第107話 部活動紹介Ⅶ バレー部
「では続いて、バレー部にお願いします。」
テニス部は男女合同で行ったが、バレー部は違うらしい。
背がそれほど高くない男子生徒が一人で壇上に出てきた。
「皆さん、初めまして!バレー部部長の2年、吹田です。今回は他の部活と違い、紹介ではなく勧誘です。今うちの部には部員が5人しかいません。バレーボールは最低6人以内と試合ができません。さらに交代要員迄考えれば10人は必要なんです。お願いします!少しでも興味があったらバレー部に入ってください。」
そして、演台から外れて、おもむろに・・・。
土下座した!
(切実だな、バレー部)
(飯鉢君は入るつもりだから、試合とか、大会には出れるんだろうけど…。なんか、かわいそうだな、親父)
まだ土下座してる。
「吹田君、みんな引いてるから、土下座止めよう、な。」
司会の辺見先輩がたまらず、そう声を掛けた。
横から、バレーのユニフォームと思われる体操着を着た女性が吹田先輩の横に来て、優しく諭してる。
顔をあげた吹田先輩は、泣いていた。
必死なんだなー。
(必死さは伝わるけど)
(こういう場でやっちゃうと、どうなんだろう。運動部だからな)
吹田先輩はそのまま他の人に引きずられるように退場していった。
さっき、吹田先輩にやさしく接していた女性がそのまま演台に着いた。
その後にもう一人、背の高い女子がやってきた。
「女子バレー部、部長の3年、水上莉理亜です。背が低いからという訳ではありませんが、セッターをやってます。先程は男子バレー部の吹田君が申し訳ありませんでした。彼も男子バレー部のために一生懸命であることは理解してあげてくださいね。」
水上先輩はそう言って舞台の袖口に視線を動かした。
こちらからでは全く吹田先輩の姿は見ることが出来ないが、多分まだ泣いているのかもしれない。
ここからでは身長がどれくらいあるか分からないが、先ほどの吹田先輩との比較から、この水上先輩の背丈は俺ぐらいだろうか。
とすると今その水上先輩の横にいる女子は180くらいはあることになる。
「で、今横にいる2年の栗原紗愛が当バレー部のアタッカーです。」
「あ、はい、アタッカーの、栗原です。よ、よろしくお願いします。」
慣れた感じの水上先輩に比べると、凄い緊張してるのが分かる。
そりゃ、そうか。新入生の希望者だけとはいえ、結構な数の人間の前だもんな。
あれ、栗原ってさっき景樹との会話に出てきた人か?
(そうだな。佐藤君が言っていたこの学校の美人と呼ばれる女子の一人だと思うよ。栗原紗愛さん)
言われてみれば、今は緊張でカチコチになってるけど、かなりカッコイイ。
おそらく、よく名前の挙がっている狩野瑠衣という先輩と同じ感じなのだろうか?
「女子バレーも男子ほどではないんですが、部員がまだ必要です。興味があれば今日に限らず、練習を見に来てくださいね。また、選手の体調管理などをしてもらえるマネージャーも随時募集中です。よろしくお願いします!」
「ワタ、私達、と、い、一緒に、バレー、やりましょう!」
栗原先輩も、必死になってそう言って頭を下げた。
「女子バレー部の活動紹介でした。水上先輩、吹田君のこと宜しくお願いしますね。」
(なんか微妙な言い回しだな。さっきの男子の様子から心配するのは解るが、それを女子バレー部の主将に頼むかな?)
(言われてみれば、親父の言うとおり少し変だな。同じバレー部で廃部しかねなくて、心配、ってかんじ?)
「景樹さ、さっきの司会の先輩の言葉、変じゃね?なんか付き合ってるっぽいような…。」
少し驚いた景樹の表情が、すぐに変な笑いに変わった。
「光人は恋愛に変な感情持ってたっけ。それが敏感に反応したのかな。俺も詳しくは解らんけど、あの情けない先輩のどこを気に入ったか、水上先輩と吹田先輩は付き合ってるらしい。で、あの司会の辺見先輩はそのことを知っていての発言だろう。しかも新入生に遠回しに伝えることで、この高校はそういう恋愛感情に理解があると伝えたい、と俺は見ている。」
(ただの青春の恋愛事情かと思ったが、司会の人の言い回しから、少し政治的なにおいがする)
(親父も変に勘繰りすぎじゃないか?)
と思ったんだが、次の景樹の言葉で、一気に親父の弁が正しいことを思い知らされた。
「何年か前の女子の生徒会長の前までは風紀委員ってのがあって、結構恋愛狩りみたいなことをしていて、普通に付き合うのも大変だったらしい。その女子生徒会長が頑張って風紀委員を解散させ、恋愛に関して高校生らしい付き合いはOKという状況を学校側に認めさせたって噂だよ。」
なかなか、この時代で私立とはいえ、そんなことがあることに驚きだ。
男女共学で、恋愛狩りか。
そういえば、もともとこの学校は男子校だったけ。
「あれ、そういえば、その時の女性生徒会長の名前、つい最近聞いた気がしてきたんだが、誰だっけ?」
「俺に聞かれても、分かんねえ、景樹。須藤、聞いたことあるか?」
「いや、さすがに入学2日目の俺らで分からんのが普通だと思う。」
つまり、わざわざ辺見先輩があんな遠回しで二人に恋愛関係があることを俺達新入生に知らせた。
それが生徒会が学校側に対して生徒の側に立ち有効に機能した実績であるというプロバガンダとなる。
もっとも、そんなことに気付く生徒がいるのだろうか?
この俺自身の思考が親父の影響であるという事の意味を俺は考えた。
これは良いことなのか、悪いことなのか。
まあ、この生徒会の実績とやらを当の生徒が実感するかどうかは別だが、景樹が噂として語ったことからも、しっかりと下の世代に伝わっているわけだ。
「バレー部は大丈夫そうですね。新入生の皆さんも、勉学は当然として、部活動や、友人との交流、そして恋愛など、存分に青春をエンジョイしてください。我々、日照大千歳中学高校の生徒会は皆さんのそんな青春全般をバックアップしていきます。」
うわー、思いっきり生徒会をアピールしてきた!




