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8話 overwhelm-9

 確かに彼女の言うとおりだったが、ここへきてフィーリクスにはある疑問が湧いていた。ヒューゴが自分たちを派遣した本当の意図は何なのか、ということだ。


「何かの手違いじゃないのかい? 悪いけど君とフィーリクスに、今回の敵が倒せるとは思えない」

「僕もそう思うな。ヒューゴに確認を取りたいところだけど、状況が状況じゃ、ね」

「直接会って命令を受けてるのに、間違いがあるわけないでしょ! フィーリクス、二人に言われてるよ? あんたも何か……」


 浮かれていたが、本当に頼りになるからなどという理由ではなく、何か別の理由があるとしたら。それこそ、また囮にでも使われているのではないか。そういう疑念を頭から消し去るには、現時点で十分な反証材料がない。


「フィーリクス?」

「君の相棒、反応ないけど大丈夫か?」


 思えば、ヒューゴは少々上の空なところがなかったか。彼はここにいるメンバーが誰なのかすら、ちゃんと話してはいなかった。その必要はなかったということなのか。


「ヘイ! フィーリクス!!」

「うわっ、何!?」


 上の空なのは自分自身の方だった、と驚きと共に我に返った。それにしても至近距離で大声を出さなくてもいいのに、と恨みがましく真横にいるフェリシティを睨む。彼女に睨み返されて、冷や汗が出た。彼女の目が据わっていたからだ。下まぶたが軽く痙攣している。あれは爆発の兆候だということを、フィーリクスは何度も目の当たりにして学習している。その彼女に対して皮肉気な笑みに顔を歪めているダレンが、仕上げとばかりに挑発ともとれる言葉を発した。


「一人は自意識過剰。もう一人は、妄想癖でもあるのか? 期待薄だね」

「こっ、このぉ、言わせておけば……」

「そこまでにして、もっと有用な情報交換や作戦会議を行いたいんだが、いいか?」


 ヴィンセントが咳払いしながら皆に問いかける。それだけで、場の雰囲気が変わった。フェリシティも怒りをぶつ切りに終了させ黙り込む。セオとダレンも居住まいを正してヴィンセントの次の発言を待っている。フィーリクスも一先ず思考の海から抜け出し、集中することにした。


「よし。改めて言う。フィーリクスとフェリシティが来てくれた。異論もあるだろうが、彼らとて短い期間に、それなりの功績を上げているのは事実だ。戦力としてみなしても問題ないことを、俺が保証する」

「俺もな」


 横からラジーブも相槌を打つ。スペンサーとグレースには特に言いたいことはなさそうだったが、セオ達はそれでもやや不満そうな態度が見られた。黙ったままではあったが。


「次にフィーリクス達に説明することで、俺達を取り巻く状況を整理しよう。いいか……」


 ヴィンセントが、通信が途絶えた後ここで何が起きたのかを語った。一度退却し装備を調えた後、現在も漸次拡大中の冷凍領域に突入したのが二、三時間ほど前。まだドームの面積もそれほど広くなく、いくつかの建物を飲み込む程度だったという。モンスターもすぐに発見し、攻撃を仕掛けた。だが、一切の魔法が通じないという結果に終わった。


「モンスターってどんな奴なの?」


 フェリシティが質問を差し挟む。


「白い毛並みの毛むくじゃらで巨体の相手だ」


 バッテリー残量のこともあり、再度撤退して作戦の練り直しを、と領域の境界面まで下がったとき、外に出られないことに気が付いた。幸いモンスターが彼らを追ってこなかったため、今いる場所に退避して作戦を練っていた、ということだった。そして肝心な部分、残存魔力は各員ともに現在六十パーセントほどに減っている。


「イエティみたいな奴かな」

「毛むくじゃらはともかく、魔法が効かないってどういうこと?」


 フェリシティの言うモンスターの姿かたちもさることながら、懸念すべきはそこだ。そう思っていると、スペンサーが椅子から立ち上がる。フィーリクス達の横にまで近づいた。


「銃もブレードもダメだ。どんな魔法も分解、吸収して冷気に変えてしまう」


 彼は首を振ってフィーリクスの疑問に答える。若干の疲れがそこに見えた。他のメンバーも、同じようなものだ。MBIの持つ武器が効かないのであれば、それも無理はないだろう。


「そんなことって、どうやって倒したら……」

「いっそ物理攻撃だけのほうが効くかもしれないな」


 スペンサーの呟きに、フェリシティが何か閃いたかグーとパーで手を打つ。


「レティを貸し出してでも、スワットの連中に来てもらえばいいじゃない!」

「それを連絡する術は?」


 ダレンが言い放つ。そこには侮蔑の色が含まれている。とはいえ、指摘自体は至極当然のものだ。フェリシティも何か反論しかけたようが、すぐに取りやめる。息を軽く吐いてから、静かに言う。


「ごめん、こっから出られないし通信圏外だもんね。うっかりしてた」

「しっかりしてよ、新人さん」


 ダレンもセオも、実際のフィーリクス達の活躍を見るまでは、態度はあまり変わらないだろう。フィーリクスはそこは諦めて、機が熟して彼らとうまく連携を取れるようになるのを待つしかない、と判断する。フェリシティも肩を震わせているが、なんとか我慢してくれているようだ。その成長具合に感動しながら彼女を見つめた。


「それで、今更だけど何でゾーイがいるんだい」

「それは僕も気になってた」

「あんた達も?」


 セオ達が疑問を呈すると、ゾーイが手短にここへ来た経緯を話した。それを二人は胡散臭げに聞いている。


「信じられないな」

「何か裏の意図があるに違いない」

「今度あんた達の装備に、わざと不具合出る様にしてやる」


 彼女の脅しは覿面だった。二人の顔が見る間に青ざめ、ぬくもりのあるこの部屋で震えだす。フィーリクスが見ていて気の毒になるほどだ。


「ただでさえ、いつも故障しないかって不安に思ってるのに!」

「そんなことされたら死んじゃうって!」

「「ごめんなさい!」」


 ゾーイもここまでとは思っていなかったようだ。怯え切っている二人を前に、さすがに気が引けたらしくフォローに入る。


「そんなに畏まらないでよ、冗談だってば……。言うんじゃなかったね。士気に影響する」

「あの、本当に冗談だけにしてくれよ?」

「ラジーブ! あんたまであたしを疑うわけ!?」

「い、いやぁ、そういうわけじゃないんだが……」


 しどろもどろになるラジーブを見るのも面白かったが、それどころではなくなった。腹に響くような地響きがあった。その原因は、フィーリクス達三人以外は見当が付いているようだ。互いの相棒の顔を見て頷き合っている。フィーリクスも取り敢えずフェリシティを見て頷いてみた。彼女は何のことかさっぱりだ、と言う顔をしてるが、まあそうなるだろう。


「くそ、モンスターめ。ここにきて動き出しやがったか!」


 ラジーブが、ゾーイの尋問をごまかすためもあってか、わざとらしく叫んでみせる。そこにもう一度地響きが起きた。


「まさか、フィーリクス達が来たからってわけじゃないよね?」

「ちょっとセオ、妙な疑いをかけないでよね!!」

「まだ懲りてないのかな?」

「うっ……」


 騒ぎ立てるセオに怒るフェリシティ、責めるゾーイ。


「ゾーイのことじゃないって」

「どうしてスペンサーが焦ってるのよ?」

「とばっちりが恐くてね」


 端から茶々を入れるスペンサーとグレース。


「スペンサーもあたしに何か言いたいことがある、と」

「ほら来た」

「やめなさいスペンサー。ゾーイ、あなたも落ち着いて」


 急変する事態と混迷する会話に場が乱れ始める。それを制したのはまたもやヴィンセントだ。


「言ってる場合じゃない。フィーリクス、フェリシティ。モンスターは初代大統領邸の裏手、川のある方にいるはずだ。皆、行こう!」

「分かった!」

「有効策は分からないけど、やってやる」


 先程から考えていたが、魔法の効かない敵に対処する具体的な方法は思い付かなかった。それでも、じっとしているわけにはいかなくなった以上は、仕方がない。戦いのさなかに有効打を見つける他に道はない。


「ああ、皆。あたしは、後ろの安全な所から見てるからね」

「それが一番ありがたいかも、ゾーイ」


 彼女の提案はフィーリクス始めその場の全員に受け入れられた。少なくとも作戦の一つ、陣形の最後尾は決まったようだ。

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