第104話 部活動紹介Ⅳ 写真部
「物理部の紹介でした。続いては写真部の活動紹介です。」
舞台袖から男女の生徒が中央の演台に歩いてくる。
男子の方はフレームレスの眼鏡に少し細めの目が神経質そうに動いている。
大きくはない口元の口角をあげるように努力しているが、ひきつっているように見えた。
単純に緊張しているらしい。
それに引き換え後から来た女子生徒は先に男子に比べ余程落ち着いてる感じだ。
背丈も男子生徒とほぼ一緒。
長めの黒髪を無造作に後ろで束ね、少し太めの眉毛と、切れ長の目元は意志の強さを感じる。
決して綺麗と称賛されるタイプではないが、その顔は力強いパワーを秘めた感じで、みんなに熱い個性を感じさせるには充分である。
「写真部の部長をやっています3年の大杉蓮也です。」
「副部長の井本澄香、3年です。よろしくお願いします。」
部長の大杉先輩は、持っていた紙を広げて、読み始めた。
今までの先輩たちはそらで紹介してたのとは対照的だな。
「我々写真部の活動は主に、この学校の文化祭「翔智祭」の展示となります。部員はこの時に合わせて最低1点以上の作品をあげてもらうことになります。ただ、一昔前と比べて現像、焼き付けなどの作業がなくなり手軽に写真を撮れるかと思いますので、気軽に部室に見学に来てください。」
部長がそう言うと、続いて副部長の井本先輩が舞台袖の上の方に視線を向け、合図を出した。
するとスクリーンに写真が映し出される。
「ここにこれから何点か、去年「翔智祭」に展示した作品をお見せします。」
副部長のしっかりとした声が館内に響く。
部長先輩の緊張した声音とは明らかに差があった。
スクリーンには、子供の笑顔や、動物たちの愛らしい一瞬を切り取った写真が映し出されている。
風景や、花などの植物、ビルなどの建造物も出てくる。
なかなかみられることを意識した作品たちだなあと感心いていた時だった。
次の写真が映し出されると会場からどよめきが起きた。
柊先輩の写真だった。
柊先輩の少し上から撮影されたもので、その方向に先輩が見上げる格好になっており、上目遣いのような状態だ。
見事にそのダークブラウンの瞳にピントが合っており、瞳から顔の表情までは鮮やかに見えるのにそれ以外がぼかされている。瞳が非常に印象的な写真であった。
男子はただ、ただ、ほうけたようにそのスクリーンに見入っており、女子は女子でうっとりとした表情を向けている。
素人目にもかなりの高等なテクニックだと思った。
「これは柊夏帆さんのバイトをしている先のカメラマンの赤越淳也先生より特別に展示させてもらった1枚です。皆さんももうご存じだと思いますが、生徒会書記の柊夏帆さんはファッション誌JAの読者モデルをしています。でもこの写真は赤越氏が、柊さんの魅力を最大限に引き出したいという想いで撮影したそうで、JAに載せることが出来ず、わが校に寄贈という形で提供していただいたものです。」
ほー、というような感嘆の声が聞こえる。
確かにこの表情を引き出すのも、このように撮るテクニックも、素晴らしいとしか言いようがない。
ふと、このモデルさんの様子が気になり、ステージ舞台袖に顔を向けると、ステージのカーテンにしがみつくようにして顔を隠している先輩を見つけた。
この状況下で褒め称えられるのは、一般人では、ほぼほぼ、公開処刑のようなものだ。
しかし、先輩自身は取られ慣れてもいるし、雑誌に掲載されているんだから慣れたもんだと思ったんだけど。
(いや、雑誌に掲載されるのと、このような上映会で褒め称えられるのは違うんじゃないか?)
まあ、親父の意見ももっともなんだけどね。
井本副部長はその会場の雰囲気に気を良くして、次の写真に切り替えた。
今度はバスケの写真だった。
女子バスケの選手がジャンプしてシュートを打つ瞬間を撮影している。
館内のスポーツの試合では確かストロボは禁止されてるはずだ。
にもかかわらず、ぶれずにバスケットボールが手から離れる瞬間が克明に映し出されている。
しかもそのボールを放つ女子選手の顔の表情、飛び散る汗のきらめきがこれ以上はないんじゃないかというタイミングで取られている。
「この写真は、うちの女バスの試合の時のもので、私が撮影したものです。手前みそではありますが、私の写真撮影で1番の写真だと思っています。」
あー、瑠衣先輩だあーという声が所々で聞こえてきた。
というとこの人が柊先輩の後輩で一緒に読モやってる加納瑠衣先輩か。
「分かる方はもうお気づきでしょうが、この女子は2年の加納瑠衣さんです。柊夏帆と一緒に読者モデルをやるほど、整った顔をしているんですが、それ以上に試合中の美しさをこの写真では引き出せたと思っています。このように、「翔智祭」に向け作品を作るというのも、結構楽しいものですよ。」
井本先輩はそう言って、俺たち新入生を見渡し満足そうな笑顔を浮かべた。
(あの2枚は別格だよな、親父)
(まさか、こんなところであんな素晴らしい写真を見せられるとは思わなかったよ。これがスクリーンでなく、実際の紙に印刷して作品としてできたものはもっと素晴らしいんだろうな)
「さて、今までの説明は、実際の写真部の活動ではあるんですが、もう一つ、写真部では違う形で写真を楽しんでもらうための企画も行っています。」
「月一回くらいをめどに、木曜の放課後に、写真撮影講座を開催しています。」
さっきまで黙っていた大杉先輩が説明を始めた。
「今は皆さん携帯、スマホを常時身に着けていると思います。その為、いわゆるシャッターチャンスを得る機会も多いと思います。またSNSの流行に伴い、よりきれいな、見栄えのする撮影方法が注目されています。そんな人を対象にいかにすれば「ばえる」写真を撮影できるか、とか、スマホの撮影と、一眼レフなどのカメラでの撮影方法の違い、録画するための手法など、その時のテーマで写真の魅力を広めるという活動もしていますので、部活動という事だけではなく、写真に興味を持ってくれるといいな、と思っています。興味のある人はぜひ、特別棟サークルハウスの写真部をのぞいてみてください。」
写真部部長のその言葉で紹介は終わり、二人が舞台の袖に引っ込んでいった。
と思ったら背の高い女子が柊先輩と一緒に井本先輩に詰め寄っていた。
あれが狩野先輩かな?しかし、えれえ背が高いなあ。
「ああ、あの背の高い女子な。さっき写真で出てた加納瑠衣先輩だよ。綺麗で、モデル張りのプロポーションだけど、むっちゃ背がでかいよな。」
俺が見ていた女子の先輩に対して景樹が説明してくれた。
「よく知ってんな、景樹。」
「一応な。やっぱ目立つからね、あの先輩。春休みの練習でも結構見かけたしね。当然うちの部の先輩なんかもよく知ってるからさ。いろいろ教えてくれるんだよ。その点、柊先輩は、生徒会で運動系じゃないからあんまりお目にかかることはなかったね。」
景樹の言葉に須藤が反応した。
「じゃあ、他にも綺麗というか、目立つ先輩とかっているの?柊先輩と狩野先輩が読モやるレベルの綺麗な女子だけど。」
「そうだね。タイプは違うけど有名な先輩は、柊先輩、狩野先輩と仲のいい3年の大島香音先輩だね。どちらかというと日本美女って感じ。あと先輩たちが噂してたところだと水泳部2年の天川桜先輩とバレー部2年の栗原紗愛先輩かな。そんなに会うことないと思うけど。」
「一応頭に入れとこっと。ああ、白石は覚えなくていいぞ。それでなくともお前の周りは今美少女ばかりなんだからな。これ以上他にちょっかい掛けないほうが身のためだ。」
「別にちょっかい掛けてるつもり、ないんだけどなあ。」
少し不満を口にしてみたがものの見事に無視された。
「なかなか素晴らしい作品を見せてもらいました。写真部の活動紹介でしたが、現在井本副部長が写真のモデルたちに抗議を受けているようですね。でも、新入生の皆さん、この学校にはあのような素晴らしい先輩もいるという事で、ぜひ励みにしていきましょう。続きまして、3年前にPC部から改名した電脳部の紹介に移ります。」




