幼馴染みが国民的アイドルになっていた件
『さて続いてのアーティストはこちら! 今話題沸騰中の人気アイドルグループ「TRUE MIRAGE」の皆さんです、どうぞー!』
テレビの向こうでは凜々しくクールなアイドルが身体全身で歌っていた。
特にセンターの女の子は動きが他と段違いだ。
キレキレの踊りに透き通る歌声。スタイルも良く衣装の着こなしも抜群。
一つの文句もあるはずのないTHE・アイドルを体現していた。
はつらつとしたアップテンポ気味の格好良い曲にグループ全体の透き通った声が合わさり、テレビ越しでもテンションが上がってくる。
「トゥルミラ、最近どこのチャンネルでも出てるっスねぇ」
俺――藤枝和紀の隣でズルズルとカップ麺を啜るのは香雅里星菜。
まだ少し幼さの残ったあどけない顔と、女子大生っぽいセミロングの茶髪を兼ね備えた小動物みたいな後輩。何かと纏わり付いてくるが根は素直で可愛い奴だ。
「日本で一番勢いのあるクールビューティ系のアイドルグループだからな」
「そういえばトゥルミラが出てる番組いっつも見てるっスもんね。もしかして和紀先パイ、こないだから思ってたんスけどドルオタって奴っスか?」
「トゥルミラに関してはそーかもな」
「うげっ。キャラに合わないっスね!? いっつもガチガチにクラシック弾いてるあの和紀先パイがゴリゴリのアイドルグループ推しっスか!」
「散々な言いようだな。まぁこういう曲も好きだよ。テンションあげてくれるしな」
今日だって自分は教授からの提出課題は終わったはずなのに俺が課題提出するのを待っている。
案外暇なのかもしれない。
俺とセナ以外に誰もいないゼミ室にてトゥルミラの歌声が響き渡っていく。
彼女らの歌声に聞き入っていると、セナは問うてきた。
「で、先パイはどの子がタイプなんスか?」
意地悪そうに肘で小突くセナに俺はぼーっとしながら呟いた。
「センターの子かな」
「即答!? はぁぁ鉄板中の鉄板スね。東城美月。あの鋭い眼光と凜々しい表情、女のカガリから見ても確かにカッコ可愛いっスもんねぇ。……そっか先パイ、こういうのがタイプなんだ……」
今や国民的アイドルとも呼ばれるようになったその美少女の名前は東城美月。
艶のある黒髪のポニーテールに完璧とも言える整った容姿。細くくびれた身体付きにくわえ、取っつきづらそうに見える厳しい表情から垣間見える柔和な笑顔。
話す言葉には知性もある彼女の存在は、今の日本のアイドル界を見ても一二を争うものだ。
「ホントすごい奴だよ。ダンスも歌も昔より格段に上手くなってる。相当練習してここまで来たんだろうな」
「もしかして先パイ、めっちゃ面倒臭いタイプのドルオタっスね……?」
セナが俺と少し距離を取るが、俺は画面の中の美月に釘付けで後輩の気配なんて微塵も感じ取れずにいた。
あまりに画面越しの美月を見続けていた俺に業を煮やしたのか、セナは少し投げやりに俺の顔面に譜面を押しつけてきた。
「まったく、アイドルもいいっスけど! 今期の課題譜面を提出できてないの、和紀先パイだけっスからね? たまにはポップな譜面でも出してみれば良いじゃないっスか。ほら、カガリは得意っスよ、こういうの!」
ドンと話題を変えるように胸を張るセナ。
俺が苦戦しているものこそそう。
ここ帝都音楽大学作曲学専攻ゼミでの課題だ。
作詞・作曲家を志す者たちが集うこの中で、唯一俺だけが作品を提出出来ずにいるのだ。
そんなダメダメな俺に付き合ってくれるのも、今やセナくらいしかいない。
どんなジャンルでもいいから自分なりの曲を作って提出するのだが――。
「なぁセナ。お前どういうジャンル出したんだ?」
「そりゃもちろんアニソンっスね! カガリは燃えるようなアッツい曲が好きなンで今回もそーゆー方向性っス! こう、ぐあーん! ほあちゃっ! ダダダダダッ!! みたいな!」
「ぜんっぜん分かんねぇ」
感覚派ってのはこれだから……!
『それでは大人気トゥルミラのセンター東城美月さんへ質問です――』
『そうですね、やはり応援して下さっている皆さまと――』
そんな後輩からのありがたいアドバイスを受けていた俺の背後では美月が画面にどアップで映っていた。
その時の俺はまだ知らなかった。
すっかり画面越しの存在になってしまった幼馴染みの大人気アイドル東城美月と、再び相見えることになろうとは――。
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