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幼馴染みがちょっぴり不機嫌な件

『「TRUE MIRAGE」最新アルバムの発売は――』


 テレビ越しでのトップアイドル東城美月は、いつものようにクールな表情で。

 グループのセンターとして格好良く宣伝をキメていた。


 殺風景な部屋に美月を通せば、まるで小学校の頃に初めて俺の家に遊びに来たときのような子どもらしい反応が返ってきた。

 ソファに座る美月の頬が少しだけ紅い。

 さっき自分で思いっきし記憶を封印するビンタをしていたからだろうか。


「……粗茶です」


「なんで敬語ぉ?」


 対して幼馴染みの東城美月はというと、目尻は下がってだらしなくニコニコ笑みを浮かべるばかりだ。

 ポーカーフェイスを決めてテレビで活躍する国民的アイドルの影は微塵も無い。


 本当に同一人物か……?


 カク、カク、カク。


 ――と、ふいに美月の動きが角張った。


 ずず……ずずず……。


 ソファの上で体育座りをして、ジト目でこちらを見る。

 これはあれだ。何かのことを疑って、若干機嫌が悪いときの美月だ。


 俺の方が聞きたいことがたくさんあるんだが……。

 こうなれば美月も止まらない。大人しくこの荒波が収まるのを待つしかないのだろう。


 そういやさっき、セナを見かけて唖然としていたな。

 小中高の頃は部活の同期や後輩だったり、女の子と親密(?)に話した後はいつもこうだった。

 家に帰った後に、互いの部屋の窓越しでちょっとした話をするついでに、「あの子だぁれ?」って聞いてくる。


 お互いがお互い、かなり見知った仲である種の腐れ縁でもある。

 美月は当時から特に容姿もトップレベルで対外的にはポーカーフェイスを貫いていたから男からの告白も絶えなかった。

 それでも一切男と付き合わずに過ごしていたからこそ、かつてのように気軽に話しかけたりすることが出来ていたのだ。

 だが今となってはお互い立場が違う。

 片やしがない大学通い、片や国民的アイドル。

 たかだか昔の幼馴染みの異性関係どうこうが気になるようなこともないだ――。


「あの子、だぁれ?」


 ――本当に変わってなかった。


 目があの頃と全く同じだ。

 詰め寄る中に潜む狂気の笑み。

 まるで「和くんに女の子ははやいよぉ?」というような目だ。


 小さくため息をついて俺は申告する。


「国民的アイドルが気に掛けるようなことかよ。ウチのゼミの後輩だ。香雅里星菜って言うんだ。まぁ、大学での妹みたいなものだな」


「……暁美ちゃんみたいな?」


「あぁ、そうだな。そんなとこだ。そいつ、セナって言うんだけどこいつもなかなかに可愛い奴でさ。音楽の才能はピカイチなんだけど成績がアレでな。前期今期とで勉強教えちゃいるんだが身になってるんだかなってないんだか……」


 暁美ちゃん――というのは俺の妹、藤枝暁美のことだ。

 今は実家で大切に音楽の教育をされていることだろう。いずれは同じ音大に通うんだ!と意気込んでいたが、3学年空いてるから来年ってとこだ。


「その子のこと、心配なんだねぇ」


「留年でもされてみろ。寝覚めも最悪だ。出来ることなら卒業までの間なら俺が面倒見れる範囲なら何とかしてやりたくてな」


「……出た、和くんの根っからのお兄ちゃん気質」


 そう呆れた声を出しつつも、何故かほっとした様子の美月。


 先ほどからの異様に懐疑的な雰囲気も完全になくなり、堂々と俺の隣にぽすんと腰を落とした。


 テレビの中のクールビューティな美月を眺めつつ、隣にちょこんと座ったゆるふわ雰囲気の幼馴染みな美月の茶を入れる。

 不思議な感覚にしか包まれない中で、俺はようやく口を開いた。


「……っていうか、なんで美月がまたこんなところに」


 待ってましたと言わんばかりに、美月は俺を見て笑った。


「和くんの、お隣さんになるためだよ?」


 屈託のないその笑顔は、昔から見てきた可愛らしい幼馴染みの姿だった。

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