表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
152/152

10話 equilibrium-30 再びフェリシティ

 ポータルを抜け、あたしはフィーリクスとゾーイと共に、無事に元の世界へと帰還を果たした。数日間の異世界旅行は終わりを迎え、ほっとしたのも束の間。めでたしめでたしとはならなかったんだよ、これが。


「さて、フェリシティ。君がいない間に、こっちはちょっと大変な事態になってるんだ」

「どうしたの? そんな深刻そうな顔しちゃってさ」

「聞いたら君もこんな顔になるよ」


 到着早々、ゾーイが用事があるからって言ってさ。あたし達は研究室から締め出されちゃった。閉じられた扉の前で、何を始めるのか疑問に思う暇もなく。今度はフィーリクスが真剣な様子であたしに迫ってきたんだよね。


「この街の全域が、ウィッチの生み出した例の領域に包まれたんだ」

「は?」


 彼の発言内容をかみ砕くのに、少し時間がかかった。どれくらいかっていうと、フィーリクスが心配して顔を覗き込んだり目の前で手を振ったりして、反応のなさに一回諦めるくらい。次に彼が手を伸ばしてきたのを反射的に掴み、驚かせたのも構わずあたしは叫んだ。理解したときのあたしの驚きの方が圧倒的に上だろうし。


「ちょっと! それってめちゃくちゃヤバいんじゃないの!?」

「君の力が必要だ。これからもMBIで戦ってくれるかい?」


 両肩を彼に掴まれる。なんて答えるか、そんなのもう決まってる。


「当たり前でしょ! バンバンモンスターやウィッチどもをやっつけてやる!」

「はは、頼もしいな」


 彼の笑いにどこか、力なさげなところがあるように見える。そういえば、少しやつれてる。この数日間、ずっと心配してくれてたんだね。でも、彼の様子は、それだけじゃないような気がする。もう一つ何か別の、とても疲れてるような。


「フェリシティ。君に許してほしいことが二つあるんだ」

「何よ、改まって」

「一つは君を守るって決めてたのに、大変な目に遭わせちゃったこと」

「そんなこと? それなら許しは最初からここにあるよ」


 何だ、そんなことだったのね。そんなの、まるで問題じゃない。


「同じ状況なら、同じことをしてたよ。あたしもあんたと同じことを思ってたから。最大限あんたの力になりたいってね」


 彼はあたしがポータルに飲まれたあの結果を、あたしがどうにか悪い方向に捉えてるって思ってたみたい。それもこれで解消された、と。


「で、もう一つの方は?」

「凄く言いにくいことなんだけどさ」

「今更だよ? 何でも言ってよ」


 これ以上に大きな問題はぶつけてこないでしょ。そう思って頭の後ろで両手を組む。


「俺と君とのコンビは、今日限りなんだ」

「は? はは、何冗談言ってんのよ」


 組んだ腕がずり落ちる。あー、うん。本当笑えないこと言ってくれるね。そう返そうとして、あたしの後ろに誰かが立ったのに気が付く。


「残念ながら冗談なんかじゃない」

「ヒューゴまでそんなおふざけに乗るなんて。二人とも、人が悪いにもほどがあるよ」


 MBI捜査部部長のヒューゴだ。いつにも増して仏頂面のあたしのボスまでもが、フィーリクスの悪い冗談に付き合ってる。……あ、あれ、二人とも、早く笑って嘘だったって言ってよ。なんで真面目な顔のままなのよ。お願いだから、早く。


「ごめんよフェリシティ。本当にごめん」

「彼は反逆罪が適用され、今から『処理』される。記憶を消され、別人として生きることになっている。これは決定事項だ」


 ヒューゴは口を閉じ、フィーリクスもそれ以上何も言わない。あたしも、何を言い返せばいいのか分からずに、沈黙が三人のいる空間を支配する。ただただ、ヒューゴの言葉が頭の中で何度も何度も繰り返される。その時のあたしの気持ちをうまく言い表す言葉が、すぐには見つからなかった。


今回で第十話終了・第一幕終了となります。

第二幕以降の投稿が未定のため、ここで一旦完結といたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ