3話 invisible-4
フィーリクスはすぐにアラートの中身を確認する。操作をする指は、震えていた。なぜなら左右をフェリシティとヒューゴの顔に挟まれ彼のそれが縦に潰れた状態だからだ。
「く、くるしい。息、……息できない」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
「そんなこと言ってる場合か!」
フィーリクスはなぜ怒られるの理解できないまま、酸欠気味の頭で端末の画面を見る。アラートは三件。敵は三体。敵の概要としては、そのどれもが不可解な内容を記していた。
「住宅街において何者かによる家屋や車の器物損壊、突然の衝撃による転倒での怪我などの人的被害あり。モンスターの目撃者なし。誰もモンスターの姿を見ていない」
「二件目は?」
フェリシティがより強くフィーリクスを押す。
「高級ブティックが建ち並ぶショッピングストリートで店のショーウィンドウが立て続けに割られ、店内も相当な被害を受け店員も数名が負傷。モンスターの目撃情報なし。これもだ」
「三件目だ」
今度はヒューゴが圧力を増す。フィーリクスよくこの状態で話せるものだと自身に感心した。
「これもどこかの店かな、ええと食料品店を荒らす何者かと店主が遭遇。姿は見えず、次々と商品が消えていく事案が発生。直後に何かに店外に跳ね飛ばされ近くにいた通行人に介抱されて通報」
フィーリクスが三件とも事件の概要を読み上げ、三人はようやく距離を取ると顔を見合わせた。従来のモンスターではあり得ない事件報告だったからだ。
「ねぇちょっと、これどうなってんの!?」
まず声を発したのはフェリシティだ。彼女はそもそもバスターズとしてのキャリアがいくらかあり、MBIへ入ってからもある程度モンスターのデータベースにアクセスしてフィーリクスと共に学んでいた。
「位置はすべてバラバラで、距離もある。時間的に考えても単独の敵による襲撃とは考えにくい」
ヒューゴは言わずもがな魔法捜査部部長であり、フィーリクスには彼が相当な経験を積んでいるものと思われた。フィーリクスはヒューゴの言葉の意味するであろうことを口に出す。
「同タイプのモンスターが三体もいるってこと!?」
「それはまだ分からん。もしかすると人間の犯行の可能性もある。今各現場に一番近いチームにそれぞれ向かうように指示を出す。彼らの報告を待とう」
ヒューゴは持っていた自身の持つ大きめの端末に何かしらの操作をする。彼は通話機能を立ち上げ、各チームとの一斉通信を確立させたようだ。
「各自に告ぐ。みんなもうアラームの内容は知ってるな? ヴィンセントとラジーブは北西の住宅街へ、ディリオンとキーネンは南西のショッピングストリートへ。ニコとエイジは南東の食料品店へ向かってくれ」
「「了解!!」」
エージェント達の返事を聞くとヒューゴは通信を切った。次にマップを開き、現在の状況を表示させている。それを見たフィーリクスとフェリシティは立ち上がると彼ににじり寄り、飛びつく。今度はヒューゴが二人に挟まれて唸った。
「むぐ、君らは自分の端末を見ろ」
「ヒューゴの端末の方が大きくて見やすいじゃない、ずるい!」
「情報共有は大事だよ」
各現場に緑の三角でマーキングがなされており、近くの三つの光点がそれぞれを目指して地図上を移動しているのが見て取れる。一つはMBI近くの川沿いの道を伝って北西方向に広がる住宅街の一角へ。一つは同じくMBIから南西方向、ショッピングストリートのある場所へ。もう一つは南東の、川の支流の一つを超え更に南下した場所にある食料品店へ。
「どちらにせよウィッチが関わっている可能性は高いだろうな。うまく手掛かりが掴めればいいが」
「それよ! あたし達の冤罪を晴らすためにも絶対に犯人を捕まえてやるんだから! ……その、同僚がだけど」
「その意気だ。ところでいい加減離れてくれないか」
フェリシティの尻すぼみの宣言にヒューゴが鷹揚に頷く。フィーリクスは後ろへと一歩離れ、二人に背を向けこっそりと自身の端末のマップを開いた。使うのは入手したばかりの新機能、モンスターを発見し地図上に表示するモジュールだ。彼は地図のフィルターの一つにあったそれ用のレイヤーを重ねる。
「味方が青丸、赤い四角のマークがモンスター、と。凄いや」
赤四角と緑三角のマークとのずれはほとんどない。表示されている敵マークの位置が正確ならば、敵は初期位置から大して動いていないようだ。このまま同僚たちが現場へ赴けば敵に出会えるだろうとフィーリクスは予測する。
「フィーリクス、何やってんの? 地図見ないの? あっ」
フェリシティはヒューゴのマップを見ないフィーリクスを不思議に思い、それを思い出したようだ。急いで振り返り、フィーリクスの端末に顔を突っ込むようにして占領する。彼からはフェリシティの後頭部しか見えない。フィーリクスは眉をひそめて端末を引っ張るが、動かない。フェリシティががっちりとホールドしているものらしく、逆に奪い取られてしまった。
「ちょっとフェリシティ、返してくれよ」
「ワオ! これ凄いじゃない! こっちの赤色がモンスターよね! おお、拡大したら少し動いてるのが分かる!」
「まずい」
彼女は内緒だと言ったことまでは思い出さなかったらしい。ヒューゴの目の前でそういうことを喋ればどうなるか、少し冷静になれば分かることだ。
「何がまずいんだ? ゾーイの新装備をちょろまかしたのがそんなにまずいのか?」
「ばれるよね。いや、そ、そうじゃないんだヒューゴ。これは何ていうかその、はは」
「おわぉお!」
ヒューゴはフェリシティの襟首を掴むと顔の高さまで彼女を持ち上げる。吊られる形となった彼女とフィーリクスを交互に睨みつけ、怒りの形相で再び唸った。彼はフィーリクスの予想通り、何を隠し持っていたのか見当がついていたようだ。
「聞いてヒューゴ! これは、ゾーイから新人へのお祝いとして使っていいって言われて預かってたんだよ。それを今思い出したんだ」
「ほう、じゃ何か? 現場へ出もしないのにモンスターの位置情報を得られる重要な装備を独占し、持て余しているというわけか」
ヒューゴはフェリシティが齧りついていた端末を取り上げ中身をチェックする。彼女は残念そうに手を伸ばすがお構いなしだ。
「などと今言っても始まらんか。ほう、これは凄いな。ゾーイのやつ、完成させたんだな」
「それのこと知ってたの?」
フェリシティを床に降ろしたヒューゴはあっさりと怒りを消し去る。腕組みをして彼女の質問に答えた。
「発案段階のころから知っている。開発に当たって最初にゾーイに質問を幾つか受けたからな」
「そうだったの、ごめんなさい。全てフィーリクスがやったことなのよ」
「フェリシティ!? いや、確かにそうだけど」
フェリシティの突然の裏切りに驚いたフィーリクスだが、事実であるため彼も強くは出られない。
「今はそのことに関しては問わん。取り敢えずはことの成り行きを見守るだけだ」
味方を現す三つの光点は程なくして、それぞれ三か所のモンスターの位置を示す光点と重なった。




