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10話 equilibrium-20

「さて、ヴィンセント達はどうするのかな?」


 あたしとフィーリクスは観客であることに徹していた。戦いの場からやや距離を開け、ことの成り行きを見守っている。


「呑気だね。いいの? 加勢しなくて」


 新たに現れた二体のモッダー。それぞれバイクと、大型犬に化けていたらしい。ミサイルを撃ったのはバイク型。車体後方に積載しているミサイルポッドからだ。前輪付近にも小型の機銃が二丁確認できるね。足はなく、タイヤをそのまま生かした高速機動でSRBエージェント達を攪乱している。


「いいんじゃない?」

「どうして?」


 犬の方は、毛皮はあるものの、所々でマシンであることを強調するかのように、その身に有する武装をちらつかせている。具体的には、各脚部に備わったブレードに、口から覗くレーザー砲。爪も牙も金属製だ。全身刃物で簡単には接近戦を許さない。それらとは別に、首輪付きなのが見て取れた。ということは、今まで犬としてどこかで飼われていたのかもしれない。だとして、元々の生身の犬がどうなったのかは、あまり考えたくないかも。


「彼等が大人しくしとけと言ってたでしょ? なら、応援を請われるまでほっとくよ」


 彼等の戦いは拮抗しているように見える。SRBがやや優勢かな。ま、大丈夫でしょ。


「いやそうじゃなくて……、フェリシティ、あれ!」

「ええ」


 と、ここで敵勢力に更なる援軍が現れた。交差点脇に設置されていた、金属製の樽のようなゴミ箱が変形して人型ロボットになり、よく分からないポーズを取る。その近くにあった植木鉢に、蛇腹の足が数本生え、潅木を生やしたまま走り回る。近くの建物の地下駐車場入り口に置かれていた三角コーンが、その先端をドリルに変えてモグラ型モッダーとなり、地下に潜る。


「あれ、何だろう、ちょっとヤバい気がしてきた」

「ちょっとどころじゃないよ!」


 フィーリクスの突っ込みももっともね。何かがおかしい。ふとそんな気がした。敵の増援は止まらない。とある建物のガラスを突き破り、猛禽類型のノートパソコンモッダーが来る。勢い鋭くヴィンセントの眼球を狙い、紙一重でブレードで弾いて事なきを得る。


「オーゥ」

「フェリシティ?」


 どこかの店舗の丸い吊り下げ看板が、ギザギザとした鋸のような刃を飛び出させてチャクラムよろしく三人を狙う。道路に生えている赤い柔らかい棒、ラバーポールが、ムカデのごとく多数の足を獲得し、地面を這いずり回る。内に牙がびっしりと並んだ円形の口を持ったそいつが、ラジーブに齧りつこうと飛び掛かり、彼が慌てて飛びのいた。


「まだ集まってる……」


 他にも多数、小型から中型のモッダーがどこからか湧いてきて、襲撃に参加する。ここ近年、モッダーの出現頻度は低くなっていってるんじゃなかったっけ。それがどうよ。まるでこれから仮装パーティでも開こうとしているかのように、いろんなタイプの連中が続々と集結しつつある。


 というかこの状況、マジでどうなってるの。「モッダーがそこかしこに潜伏している中で、人類は仮初めの平和を味わっているに過ぎなかったのだ!」って感じに思える。


「フェリシティ、そんなこと言ってないで、彼等を助けないと! 時間がなくなってきてるよ!?」


 ありゃ、口に出てたか。ってそうだった。そう時間よ! 忘れてたわけじゃないからね。うん、SRBが押され始めてるね。モッダー達の形勢逆転となるか。負けはしないと思う、のではあるが、とっとと倒さないと間に合わなくなる恐れが出てきた。ただ、あんまり気が進まないなぁ。あたしにひどいことした連中だし。


「なんて言ってられないか。しょうがない、行ってくる」

「気をつけて!」


 さぁ、あたしの出番よ。手始めに手負いだった三色目玉野郎にまっすぐ突っ込む。初速からトップスピードで駆け抜け、反応させる間を与えなかった。細い胴体を、上から下まで綺麗に縦真っ二つに断ち切ったのだ。蜘蛛タイプとの戦闘の反省から、出力は惜しまず全力でいったら斬れた。硬いのは相変わらずだけど、要はコツね。


「おしっ!」

「おしっ! じゃねぇぞ! 何勝手に暴れてやがんだ!」


 信号機モッダーは切断面から火を噴きながら二つに分かれて倒れこむ。それには脇目もふらず、ジェット噴射により高速で飛び来るテープカッターを撃ち落とす。後ろのクライヴからのヤジに答えようとして、「どわぁ!!」直後に大群で飛来した文具モッダーの群に驚いてしゃがみこんだ。


「あっぶな……。あんたのせいで、怪我するとこだったじゃない!」

「俺のせいかよ!? ……ちっ、今は言ってられねぇか。やってくれ」

「言われなくても」


 無事やり過ごし、数匹をまとめて撃墜する。戦果に満足してはいられない。敵の攻めの手は緩まない。突進してくるゴミ箱君を跳び箱代わりに飛び越える。


 着地した先にいたのは、ずんぐりした体型の自動販売機モッダーだ。交差点脇にある消防署の入口横に、二台設置されていたうちの一台が動き出したらしい。そいつは動きは鈍かった。横を向いてたのが、こっちにゆっくりと振り向いて。何の前触れもなく、しかし嫌な予感だけはあった。そいつはその取り出し口から、ドリンク缶を銃弾代わりに次々と撃ち出してくる。あたしも近くにいたクライヴも、仲良くみっともないダンスを踊る羽目になる。


「あっはは! 変な顔!」

「てめぇもだろうが!」


 思わずクライブの滑稽な様子に笑ってしまう。とはいえ、この程度であたしを葬ろうってんなら甘いね。動きが鈍く、図体は大きい。ただの的だね。二、三発火炎弾を放って、それで自販機モッダーは沈黙した。とその時、視界の端にチカッと光るものを捉える。これまた嫌な予感がして、反射的に仰け反る。今まであたしの頭があった空間上に光線が走った。


「ちょっと! ふざけてんの!?」


 あたしが怒った理由。それはそのビームを放ったのが、モッダーではなく人だったから。


「誤射にしても今のはヤバかったよ!?」


 ヴィンセントがあたしに向けて銃を撃った張本人。まさかモッダーと見間違えた、とか言い訳しないでしょうね。あたしは戦闘を続けながら彼に注意を向ける。謝罪の言葉をもらわないと引き下がらないつもりだからね。と思ってたのに彼からの反応が全くない。僅かな隙を窺い、彼のいる方へ目をやれば、一対一で吊り看板とやりあっているところだった。


「ん?」


 ラジーブを見る。彼もゴミ箱や犬と交戦中だ。ただ何か、この戦いの場の雰囲気が妙な気がした。何かがおかしい。違和感の正体は何だろう。って考えてる暇を敵は与えてくれない。バイクモッダーがあちこちにミサイルをばらまいて、再び視界がゼロになる。


「ぅわっ!?」


 煙を裂いてあたしに攻撃を仕掛けるものがあった。紙一重でブレードでその一撃を受ける。後一歩遅かったら顔面を斬られてたところだった。そして、それはもう言い訳のできない決定的なことが起きた瞬間でもある。


「このっ、またあんたなの!?」


 彼のビームソードとあたしのブレードがぶつかり合う。反発しながらの競り合いだ。押し切った後、距離を取って彼と対峙する。何の言い訳か、それは本人の口から語ってもらおうか。場合によっては、倒すことも厭わないつもりだ。そう考えながら、あたしは叫んだ。


「どういうつもりよ! ねぇ、ヴィンセント!!」

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