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5話 pierce-8

「次行くよー」


 途中見せた冷酷な気配は薄まり、むしろ無邪気ささえ見せ始めたミアが戦闘継続の意志を通告する。フェリシティもそれに異議はないようだ。


「あの子に一発大きいのぶち込んでやらないと、気が済まないのよね」


 ミアに一撃は入れた。ただダメージがほとんどなかったためか不満が残っているらしい。フェリシティはフィーリクスにそういう意味合いを含む、苛立たしげな顔を向けた。片頬がひくついており、彼女の心持ちを明解に表している。すなわち、我慢の限界だということだ。それらのことがフィーリクスには容易に読み取れた。


「またサポートよろしく」

「オーケー」


 ミアはまだ右腕を粘着弾で拘束されたままにもかかわらず、フェリシティに無造作に歩み寄る。


「腕はいいの?」

「問題ないよ、君達相手なら」

「いちいち頭に来るわね」

「それアーウィンにも言われたことある」

「分かってんのなら直したら」

「何で? これが私の魅力なのに」

「欠点の間違いだって教えてあげるわ」


 二人はもう既に間合いに入っている。顔を突きつけ合わせ、動いた。


 ミアがゆったりとした動作でフェリシティに手を伸ばす。フィーリクスにはそう見えたが、滑らかな動きがそう錯覚させているだけで実際の速度はかなりのものだ。見誤ったのはフィーリクスだけではない。フェリシティもまた若干反応が遅れた。


 ミアの手がフェリシティの右肩に掛かる。思わず左手で掴んだフェリシティは次の瞬間天地を逆に向いていた。注意を肩に向けさせ、足払いを掛けたミアが掴んだ肩と掴まれた腕を利用して、フェリシティの体を回転させながら引き落としたのだ。


「あぐっ」


 背中から地面に叩きつけられ呻くフェリシティに、じっとしている暇はない。容赦のない踏みつけが彼女の顔面に迫っていた。


「むいぃっ!!」


 慌てて転がるとミアの足がフェリシティの頭のすぐそばの地面を陥没させる。フェリシティがさらに転がり攻撃圏内から脱しようとすると、ミアは面白がったのか跳ねるように追いかける。ストンプを連続で入れ地面を破壊し続けた。


 ミアが夢中になっている隙を突いてフィーリクスが銃弾を浴びせていくが、彼女は予見していたのだろう。ぴたりと動きを止め、フィーリクスの放った弾丸は全て彼女の前を通り過ぎたにだけに終わる。とはいえ、フェリシティが体勢を立て直すだけの間は十分にあった。


「助かった!」


 フィーリクスにそう言う彼女は分が悪いのは理解しているはずだ。それでも彼女は果敢にも三度、ミアに挑戦するようだ。


 今度はブレードの長さを若干長くしている。が、あくまでメインは肉弾戦でというつもりらしい。彼女が一足で距離を詰めミアに飛びかかる。


「これは楽しめる!?」


 左から右へブレードを振り、その先端がミアの眼前を奔る。間合いを読んだ彼女の睫毛すれすれを通り過ぎ、間髪入れずフェリシティの左足が顎を捉えにいく。


 伸ばしたブレードの間合いは蹴りと同じぐらいのようだ。超近接状態では勝ち目がないと悟ったか、簡単には近付かれないように牽制の意味合いも込めているらしい。


 それに対してミアは冷静に攻撃を捌く。左肘を使いフェリシティの足を軽く突いてバランスを崩させ、その蹴りが生む風だけを受ける。


「うわっと!」


 軸足がぶれるが持ちこたえるフェリシティに、ミアが仕掛ける。フェリシティがバランスを欠いたまま左拳を突き出すが、ミアはそれを右にかいくぐる。自身の左腕をフェリシティのそれに絡ませ、脇で彼女を掬い投げた。


 フェリシティはまたもや地面に叩きつけられるかと思われたが、空中で身を屈め無理やり半回転するとしゃがみながら足で着地する。


 ブレードの輝きが右下から左上へ抜ける。着地直後にしゃがんだ状態から一気に立ち上がり、右腕を振り上げたのだ。


 ミアは体を反らす。鋭い閃影ではあったがやはり紙一重で身体に触れさせない。


 攻撃は外れたがフェリシティの攻撃は続いている。回転し、振り返りから放たれるのは彼女の右足だ。


 頭上高く振り上げられた踵がミアの頭上に斜めに打ち下ろされる。それは小型モンスターならば一撃で屠るだろう威力を秘めているものだ。


 何かを感じ取ったのか、ミアから笑みが消える。咄嗟に左腕を上げ、ガードの姿勢でフェリシティの踵落としを受ける。


 地面が轟音を立てて揺れ、ひび割れる。ミアが立っている場所だ。フェリシティの蹴りを受けた腕には血管が幾筋も浮き出ている。片腕だけの防御では間に合わなかったようで、腕が頭に接している。だが、受けきった。


 フェリシティは蹴りが決まらなかったのを見るや否やすぐに間合いのすぐ外まで下がる。ミアはそれを追いかけはしなかった。


「くふっ、ふふふふっ」


 彼女に笑みが戻っていた。吊り上げ歪み、僅かに開いた口から笑い声が漏れる。薄ら寒くしかしどこか妖艶な、フィーリクスの背筋を二重の意味でゾクリとさせるものだった。


「今ので何ともないっての!?」


 彼女のその笑みを、嘲笑と受け取ったらしいフェリシティが口をへの字に曲げて抗議にでる。それに目を見開き、眉を上げて意外そうにミアが対応した。


「まさか。ちょっと効いたよ。骨にひび入っちゃったかも」

「骨をやって笑う奴がどこにいるってのよ!」


 落ち着くどころかますます猛るフェリシティを見てフィーリクスは焦る。今のが彼女の全力だったのならば、決め手を一つ失ったことになる。ブレードや魔法弾を当てるしかミアを止める手段はないだろうと想定して動かなくてはならない。


「そんなの問題じゃない。楽しいんだよ!」

「分かんない。ウィッチってわけ分かんない!」

「君に分かってもらいたいわけじゃないんだよねぇ」


 フィーリクスはフェリシティだけではなくディリオンにも加勢しようと試みてはいた。だが両者とも肉弾と刃物による接近戦にこだわるようでなかなか銃撃を入れる間がない状態だった。


「ちょっと、フィーリクス! さっきから全然援護ないんだけどどうなってるのよ!?」


 そんなフィーリクスをふがいないと断じるのはフェリシティだ。ミアへの怒りを転嫁させ、結構な剣幕でフィーリクスに怒鳴りつける。


「それ本気で言ってるの!?」

「本気も本気よ! 命掛かってんのよ!?」

「あれれ、仲間割れはよくないよ、特に今は。そんな余裕ある訳ないよね?」


 それを面白がったミアが人差し指を立て二人の口論に茶々を入れる。


「うっさい!」

「君は口を挟まないでくれ!」


 両者がミアにぴしゃりと言い放つ。ウィッチといえどもこれにはいささか閉口したようだ。一歩下がると指を下げ、急にやる気なさげに表情をだらけたものに変えてしまった。


「萎える……。萎えた」


 ミアのモチベーションが下がったのを見計らい、フィーリクスが出し抜けに銃のトリガーを引いた。


「しまった!」


 放った弾丸の種類はまたしても粘着弾だ。今度は左腕を含めてしっかりとミアの上半身の自由を奪うことに成功する。


「私としたことが! ってところかなぁ」


 諦観の様子で棒立ちになるミアにはまだ余裕がある、とフィーリクスには見えた。


「フィーリクス、あんたこれを狙ってたの?」


 フェリシティが目を丸くしてことの次第を見守る。フィーリクスは彼女に対して笑みを浮かべ頷くと、ミアに接近した。


 彼女に素早くタックルする。彼女が背を向けて倒れ込んだところで、粘着弾を足にも撃つと地面に貼り付ける。更に上半身にももう二発ほど撃ち込み、拘束が完了した。


「なんかしばらくはこのままでいいや」


 当の本人は無気力に言い放つ。急に静かになったのは不気味に感じるものがあったが、彼女に当面動く気がないと見て、ディリオンとアーウィンの戦いの行く末に耳目をそば立てた。

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