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4話 capture-10

 戦闘準備の必要があった。インベントリからボディアーマーを選択する。装着と端末のセットはアーマーの出現と同時で手間はない。技術部のゾーイが端末のソフトウェアをアップデートしたおかげだった。


「村で会った子供に聞いたんだ。大人たちや友達がおかしくなってるって。このことだったんだ。無事だといいけど」

「あたしまであっけなくやられちゃったのは反省してる」

「俺のせいだよ、本当にごめん」

「着信を無音設定にしなかったあたしが不用意だったのよ」


 会話をしながら身体強化魔法の用意をし、武器を何に決めようか相談している最中だった。ドアがノックされる。今度は施錠していたので急に入られる心配はない。


「誰だろ。ディーナはイヴリンの家だし、管理人さんかな」

「開けてください。そちらにフェリシティさんがいらしていませんか。落とし物をされていたようなので届けに来たんですが」

「落とし物?」


 フィーリクスが聞くが、フェリシティは首を横に振るばかりだ。そもそも、声の主は管理人ではなかった。


「誰だろう、あたしの名前を知ってるなんて。この村で知ってるのは、ディーナとイヴリンと大家さん、管理人にあんたと、それとあたし自身」

「君が操られてるときに誰かに喋ったのかも」

「それは、ありえる。そして、だとしたら相手は敵よ」

「ああ」


 フィーリクス達が反応しないためか、再びドアがノックされた。先程よりも少し強めにだ。それでも返事を返さないでいると、三度目のノック。激しく叩きつけるようなものに変わる。それはフィーリクスとフェリシティの二人を驚かせるのに十分な勢いだった。


「うぇえ、乱暴過ぎでしょ……」

「かなり怒ってるみたいね……」


 ノックというよりはもはやドアを叩き破ろうとしているかのようだ。いや、ようではなく実際にドアが軋み、歪み、まさに破られようとしている。加えて窓を叩く者もいるようで、こちらはすぐにガラスが割れ、隙間から腕が伸びる。カギを開け窓をスライドさせた。


「保安官事務所にいた!」

「トニー! ともう一人の人!」


 相次いで窓から入ってきたのは保安官のランディと共に事務所にいた、若い男女二人の警官だ。ドアの方もついに破られ、村の住人と思しき男性が姿を見せる。その後ろにも二人控えていたようで、合わせて三名の男性が入ってきた。


「ん、……あたしが後をつけてた連中よ!」

「そうか。……やあ、みんな。こんな時間にどうしたの? 何かあったのかな、ちょっと乱暴な入室だけど。それに、許可してないし……」


 侵入者達はフィーリクスの話を聞いているようには見えなかった。表情はなく、手には例の石を持って二人ににじり寄る。狭い室内に計七名の人間がいる状態だ。



「なるほど、これは少々まずい事態になったかな」

「みたいね。ちゃっちゃと蹴散らしますか」

「いやいや、みんなモンスターに操られてるだけだよ。なるべく怪我はさせたくないな」

「んー、頑張る」


 言うが早いかフェリシティが前に出る。距離の近い方、窓際にいたトニーに肉薄すると拳をみぞおちに叩きこんだ。トニーはその衝撃に体がくの字に曲がる。


「言ったそばから……、ん?」


 フェリシティにいい一撃をもらい、そのまま倒れて悶絶するかと思われたトニーが持ち直し、彼女に襲い掛かる。突きのスピードから見ても、決して緩くは打ってなかったはずだった。


「フェリシティ、言い忘れてた。君に襲われた時、君は尋常じゃない力を出してた。リミッターが外れてるんだ」

「そういうのは! 早く! 言ってよね!」


 掴み掛ろうとするトニーの腕をかいくぐりながらのフェリシティの返答は、途切れ途切れのものだ。そこに女性警官も加わり、捌き切れなくなったフェリシティは身体強化を使用したようで、動きが急に変わった。素早く女性警官の後ろに回り込み、彼女の背をトンと軽く押したように見えた。その動きで彼女が吹っ飛び、トニーを巻き込んで床に転がる。だが即座に平然と立ち上がった二人は再びフェリシティに向かっていく。


「このくらいじゃダメか。人間の可能性を思い知らされるわね」

「何言ってるんだよ」


 ドアから入ってきた男達がフィーリクスに向かってくる。真っすぐ突っ込んできた男がフィーリクスの頭を掴もうと手を伸ばす。それをかいくぐり肩でタックルを食らわせると、後ろにいた男もろとも壁に激突させる。二名が床に落ちる前にもう一人の男に急接近し、みぞおちへ掌底打を、顎へ拳を掠めるような脳を揺さぶる一撃を、間を置かずに加えると男は床に倒れ込んだ。


「まずは一人! ……っていきたいんだけど、大丈夫だよね?」


 震える声で言う。脳震盪を起こし、気を失わせたはずの男はしかし、白目をむきながら未だ体を蠢かせて立ち上がろうとし、失敗している。モンスターからの指令をうまく身体に伝達できていないためであろうと思われた。


「気持ち悪いって……」


 異様な光景だがすぐの復活はないと捉えたフィーリクスは、もう二人の方へと注意を向ける。こちらは床に落ちてすぐに起き上がり再度フィーリクスへ踊りかかる。左右に分かれタイミングをずらしての接近は本人の記憶を使っているのか、それともモンスターの本能か、などと考えながらフィーリクスは交差するように突き出される男二人の腕を躱す。


「仕方ない」


 半端な攻撃では無力化できないと悟ったフィーリクスは左側の男の側面、男から見れば右側へと高速移動する。男の振り返りざまに一人目と同様斜め方向からの顎への一撃を入れ、昏倒させた。床に転がった男はびくびく痙攣しながら何かを掴もうと手を開閉させているが、起き上がる様子はない。


「もう一人!」


 残った男は方法を変えることなくフィーリクスに挑みかかる。これも素早く相手の懐に潜り込み、突き上げるように放った掌底で頭を揺らすと床に崩れ落ちた。三人目もまだもがいているが、それだけだ。その様を鋭く観察するフィーリクスにフェリシティの声がかかる。


「自分で言っておいて、結構ひどい倒し方してない?」

「いい気分はしないよ」


 見ればフェリシティの方も警官を伸したようだ。二人とも床でぴくぴく痙攣し、それでもなお足をばたつかせている。


「フェリシティ……」

「フィーリクスと同じくらいのダメージだよ! 蹴りは使ってないし。……フィーリクス後ろ!」


 最初に倒した男が起き上がっていた。足取りは安定していないが、最低限の回復でまた動けるようになったらしい。


「げっ! まだ起き上がってくるのか!?」

「うー、どうすれば……」


 二人は呻く。これ以上強い攻撃は本人達の肉体に相当なダメージを与えてしまう。かといって手を緩めればすぐにまた襲われる。


「あ、そうだ。これは?」


 フィーリクスは魔法銃を取り出しあるジェムをセットする。


「こんな時に丁度いいのがある」

「ちょっとフィーリクス! 銃なんて!」


 フェリシティが慌てて止めようとフィーリクスに駆け寄るが、ためらいなく男に向けて銃弾を放った。それは男の脚部に着弾すると白く粘つく物体が展開し、男を床に貼り付けた。


「粘着弾!」


 フィーリクスのそばで立ち止まったフェリシティが叫ぶ。フィーリクスの頬にプニと何かが当たる。彼女の拳がフィーリクスの顔に突き出されていた。殴ってでも止めようということだったらしい。


「拳が止まってくれてよかった。……いや、あの、これは……。フィーリクスを信用してなかったわけじゃないんだけど」

「そんなこと言ってる暇はないみたいだよ!」


 しどろもどろのフェリシティだったが、起き上がってくる襲撃者達に彼女も銃を構えると、二人で次々と粘着弾を撃ち込み床に、あるいは壁に貼り付けて動きを止める。


「とにかくここを出よう」

「ええ、そのほうがよさそう。精神衛生的に」


 粘着物質に捕らえられ、床や壁に貼り付けられた幾人もの人間が無表情で蠢く様は、確かに見ていて気持ちのいいものではない。


「まるで巨大なゴキブ……」

「それ以上は言わないで」


 コメントをフェリシティに遮られたがフィーリクスだが、それで正解かもしれないと改めて部屋の惨状を見回した。取り合えずの危機は去ったようだ。


「とにかく行こうか」

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