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オールトの雲

作者: 津辻真咲


私は、太陽系の外のエッジワース・カイパーベルトの、そのまた外側のオールトの雲みたいに遠い距離にいたけど、太陽の光はちゃんと届いていたようだ。



今日は、同窓会。中学時代の想い出がよみがえる。大学卒業後、初めての同窓会が開かれていた。

――皆、変わった。別人に見えてしまう。

私は、適当に場所を探す。地元の居酒屋は、今日、とても賑やか。



《桜木さんが来ると思ったから、来たんだ》

――彼は、今日、来ているだろうか……。

初恋の彼は、同学年の中で人気者だった。担任からも、好かれているような人気者だった。



《桜木さんって、宇宙が好きなの!?》

その言葉から、始まって。

《桜木さんが来ると思ったから、来たんだ》

その笑顔から、変化して。



中学時代の課外授業。自由参加だった。その時に言われ、心が躍動した。ぼーっとしがちの私は、不思議な感覚で、今でも覚えている。

それから、よく話すようになった。私は地味な雰囲気で、眼鏡もかけていた、だけど……。



「眼鏡、壊れてるよ……」

 彼は、私の顔をじっと見て来る。

「壊れてないよ?」

「え!? そうなの!? 穴が開いてる」

眼鏡フレームとレンズの間にデザインとして、少し穴が開いている眼鏡を見て、彼は少し驚いていた。

「どこで買ったの?」

彼は、机ごしに身を乗り出す。

「鯖江……」

「へぇー、すごい」

興味津々というようだった。



そんな彼も、今では眼鏡男子だ。

「眼鏡って、ここに空間あった?」

「え?」

 隣の親友に話しかけられて、彼は少しきょとんと親友の方を向いた。

「ここの所、フレームから、すっごく離れてるし!」

「デザインだよ」

……。

その後、彼は少し沈黙した。

「え!? 桜木さん?」

「!」

思いがけない展開に頭が真っ白。隣の親友も思わずこちらを向いている。

――どうすれば……?

「あー、なんだ。眼鏡じゃなかったから、分かんなかったよー」

 彼は、笑顔をこちらに送る。

――笑顔も、彼自身も、変わっていないのかな。

あの時の事、本当に嬉しかった。ただ、それだけだけど、記憶の映像が再生しそうだ。



放課後の教室で、私は本を読んでいた。

「桜木さん、相対性理論分かった?」

「え?」

私は、少し驚いて振り返る。彼がいた。私がまだ、一人で残っていた教室へ入って来た。忘れ物らしい。

「え? 何で?」

最初の問いに、疑問文で返してしまった。

「なんとなく。俺、雑誌読んでも分かんなくて」

彼は、自身の机の中を見ながら、会話を続けてくれていた。

「私も、分かんないよ」

「え!? そうなの!? 桜木さんだから、分かってるのかと」

「相対性理論より、超弦理論の方が今は興味あるかな……」

「え! 何理論!?」


そういえば、宇宙が好きと言うと、よく《星座に詳しいの?》と誤解されていたな……。

私は、宇宙物理が好きなんだけど、望遠鏡での観測は、好きではなかった。

だから、《宇宙が好き=宇宙物理学に詳しい》と位置づけてくれた彼が、私の世界に第一の相転移を起こさせてくれたようだ。



「桜木さん、久しぶり!」

彼は手を振って、少し遠めの私へと笑顔を届ける。私も手のひらを見せる。少し小さく。



彼は、太陽。私は、オールトの雲の中の、小さな小さな小惑星。それでも、嬉しい。

たまに戻って来た太陽系は、居心地が良かった。そして、今度は、その遥に大きい銀河系も超えて、違う時空を漂いたい。


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