第1話 親睦旅行の夜
高校の団体旅行では当たり前なのかもしれないが、恋愛感情による様々な行動は、本人からすれば非常に重要な問題なのだろうが、それを相手にする人も含め周りはえらい迷惑をこうむるよな。
東京近郊の日照大千歳高校入学後、新入生の親睦を深める目的で行われる研修旅行2日目の夜。
北関東に位置する日照大学の研修施設の宿泊所ロビーで俺は一人ペットボトル入りのお茶を飲んでいた。
同じクラスで美少女と噂される「あやねる」こと宍倉彩音さんがやっと落ち着いて、今は俺の幼馴染で恩人でもある「村さん」こと西村智子がそばについて見ていてくれている。先程、連絡を入れた宍倉さんの親友である鈴木伊乃莉さんも部屋に着くはずだ。
(まあ、とりあえずは、大丈夫かな。とは言え、男性恐怖症のあやねるにはつらいよなあ~)
(何故か、その男性恐怖症のはずの「あやねる」が、光人にだけはかなり好意的だけどな。)
俺の頭に巣食うもう一つの人格、2か月前に死んだはずの俺の親父、白石影人が変な疑問を投げかけてくる。
(俺だって、なんでだかは知らないんだぜ、親父!)
(とりあえずは、無事に終わって何よりだが…。さっきの対応だと、今後も同じことが起こりえるぞ。今回の塩入海翔だけじゃなくな。)
(とはいってもさ、あれだけ真っ青になってるあやねる見て、それでも迫ろうとしてたんだ。とりあえずあやねるが中学の時の痴漢を受けたせいで男性恐怖症になってることは事実だしさ、他に方法は思いつかなかったんだよ。)
(お前さんが「あやねる」の特別な男なのは知ってるがな。)
「その言い方!」
思わず声に出してしまい、慌てて口を手で押さえた。自動販売機の前にいた女子が変な顔でこちらを見ている。
一人っきりで変な声を出せば、そりゃ気持ち悪いわな。
(ハハハハハ、全くだ!)
(うるせい!)
頭の中の親父に突っ込みを入れて、どうしてこうなったのか考えていると、軽く頭痛がしてきた。
俺の父親、白石影人は2か月ほど前、トラックの前に飛び込み、小学生の男の子、浅見蓮君を助けるかわりに、撥ねられて死亡した。
はずだったのだが。
なぜか、俺の脳内に忽然と親父の人格が出現した。
親父曰く、中学受験を失敗し、失恋・友人の裏切り・いじめで、すっかり人間不信に陥り、陰キャボッチの道をひたすら邁進していた俺、白石光人が心配で心配で心配で……。その結果、俺の脳内に転生したとのこと。
えっ、意味わからないんですけど。
言ってる親父も、実はよく解っていないらしい。
そこから24時間、親の監視付きのという、とても言葉にはできない感情を纏い、俺の高校生活が始まった。
(まあ、回想するのは勝手なんだけどな、光人よ。本当に今後のこと、真剣に考えた方がよくはないか?)
隙を見ればすぐに人に突っ込みを入れてくる。嫌われもんのやることだ。
(そうは言っても、お前にしか私のことは解らないんだ。変なこと考えたり、しゃべったら、お前こそ嫌われ者の仲間入り。)
ほんとうにうっとしい!
実際問題として、塩色海翔が入学式からあやねるを狙っていることは解っていた。すぐに仲良くなった俺にやたら絡んでくるし。
こうなるんじゃないかと警戒してはいたんだが。
塩入海翔は俺やあやねると同じクラスの1-Gにいる、いわゆるイケメンだ。ただし、言動が上から目線というか、俺たち陰の者を馬鹿にしたような態度を取ってくる。運動もそこそこ出来るらしく、サッカー部に所属している。
本来ならモテモテ街道まっしぐら、ってなところなんだが。実際、中学時代はモテていたようだ。とは真中光太郎の話だ。ただしこの真中君も塩入海翔にはいい感情は持っていないようだ。どうも好きだった子を取られたような感じ…。
そんな塩入海翔君、必ずしも、このクラス、日照大千歳高校1-Gでは、思うようにいかないらしい。
何と言っても我がクラス1-Gにはかなりのイケメンで性格までいい、佐藤景樹というサッカー部で将来のエース候補なんていう、もろ主人公タイプが存在している。
これがどうも塩入海翔さまにはお気に召さないようだ。
さらに、塩入にはかなり冷めたような接し方をする「あやねる」こと宍倉彩音さんが、陰の者である俺に対してはごく自然に友達付き合いをしている。これが、彼を大いに刺激したようだ。
あやねるは、わが高校でその美しさがトップクラスの3年生で生徒会書記を務める柊夏帆先輩に誘われ、生徒会に所属した。
その為1-Gでは副学級委員長をしている。
その宍倉さんの気を引きたいがために(級友のあらかたがそう思っている)、塩入海翔は誰もやりたがらない学級委員長を自らやっている。
そんな宍倉さんが俺のどこが気にったのか、男性恐怖症なんて言いながら、俺と俺の友達の須藤文行には普通に接してくれている。
(お前に対するあの態度は、決して普通とは言わんぞ。お前に惚れてるとまでは言わんが、どう見たって気になる存在としか言いようがない。須藤君には悪いがな。)
(人が物思いにふけってるんだ。邪魔すんなよ。親に心が筒抜けってのが、どんなに嫌なことか、想像したことがあんのか!)
(あ、それは悪かった、謝る。とはいえ、こういう状態になってしまったんだから少しは慣れろや、息子よ。)
全然、悪いという態度をしていない!
ため息しか出ない。
(まあ、塩入海翔に関しては引き続き要監視ってことだな。)
(男性恐怖症については、信じたようだからな、塩入のやつ。ただ、自分こそはその呪縛からあやねるを解放してあげる、なんて考えなければいいんだけど…。)
(十分あり得る話だ。今は、あのあやねるの恐怖にかられた表情に衝撃を受けていたようだったが。冷静に考えたら、変なことを考えかねんからな。)
(わかったよ、親父。とりあえず村さんに連絡して、宍倉さんの様子を確かめるか。)
俺はスマホから村さんにメッセージを送った。
そろそろ部屋に戻るかな。
でも、塩入と同室だから、もどるのいやなんだよな~
(じゃあ、あやねるとこで泊まらせてもらうか?)
(できる分けねえだろうが、エロ親父!)
自分の脳内に入る親父の人格にそう吐き捨て、スマホを確認。
村さんから、(あやねるは大丈夫!伊乃莉さんも来て落ち着いてるよ)とメッセージが来た。
少し安心した。
ほっとしながらも、俺は重たい体を引きずるようにして自分の部屋に向けて歩き始めた。
頑張って投稿続けたいと思います。
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