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7話 rebuild-8

 無事フィーリクスと仲直りできた後、急いでやることがあった。まずは一つ目。ヴィンセントに話があるとかで呼ばれていたのだ。フィーリクスと別れ捜査課へ戻る必要があった。ちょっと話し込み過ぎちゃったけど、ヴィンセントはまだ部屋で待っていてくれた。


「フェリシティ。その様子を見ると、結果は上々のようだ」

「正解よヴィンセント。あなたのおかげでちゃんと話ができた」

「俺は何もしてないぞ」

「背中を押してくれた」

「なら、そういうことにしておくか。つまり、一つ貸しだな」

「うっ、言うんじゃなかった」

「冗談だ」


 未だヴィンセントという人物の性格が掴みきれない。真面目でしっかりしてるようで、意外と抜けてたり、今みたいなよく分からない冗談言ったり。本当に冗談なのかも分かんないけど。


「それで、話って何なの?」

「フィーリクスに話していた夢の中で出てきたモンスターだが」

「それが?」

「心当たりがある」


 以前彼の父親の知人に聞いた話だそうだ。こことは違う大陸出身のその知人が昔住んでいた地域にあった伝承の一つ。その話の中に出てくるあるモンスターが、あたしを襲った奴と似通った特徴を持つ、というのだ。


「一つしかない目を持ち、馬の蹄を備え、犬の頭をした化け物、プソグラフだ。毛皮どころか皮膚がないというのは、聞いたことがなかったが」


 洞窟や地下に隠れ住み、墓を荒らして死体を貪る。鋭い牙で人を襲い、子供を噛み砕き、女性の胸に食らいつくという。


「うぇ、あまり聞いてて気持ちのいい話じゃないね」


 胸を齧るとか、趣味が悪すぎるでしょ。あたしは無意識に胸の辺りを押さえながらヴィンセントの話を聞いていた。


「伝承では、特に弱点らしい弱点はないそうだ。強いて言えば、日光が嫌いなくらいか。にしても、よくそんなマイナーなモンスターを知っていたな」

「いや、知らないよ? だからヴィンセントの話を大人しく聞いてるんだし」

「知ってたら大人しくしないのか」


 う、突っ込まないでよ。あたしは長い話は苦手なんだから。


「それは……、置いといて」

「置いておこう」


 置いとくのね……。いや、ありがたいんだけど。


「フェリシティ。知らないというよりは、忘れているんだと思うぞ。夢に出てくるものは、どこかで見聞きした事柄であることがほとんどだ。本人が覚えていようとなかろうとな」

「そういうもんなの?」

「らしい」


 実際には夢じゃないし、既に三度も奴と戦ってるし、元々は毛皮がちゃんとあったのを、あたしが吹っ飛ばしました、とか言ったらまた話がややこしくなるだろう。話すにしても、全てが終わってからだ。


 二度目三度目は逃げられた。一度目は、あたしの命が危ういところで中断中。実際の時系列的には、その一度目こそが三度目の戦闘で、決着をつけるその瞬間がいつ訪れてもおかしくない状況なのが現状だ。あたしと奴のサシの勝負。日常に戻るため、またフィーリクスの横に並ぶために、奴に勝利しなくっちゃいけない。


「とにかく、情報ありがと!」

「構わんさ。後で話を聞かせてくれればな」

「っ!?」


 どうやら、ヴィンセントはあたしの身に何かが起きていることに気が付いていたようだ。うん、やっぱりベテラン勢は侮れないなぁ。


「分かった!」


 さて、次はラジーブだ。何で彼に頼んだのかは分からない。ヒューゴを説得したとか何とか言ってたような気もする。けど、ラジーブを通じて、ヒューゴにユネックスフィールドを無人にするように交渉を持ち掛けることになってる。ヴィンセントに彼の居場所を聞き、そこへ向かう。場所は地下の訓練室だ。後から来るヴィンセントと模擬戦闘を行う予定だそうだ。


「よう遅かったな、ってフェリシティじゃないか。どうしたんだこんなところで。フィーリクスは?」


 彼は柔軟体操中だった。床に座り込み、入念に体を伸ばしている。彼は柔軟性が高く、戦闘ではアクロバティックな動きが得意だ。質実剛健ともいえる戦い方のヴィンセントととてもいコンビネーションを発揮するんだよね。まだ数えるほど彼の戦いを見た訳じゃないけど、学ぶべきことが多そう。二人の訓練を見てみたいけど、そんな暇はないだろうな。ちょっと残念。


「実は、ラジーブにお願いがあってきたの」

「何だ、改まって? デートのお誘いでもするのか?」

「えーと、何で?」

「素で返されるときついんだが」


 ギャグにしても今のは面白くない。あたしがニコリともしないのがショックだったのか、ラジーブが肩を落として落ち込んだ様子を見せる。


「そんな無下にしなくたっていいのに……」

「冗談はそのくらいにしてもらって。ラジーブ。ユネックスフィールドってスタジアム知ってる?」

「当り前だろ? たまに試合を見に行くしな。俺の贔屓にしてるチームは毎回熱いゲームを見せてくれるんだ!」


 あー、急に元気になる辺り、演技だったのかも。気にしないで正解だった。


「で、そこがどうしたんだ?」

「ヒューゴに掛け合って、今日の昼からそこを無人にしてほしいんだけど」

「さらっととんでもないこと言い出したな」


 呆れたようにため息をついてこちらを見てくる。何ていうか、あたしの正気を疑うかのような感じだ。失礼な。


「何でまたそんなことを?」

「そこに、モンスターが出るのよ。ヴィンセント曰く、プソグラフってやつらしいんだけど」


 なるべく軽く、何事でもないように言ってみたけど。ラジーブは目をすっと細めて真剣な顔つきになる。


「モンスターが? 何故そんなことを知ってる。どこで情報を手に入れたんだ。ヴィンセントがそう言ったのか?」


 口調も急に改まってきりっとしたものに変わる。さすが、こういうところの切り替えが素早いんだよねぇ。


「別にヴィンセントが言ったってわけじゃないのよ。でも、情報の出どころは確かなの。間違いなく奴は現れる」

「奴? まるで既に出会ったかのような言い方をするな」


 こういうところも鋭い。ベテランのヴィンセントの相棒なだけあって、こと事件に関してはラジーブも抜け目はない。


「そういうわけじゃ、……でも、それでどうしてもお願いしたいの。ラジーブならできるんでしょ?」

「本気みたいだな。……確かに、俺ならヒューゴに頼める。最近彼に大きな貸しを一つ作ったからな。でもそのことをよく知ってたな」


 そんなこと、もちろんあたしが知る訳はない。時間を飛ばされる前、彼に電話した時に。彼から直接できると聞いたからだ、なんてどう説明すればいいってのよ。


「はははぁ……、何となく、そんな気がしてたのよね……。お願い、ダメ?」


 ぶりっ子のまねなんていつ以来だろうか。手を合わせてお願いのポーズをする。目を大きく開け潤ませる。相手をじっと見つめると、気になる反応が返ってきた。


「真相を語る気はないけど、お願いはすると。……しょうがない、受けるよ」

「マジ!?」


 分かってはいた。受けてくれることは既に知っていたはずだけど、驚きがあった。あたしのぶりっ子ポーズに効果があっただなんて、思いもよらなかった。


「マジだ」

「ありがとう!」


 あたしは、立ち上がって答えたラジーブに飛びつく。強めにハグをしかけて、すぐに離れた。今度は覚えてる。フィーリクスみたいに窒息させちゃいけないよね。


「ふぅ、やっぱり君はパワフルだな。その、必要以上に」

「そんなつもりはないんだけど、まあよく言われる」

「だろうな、はは」


 そこは否定しなさいよ。もうちょっとでそう言うところをぐっとこらえる。あたしも少しは成長したんじゃないだろうか。


「それじゃ、よろしくね」

「何だ、もう行くのか」

「準備があってね」

「手伝う必要は? そのモンスター、倒す算段はあるんだろうな?」

「もちろんよ」


 ラジーブの問いには即答で返したけど、実のところどうなるかは分からなかった。奴に、『プソグラフ』に組み敷かれた後の時間はまだ訪れていない。その先はこれからなのだから。


 さて、訓練室を後にして、しばらくはお仕事だ。溜まり気味だった書類仕事に取り掛かる。これ以上は時を飛ばされることもなく、順調に時間が流れていった。お昼時になり、あたしはフィーリクスの机の上にメモを書き残し、ランチを手に取って捜査課を後にする。例の会議室の扉に手をかけ開くと一歩踏み出し中に入る。扉を閉めるとまた違う時間、違う場所へ飛んだ。

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