表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/152

5話 pierce-1

「来たよ!」

「オーケー!」


 風を切り裂き何かが飛来する。黒い影が二つ、声を発した二人の人物の頭上から襲い来た。攪乱するように上空を旋回した後、それぞれが二人の頭蓋を砕こうと打ち下ろされる。それはジェット噴射により制御された金属の腕だ。


 二人が今いるのはウィルチェスターシティの外れにあるスクラップ置き場だ。周りには家電製品や金属製品などのゴミが堆く積まれて出来た山がいくつもある。普段誰も寄り付かないようなうら寂しい場所でその二人は何かと戦っている。


「おっと!」

「当たらないよーだ!」


 二人ともすんでのところでロケットパンチを躱すと、鋼鉄の拳が舗装されていないむき出しの地面に激突し小さなクレーターを作る。ターゲットを逃したと分かるや否やすぐに両腕各所に設けられた推力偏向ノズルのジェット噴射が始まり、両腕は再び上空へ舞い戻るとそこから真っ直ぐにその持ち主へと戻っていった。


「威力だけは凄いって褒めたげるわ!」

「でもそれだけじゃあ俺たちは倒せない!」


 煌めく金属のボディが唸る。重量のある、頑丈そうな足が音を鳴らして地面を踏みしめた。強化ガラス製の目に黄色い光が灯る。半ばから切断されたように欠けている両腕を前に突き出すと、先程二人を狙った腕がそこへぴたりと収まり接合する。その姿は、幼児向けに作られたテレビ番組で五人組の戦士が悪の組織に対して五体のロボットに乗り込んで合体して戦う、という内容のものに登場するその合体ロボだ。ただし番組内での大きさが数十メートルあるのに比べて、目の前にいるのは体長三メートル程だ。加えて、今現在放映中のものではなく、三シーズンほど前に放映された時に登場したタイプのもので、その名も『フューリアスキング』。なぜそれが分かるのかと言えば、その番組をつぶさにチェックしている者がこの場にいるからだ。


「ギュキーン!」


 そのモンスターの叫び声はある効果音の一種だということを、この場にいる人間二人の内の一人、フィーリクスは知っている。彼こそがその番組を欠かさず見ている本人だった。モンスターはその音と共に戦闘ポーズらしきものを取って二人と対峙する。


「妙な音立ててないで、とっととかかってきなさい!」


 もう一人の人間、フィーリクスの相棒のフェリシティが、相手に指を突きつけそう叫ぶ。


「フェリシティ、あれは妙な音じゃなくて決めポーズの時に出る効果音だよ」

「へ? 何それ、何でそんなこと知ってるのよ」

「あれは毎週末の朝に放映される特撮番組に出てくるロボットなんだ」

「それって子供向けでしょ? そんなの見てるの?」


 小さな驚きの後、彼女が不信感に満ちた表情でフィーリクスを追及する。彼は何か間違ったことでも言っただろうかと、頬がひきつるのを感じた。


「いや、まあ。……見てる」

「あんたって本当お子ちゃまね」

「人の休日の過ごし方に、とやかく言うべきじゃないと思うんだ」


 二人の掛け合いの間に合体ロボ『フューリアスキング』の胸部が開く。音に気付いた二人が見ると、そこにはミサイルランチャーが搭載されており、装填数は六発あるのが確認できた。その瞬間、ミサイルが一斉にフィーリクスとフェリシティの二人を狙って発射される。


「ウォウ!」


 眉を上げ呟くフェリシティは後ろや横には逃げない。むしろ危険と思われる前へと走り攻め込んだ。姿勢を低く、ミサイルの着弾前にくぐり抜ける。


「え、ちょっと! 置いてかないでよ!」


 慌てて後に続くフィーリクスがエネルギーブレードでミサイルを打ち払うと、あらぬ地点へ着弾爆発した。フェリシティが魔法銃を『フューリアスキング』に数発撃ち込み、各パーツを破損させる。ショートを起こしたのか痙攣し、見るからに動きが鈍くなる。隙だらけになったところを、フィーリクスが駆け抜け様に袈裟懸けに切りつけ敵の後ろに抜けた。


「グガァアアアア!」

「さよなら、フューリアスキング」


 合体ロボは番組のシーズン最終回で破壊された時と同じ断末魔を上げながら爆発し消滅する。フィーリクスは振り返ることなくブレードを収めた。


「やったね!」


 駆け寄ってきたフェリシティとハイタッチを決めた。フィーリクスはモンスターが消えた場所を見つめる。地面には使い古され捨てられたと思しき、戦っていた相手と同形状の子供向け玩具が落ちていた。


「ジェムはなし、と。本部に帰りましょ」

「ああ、一件落着だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ