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第19話 情報収集と努力の成果

 数日も経たない内に、母の嘆願により、屋敷全体に妖精厳戒令が敷かれた。


 父がどこからか仕入れてきた、錆びまみれの鉄粉が庭中に撒かれ、チクリクソ鳥や、アコニも、定期的に見回りをするようになった。


 といっても、一家全員が妖精に対して、そこまで警戒しているという訳ではなく、心配性な母と一部のメイド以外の者は、「カチュア(母)が心配しているから付き合ってやるか」といった雰囲気だ。


 そもそも、妖精は最弱な生き物とみなされているので、強者揃いの我が家で、実質的な脅威と感じている者は少ないのである。


(大体、母が昼寝をする時間は、14時~15時の間の範囲に、80%くらいの確率で収まっているな)


 俺は窓際に設置した自作の日時計を確認し、母からもらったスケッチブック――もとい、父や兄たちが書き損じた手紙の雑紙に今日の分のデータを記した。


(ふふ、俺のたくらみにも気づかず眠る母の無邪気なことよ)


 日時計は、芸術的なオブジェに偽装されている。母をかたどった人形が針の代わりとなり、人形が立つ舞台となっている板には、動物をデフォルメした絵を記し、目盛りの代わりとしていた。


 さらに、情報は漢数字で記録しているので、万が一見られても問題はない。


(さて。次はチクリクソ鳥だが……)


 母の分身たる、厄介な青い鳥。


 母が寝ている隙をついて外に出ようとしても、こいつの監視を何とかしなければ、妖精との取引に行くことはできない。


 前は、魔力の餌の賄賂で見逃してくれたが、母からの厳命が下ったのか、俺からの贈り物を無視するようになった。


 しかし、そんなことで諦める俺ではない。


 こいつの生態についても、毎日の検証により、理解が深まってきた。


 チクリクソ鳥は、聴覚と視覚に優れている。


 味覚は不明だが、物理的な意味での嗅覚や触覚はない。


(そろそろ成功するはずだ)


 俺は、抱きしめていた等身大の人形を、脇に置く。


 左手を腰にあて、右手で剣を掲げるニコニコ顔の人形。


 何かの神話上の英雄を模しているらしいが、ヨナ兄――商人のようなことをやっている、同腹のもう一人の兄――が買ってきてくれたものなので、詳しくは知らない。


「風ちゃん、いい波、乗ってんねー! はい、なんと、こんな、素敵な、ウォーターが、ソイル、ソイル、ソイルのグラスに、入って、きました! そーしーたーらー? 行くよ! 行くでしょ! ファイア、ファイア、ファイアの魂込めた、シャイニーコール!」


 人形の周囲に張られる、無属性の魔法の膜。


 無属性とは、すなわち、全属性の混合物である。


 まず、風のベールで人形の周りを覆い、さらに絶縁体の役割を果たす闇属性で二重にコーティングすることで、魔法が漏れ出ないようにする。その中に、土の器を形作り、水を入れる。そこに、汎用性の高い光属性の芯を浮かべ、火をつける。


(成功か……。これで、二時間は持つだろう。後は、偽装が自然消滅する頃に部屋に戻ればよい。しかし、疲労感がすごいな。もう少し洗練しないといけないが、まあ、舌が回るようになれば、直に解決か)


 俺は徹夜明けのような疲労を感じつつも、ひとまず安堵した。


 不完全で舌足らずながらも言葉が喋れるようになったことで、俺の魔法発動はだいぶ楽になった。


 サージュの授業を盗み聞き、詠唱することにより、魔法の発動の効率が飛躍的に上昇することを知って以来、時たまサージュの部屋に侵入し、彼の使ってた教本を読んで、独学で訓練してきたのである。


 なお、詠唱がホストのコール風なのは、一番それが俺に合っているからだ。


 魔法の発動にはややこしい理屈があるのだが、詠唱は心理的印章(モチーフ)を意識的に操作・強調する手段――つまり、テンションが上がれば、なんでもいいという訳で、自然とこういう形になった。


 詠唱は魔法使いがそれぞれでアレンジするのが当たり前。


 そして、対策されないように、詠唱の内容が他人に気取られにくいように隠匿するのも常套手段である。


 ならば、俺が異世界語――すなわち、日本語、しかもホストのコールという特殊な形態で行っても、また不自然ではない。


おそらく、チクリクソ鳥には、俺の詠唱もただの赤子の意味のない戯言と聞こえているだろう。


(さて、これでもう一人の『俺』が出来上がった)


 人形から、無属性の魔法の波動を感じる。


 そう。


 確かにチクリクソ鳥の視力はいい。


 しかし、ここでいう『視力』とは、精霊としてのそれであり、生物としての『目の良さ』とは別物だ。


 つまり、チクリクソ鳥が見ているのは、『俺の魔力反応』であり、『俺の肉体』そのものではないという訳だ。


(後は、闇属性で俺の魔力を遮断――さらに風魔法を反発させて足音を消す)


 サングラスをかけたような薄闇が、俺の周りを覆う。


 赤子らしいドタドタとした足音は、エアクッションのような感触により、完全に無効化された。


「……」


 チクリクソ鳥は、じっと俺の仕上げた偽俺人形を見つめている。


(よしっつ! 迅速に離脱だ!)


 風の魔法でドアの開ける音も無効化しつつ部屋の外に転げ出て、再びドアを閉める。


 ……。


 ……。


 追跡してくる様子はない。


(はっ! これで自由だああああああああああああ!)


 腕を天に掲げてガッツポーズ。


(さて、次は、あの『ねこ』をどうにかするか)


 しばらく、壁に背中を預けて休憩しながら、俺は次の作戦を頭の中で練った。


『いい波乗ってんねー』は某芸人さんのギャグとして有名になりましたね。これはその前に書いたものなのですが。


拙作をお読み頂き、ありがとうございます。

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