと繊細なのかなって、考えていたんだけど。」


 うっとりするような顔を作り、北川から視線を外し観客側にその顔を見せた。

 ちょっとドキッとした。

 隣の須藤を見ると、食い入るように舞台を見ている。

 逆の佐藤は少し冷めた感じで見ていた。

 面白くないのだろうか?


「その人の手に触ったってこと?」


 少しソワソワする感じで北川が山南に聞く。


「触ったって言うか、手をつないだって言うか…。恋人繋ぎって言うの?ほら、指と指の間に相手の男の人の指を入れるつなぎ方。結構ドキドキするよね。」


 挑発するような喋り方。


「ええ、そうね、ちょっとドキドキするわね。」


 完全に棒読みのセリフ。

 それが、妙にリアリティを感じさせるのは、その言葉の意味ではなく、山南のセリフに心を奪われている。


「ねえ、北川さん、やっぱり男の人の身体って、華奢に見えてもしっかりと筋肉がついていて安心感?みたいなもの、感じない?」


 山南がさらにその北川に畳みかけている。

 というか、こんな話を高校の演劇でやっていいの?

 山南さん、やけに色っぽく見えてきてしまいました。


「へっ、男の人の、身体って?」


 素っ頓狂な声を出す北川。

 怯えと違う意味での驚き。


「あら、いやだ、抱きしめられた時ってことよ。急にハグされて、恥ずかしかったけど、頼もしさと優しさを同時に感じたの。あら、北川さん、こんなに綺麗なのに、男性にハグされたこと、ないの?」


 さらに挑発するような言動。

 このやり取りに、先ほど冷めた態度だった景樹が興味を示し始めた。


「バ、バカにしないでよ。私は北川穂香よ。この学校で一番とも言われてる美貌を持っている。あんたみたいな陰キャが嬉しそうに男に抱かれたことを自慢するから、呆れてただけよ。」


 ここで震えながらも、プライドを見せる演技。

 それを見る蛇のような山南。

 だが、この芝居はどういうとこに落ち着くんだ?


「あら、北川さんはもっといろいろな経験があるってことかしら。」


 あざ笑うようなセリフで煽る山南。

 より一層悪役顔になっていく。


「当然よ、あなたなんかと一緒にしないで。」


 何とかその威厳を保とうとするも、膝が観客にわかるように震えてる。

 細かいなあ。


「そうね、北川さん。あなたのような素晴らしいスタイルなら、世の男性はまさに虜になってしまうでしょうね。私の彼氏は私の身体を誉めてくるけど、北川さんを抱きしめたときではきっと感想も変わるのかしら。」


 さらにカエルを見るような蛇のまなざしが強くなる山南。


「よ、よく解ってるじゃない、山南さん。では、ち、忠告させてもらうわね。その彼氏さんに私をみ、見せないことね。きっと、心変わりしてしまうから。」


 動揺を隠そうとして隠せない言い回し。


「ええ、出来ればそうしたかったけど、もうそれは駄目ね。北川さんのことを彼は知っているから。だって北川穂香はこの町では知らない人はいないもの。」


 微笑みを顔に張り付けたような笑顔で、北川に迫る山南。


「あら、それはごめんなさいね、山南さん。でも、それが私に何の関係があるのかしら。だ、大体、「秘密」って、話はどうなったの。」


 最初は優越感を出すような表情をしながらすぐに不安になり、言葉が泳ぐ。

 その行動に満足そうに微笑む山南。


 だが、北川の震えが、少し減ったように見える。


「北川さんにも関係のある話よ。」


 勝ち誇ったように胸を張って山南が北川を見下ろす。


「私の彼氏、知ってるでしょう、北川さん。」


 まだ微笑みが張り付いた感じ。


「な、何を、言ってるの。し、知ってる、訳、ない、…。」


 声は上ずっているが、震えはなくなってる。

 なんだろう、助走をするような感じに腰が少し沈んでる。


「この3日くらい帰ってこないの、彼。彼のアパートに。」


 北川の行動の変化に気付くことなく、山南は北川に得意げに話し続ける。


「帰ってない、アパートにって、まさか、あなたが。」


 北川の言葉は震えているが、身体が一段と低い状態になってる。


「知らないかな、北川さん、私の彼氏、笹川龍之介君。」


 その言葉を山南が言った瞬間、北川の身体が山南に向かってとびかかった。

 それに対し山南が両手を十字でブロック。

 その拍子に黒縁の眼鏡がはじけ飛んだ。

 山南はそのまま横に跳んだ。


「うわー、びっくりした。てっきりそのまま崩れ落ちると思ったのに。」


 驚いたように山南が北川に言った。


 ブロックに防がれた北川は、そのまま綺麗に着地し、スクッと立ち上がった。

 怒りの形相で。


「あなたが、龍之介の相手だったのね。まったく気づかなかったわ。」


 怒りをあらわにした低い声でそう言い、山南に近づく。


「そうよ、北川穂香さん。だから私の愛する龍之介がどこにいるか聞こうと思って呼び出したのよ。」


 先ほどまでの悪魔のような笑みが消え、山南の瞳が北川を睨む。


「許さないわ。龍之介は私のものなんだから!」


 そう言いきって、さらに山南にじりじりと近づく。


「眼鏡がなくなればもう私から逃げられない。」


 そう言うと今度は山南の首元目掛けて、両手を伸ばした。


 が、それに気づいていた山南は、今度は余裕を持ってその手から素早く体をよける。


 北川の両手が空を切り、勢い余った北川の足元を山南は軽く払った。

 北川の身体がキレイにその場所に転がった。


 その際、北川の短いスカートがひらりと観客側に広がる。


 一瞬、俺はその中を期待を込めて凝視してしまった。


 残念!黒いスパッツだった。


 などと下世話なことを考えている間も演技は続く。


 足を払った山南は、転がった北川の背中を思いっきり踏みつけた。


 と、見える踏み方をする。

 ホントに踏みつけたかと思った。


 ゴホッ。

 苦し気な何かを吐き出すような音が聞こえた。

 効果音か、セリフか判断できなかった。


「うっ、うう。」


 北川の口からうめき声が出てきた。


屋上の二人  https://ncode.syosetu.com/n4505hr/


興味があれば読んでみてください

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