第111話 舞台「屋上の二人」Ⅰ
今回から4回ぐらいで演劇部の短い舞台が展開します。
「屋上の二人」この原作を投稿してありますので、もしよろしかったら読んでみてください。
舞台劇と小説で、多少書き方を変えてありますので、その違いも面白いんじゃないかと思います。
照明が暗くなった。
「これから、特別の部活動紹介を行います。演劇部による舞台「屋上の二人」を披露するとの事です。皆さん静粛にお願いします。」
辺見先輩の言葉が響く。
先ほどの熱狂的な人々はいなくなったため、時間の経過とともに館内は落ち着いていった。
そして、この演劇部による特別劇を見に来るための在校生が増えてきていた。
結構評判になっているようだ。
特に今回はこの部活動紹介用に作られたショートプログラムという事で、この時だけの上演のようだから、結構コアなファンは見逃せないらしい。
「佐藤は演劇なんかに興味あるのかい?」
須藤が舞台を凝視する景樹に聞いてきた。
「あんまり、こうゆうの見たことなくてさ、俺。逆にどんなもんか興味出てきた。実は、ほとんどサッカーばかりでね。他に興味持つことなかったんだけど、なんか、それ、もったいないと思い始めてる。」
なぜか、景樹がそんなことを言い始めた。
(きっと、この佐藤君。もしかしたら結構悩み抱えてるのかもしんないな)
(景樹が、この陽キャ、リア充満点の男が?)
(人は見かけがすべてじゃないよ。もしかしたら光人に声を掛けてきたのも、その辺が絡んでるのかもしれないな)
「そういう須藤はどうなんだ。シナリオに興味がるって言ってたけど。」
「シナリオは興味あるよ。でもそれ以上にどういう風に劇に変わるのか、演出とかも面白そうじゃないか?」
「そういう見方もあるのか。」
そんな話をしていたら、大きな足音が聞こえてきた。
効果音だ。劇が始まったようだ。
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ガチャ。ドアを開ける音がした。
舞台上手から一人の少女が出てきた。
制服は日照大千歳と同じ制服。
リボンタイは緑。3年生のようだ。
スカートは今時には珍しく膝下10㎝くらいある。
黒縁の眼鏡をして髪は三つ編みで肩から胸に流している。
絵にかいたような真面目な生徒。
そんな感じだ。
「ふー。まだ来てないようね。」
出てきた少女が綺麗な声で独り言のように語った。
「この校舎も、もうすぐ解体するからって、全く管理が杜撰。メンテナンスの必要がないとはいえ、こうも簡単に生徒が屋上まで出られるようじゃ、何か事故があったら学校側はどうすのかしら。」
少女はそう言いながら、舞台の奥に移動する。
その少女をライトが追っている。そのライトの方向を見ると、ギャラリーの席から照明を動かす人が見えた。
「この手すりも、もう赤錆が浮いてるし。もし自殺するなら今がチャンスって感じ。」
独り言のように、この状況を説明してるってとこか。
部活をしているような声が館内に響く。
これも効果音ってやつか。
少女は舞台奥で下を見るような格好をしている。
「みんな、青春って感じ。ちょっと、羨ましいな。」
呟くように言っているが、しっかりとこちらの耳に届いてる。
「この校舎を潰して新しく体育館を作るって言ってたけど、この学校、そんなにお金あんのかな。」
少女はそう言いながら奥から前に向かってゆっくり歩いてきた。
「まあ、運動部に力を入れて、いろんなところから生徒呼びこんでるのは事実だし、笹川龍之介君とも知り合えたわけだし、文句は言えないか。でも、この土地を牛耳ってる複合企業、キタガワホールディングの多額の寄付がなきゃ、成り立たないってとこは気に入らないけど。」
少女の顔がはっきりと見える位置まで来た。
黒メガネ、長いスカート、三つ編みの髪型は、明らかに役のためであろう。
その顔は女子高生らしい顔立ちだが、少し暗い感じの表情を作ってる。
ガチャ。二度目の効果音
二人目の少女が上手から現れた。
もう一人の少女に向かって歩いていく。
少し脱色して軽くウェーブの掛かったブラウンの髪の毛。
さっきのギャル先輩のようにブラウスのボタンを2つ開けて、リボンタイを緩めてる。
リボンタイの色は同じく緑。
日照大千歳の学則によれば、その格好は完全にアウト。
ブレザーは普通に着ているが、スカートは膝上15㎝くらいに短くなっている。
下手すると観客から中が見えてしまうかギリギリの長さ。
前からいた少女の近くまで来て、あゆみを止める。
今気づいたような感じで、スカートの長い少女が、自分の近くに来た少女に顔を向けた。
「もしかしたら待たせてしまったかしら、えーと、山南咲空さん、でよかったわよね。」
そう言った少女は、柊先輩のようなブラウンの髪とは明らかに異なる人工的な髪をかき上げる。
その仕草は、演技中だから当たり前なのか、強調するためなのか、演技がかった大げさなものだった。
「そんなことはないわ。約束の時間まで、まだ少しあるから。北川穂香さん。それと私の名前は「やまみなみ」ではなくて「やまなみ」よ。よかったら覚えておいてね。」
かなり挑戦的な口調で山南という少女が北川という少女に言う。
もう一つの逆側に会った照明機器からライトが北川穂香にあたる。
その姿は、山南咲空と対照的だった。
目鼻立ちがはっきりしていて、唇にグロスを塗ってあるのか、ピンクに輝いている。
口元に小さいほくろがあり、かなり艶っぽい。
短いスカートから伸びた脚は美脚と言ってもいい形だ。
顔は小さめで、全体的にスタイルの良さを際立たせている。
胸も腰つきも魅力的だ。
二人を地味と派手で完全に対照的に演じてることが狙いなのは解りやすい。
「もう、1年くらい同じクラスだったけど、覚えられていなくて残念だわ。私はずーっと北川さんを見てきてたんだけど。」
「それは、ごめんなさい。どうしても興味のないものに時間を割いている時間がないもので。」
北川は山南を明らかに見下したように振舞う。
「でも、北川さん、ありがとう。そんな貴重な時間を私のために割いてくれて、こんな危険な屋上まで来てくれて。」
山南咲空はそう言うと一歩、北川穂香に近づいた。
「で、この変な手紙を私の机の中に入れたのは、あなたでよかったという事ね、山南咲空さん。」
そう言って北川はA4くらいの紙をひらひらと山南に示した。
「あなたの秘密を知っている。二人だけで会いたいので、旧東棟屋上に17:00に来てください。」
山南が、そのひらひらとしている紙を見るようにしながら、そう言った。
北川の顔が醜く歪む。
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